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心に宿る鬼  作者: めぐみ犬之介
第四章
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「お前ら、どうする?」池田の声が聞こえた。

 誰も返事をしない。互いに様子を伺っているのだ。

 俺はもう一度、全員の位置関係を頭の中で確かめた。


 不二雄「1」→水谷「2」→池田「3」→葵「4」→神谷「5」→不二雄「1」


 このとおりだ。

 俺は葵に撃たれ、俺は不二雄を撃つ。

「鬼がもしも一人しか残っていないなら、鬼は実弾の銃を使えないと思うが……」

 池田がそう言った。

 俺は意味を考えてみた。

 実弾が入った銃を使えば、間違いなく鬼だということが発覚する。次回の投票時、脱落者として確実に選ばれるだろう。

 池田が言い方を少し変えると、鬼がその行為に及ぶのは、鬼が二人残っている場合だ、とも言える。

 あと一人死ねば、全員の人数は四人になる。鬼が二人残っていれば、鬼と子の数が同じになり、鬼の勝利としてゲーム終了する。それを狙った鬼が実弾の入った銃を使うかもしれない。こういうことだろうか。

「俺は棄権するぜ」今度は不二雄の声が聞こえた。「神谷と葵が残りの鬼だってことも考えられるし」不二雄は最初に部屋に入ったが、全員の位置関係は把握しているらしい。声が聞こえたからだろう。

「棄権すれば、また一人死ぬんだぞ」と池田が声を荒げた。

「そうは言ってもなあ。もう棄権を押しちまったし……」と不二雄が答える。

「全員で棄権をしましょう。わざわざ棄権を犯す必要はありません。わたしはもう、次に誰に投票するか決めてますから」

 葵の声が続く。葵は多分、池田のことを言っているのだと思う。

「俺は悪いが参加を押すぜ。ここで鬼が弾の入った銃を使うとは思えない。それに次の投票の件もある。一人でも棄権を押せばゲームは中止だが、投票は、棄権を押したやつから選ばれる」

 そうだ。そうだった。

 もしも棄権をしたものが一人しかいなければ、次の脱落者は、自動的にその者になる。

「誰が棄権しても構わんが、俺は参加を押すぜ」

 池田の声に続けて、だん、とテーブルを叩いたような音が響いた。池田がスイッチを強く叩いたのだろう。

「……鬼だからですよね。ここで参加を押すなんて。そうとしか思えない」

 池田に撃たれるのは葵だ。彼女は池田を鬼だと思ってる。池田に殺されると思っているかもしれない。

 しばらく、沈黙が続いた。

 池田が参加を決めた。他の全員が棄権をしても、池田は投票されない権利がある。

 葵の言ったとおり、鬼はこのゲームに参加するのに何の躊躇もない。死ぬ心配をしないでいいのだ。ゲームが中止になったとしても、次の投票では選ばれない。

 あまりにも鬼に有利すぎるルールだ。

 棄権をしたところで、結局、鬼は死なない。また無駄に誰かが死ぬことになる。それならば、せめて鬼の正体を探る為に参加した方がいいのではないか。

 それに、誰かが棄権を押してくれれば、危険なゲームをしないで済む上に、自分は安全を確保できる――。

 俺は自らの薄汚い打算に内心反吐を吐きつつ、参加である黄色いスイッチをゆっくりと押した。

 プツン、と音がする。

「――さて、全員のスイッチが押されました」

 タイミングを考えると、俺が最後に押したのかもしれない。

「――全員、参加を決めました。第六ゲームを続けます。どちらかの箱から銃を取り出してください。なお、このボックスは一度出てしまうと、もう二度と入ることはできません。必ず、銃を取り出してからボックスを出てください」

 俺は白い箱の蓋を開いた。

 黒々とした無骨な拳銃が、箱の中に置いてある。持ってみると、想像したよりもかなり重たかった。この銃は弾が入っていないはずだ。なのに、その銃を持った手は小刻みに震えている。白い照明に照らされて、艶のある黒い金属の部分が、揺れているように見えた。

 俺は銃を間違っても落とさないように強く握り、ボックスを出た。

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