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心に宿る鬼  作者: めぐみ犬之介
第四章
37/52

   2


 ――神谷――池田――かおり――恵美子――水谷――不二雄――葵――神谷


 このような形で手を繋ぐことを提案した。

 俺の隣は池田、葵である。

 鬼同士が隣り合わなければ、このゲームは成功する。その特性を踏まえた上で作った組み合わせだ。

「どうしてこの組み合わせなんだ」

 池田が訊いた。

 迷ったが、俺は話すことにした。

「正直に言おうか。俺はイケピーを疑ってる」

 現時点で、一番鬼の可能性が高いのは池田だ。理由は、ボックスのゲームの時の出来事である。田村と池田は互いにそちらが鬼だと主張した。つまり、どちらかが嘘をついている、鬼であるということだ。そうじゃなければ、あんなことにはならない。

 単純に可能性だけで言えば、2/11または3/11から、1/2になったと言える。

 その池田を、初回の投票で裕太と並んだ――鬼である可能性が低い――俺とかおりで挟む。そういう考えに基づいてのものだ。

 それを伝えると、池田はしばらく考え込んだ。無表情のまま、俺たちの足跡で赤茶色に汚れた床をじっと見つめる。

 やがてハッとした顔で目を見開いた。「そうか……そうだったのか……俺は……」

 わなわなと唇を震わせた。瞼がひくひくと痙攣している。何かを堪えているような顔だった。

「……今、気がついたことがある」神妙な顔つきだった。

 黙って待っていると、池田は言葉を続けた。

「俺から見ればタムが鬼であることが分かってる」

「……ああ。それで?」

「今さら言うのもおかしいが、真世は鬼じゃなかった」

「え……?」

 意外な言葉だった。意味を探るために、あの時の並び順を頭に思い描く。


 水谷『→』 かおり『→↓』 真世『↓』 不二雄『←↓』 恵美子『←』

 葵 『→』 神谷 『→』  田村『→』 池田 『←』  恵子 『←』


「あの時、俺視点ではタムが鬼だった。だから俺にしてみたら真世は鬼じゃなかったんだ。真世が鬼だったら、真世はタムを庇っていたはずだからな」

 ――たしかに。俺は頷く。

「逆に俺が鬼だったとしよう。さっき俺は、真世を……、……殺した。だからな、俺が鬼だったとしても真世は鬼じゃなかったんだ」

 殺した、という時、池田は眉をハの字に歪めた。それから、悔しそうに唇を噛んだ。先ほど真世へ誘導したことを悔やんでいるのが容易に想像できた。

「意味が分かるか」

 池田は俺だけではなく、全員を見ている。

「タムが鬼でも、イケピーが鬼でも、真世は嘘をついていない?」と不二雄。

 池田は大きく頷いた。「そうだ。さっき神谷が言ったよな。俺かタム、どっちかが間違いなく鬼だって」

 そうだ。どちらかが嘘をついていなければ、あんな事にはならない。

「俺かタムのどっちが鬼でも、真世は嘘をついていなかったことになる。そして真世はタムを庇わなかった。つまり――タムは鬼だったことが確定する」

 俺は戦慄した。背中にゾッと電流が走る。

「ちょっと待ってください」

 葵が一歩前に出た。 

 あの時、葵と池田が言い争いをしていたのを瞬間的に思い出した。

「池田さんが言っていることは絶対ではありません」

「え? どういうことだ」不二雄が訪ねる。

「これは単なるゲームではありません。命が掛かったゲームです。自分の命の為に、あえて仲間の鬼を殺すことだって十分ありえる」葵は池田を睨みつけた。「……さっきあなたが言ったこと、本当にたった今気がついたんですか? もしかして、最初から計算してたんじゃないですか?」

 葵の言った言葉を理解するのに、数秒掛かった。

 つまり、こういうことだ。

 田村か池田のどちらかが鬼。言い方を変えると、田村が鬼ならば、池田は鬼じゃない。田村が鬼だと証明するには、真世が鬼じゃないことを証明すればいい。

 その為に――今の持論を展開する為に――池田は、仲間である真世へ投票を誘導し、殺した。

「俺が自分の為に、真世を殺しただって?」

 葵は鋭い眼光を緩めなかった。「……そうです」

「……よくもまあ、残酷なことが思いつくな」

 葵を攻撃しつつも、自嘲的な笑いを浮かべる。

「なあ、結局どうするんだ。時間、無くなってきたぞ」と不二雄。焦った顔でモニターを見ている。

「今の話しを踏まえて、もう一度順番を決めようや」水谷が言った。


 ――神谷――葵――池田――かおり――水谷――恵美子――不二雄――神谷


 満場一致でこのように決定した。葵と池田は互いに鬼だと思っているらしい。

 俺とかおりの間に二人を挟むことになった。

 そして葵の意見で、恵美子と不二雄は隣り合わないことになった。

「時間がない。テーブルを囲うで」

 準備を始める。

 池田と葵は、お互いに手を繋ぐのを心底嫌がっているように見えた。

 右に立つ不二雄と手を繋ぐ。目は合わせなかった。

 左に立つ葵の手を握った。彼女の手は冷たい。思えば、こうして手を繋ぐのも始めてだ。 裕太は葵と手を繋いだことなどあっただろうか。そんなことを思った。

 

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