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心に宿る鬼  作者: めぐみ犬之介
第三章
23/52

   2


 練習ステージの時と同じ順番で、一人づつカーテンの向こうの黄色いスイッチを押していった。かおりや恵子は少々緊張していたようで、ぎこちない顔つきをしていたが、それは俺も同じだったはずだ。彼女たちが鬼とは限らない。それに、かおりに関してはゲームが始まる前から沈んだ顔をしている。

 ようするに、誰が鬼であるのか、見当もつかなかった。

 本当に、鬼がいるのだろうか。誰かを疑うよりも、そう思う気持ちの方が強かった。

 最後の真世がこちらに戻ってきた。軽い表情をしていて、緊張感は感じられない。

「さてと、これで終わったね。……どうなるかな」

 真世の言い方は、先に起こることを楽しみにしているようだった。純粋にゲームを楽しんでいるのかもしれない。

 まもなくして、ボイスチェンジャーの声が流れてきた。

「全員、スイッチを押されましたね。それでは、これから結果発表を行います。モニターをご覧ください」

 全員でモニターを注視する。


『9/11 ゲーム失敗です。残念でした!』


「失敗か。……二人、鬼がいるってことやね」水谷にモニターを見ながら呟いた。

 モニターに表示された9/11、というのは、十一人中九人しかボタンが押されなかったという意味だろう。水谷が言ったのは、二人押さなかったものがいる。そういうことだ。

「――第一ゲームは失敗でした。部屋を移動してください」

 声に合わせ、黄色いランプが回転を始めた。

「恵美子の予想が外れたな。さっき、三人か四人って言っていたもんな」

 全員で移動をする中、不二雄が言った。

「うん。そうね。わたしが思ってたより少なかったみたい」

「いや、そうとも限らないぞ」横槍を入れたのは池田だ。「鬼の人数をぼかす為に、わざとスイッチを押した鬼がいるかもしれない」

「……なるほど、ありえるね。つまり、少なくとも二人以上の鬼がおるってこと以外、まだなんもわからんってわけや」

 田村がハンドルを回し、元の部屋へ続く扉を開いた。

 全員でそこを抜け、モニターしか置かれていない部屋へ戻る。

 最後尾にいた葵が扉を閉めた。

 すると、ぱっと黄色い光が点滅をはじめた。投票部屋に続く扉の上のランプが回りだしたのだ。この黄色い光が部屋の壁を駆け巡るのを見ていると、なんとなく気分が悪くなってくる。焦らされている、あるいは、脅迫されているような感じだ。

「――第一のゲームは失敗しましたので、脱落者を一人、投票で選んでください。制限時間は三十分。鬼を脱落させるよう、しっかりと話し合ってください」

 ボイスチェンジャーの声が言うと、モニターに残り時間が表示された。

「さあて、誰が鬼なんだろうね」と裕太が言う。表情は明るい。ゲームを楽しんでいるように見えた。

「正直、ほんまに分からんわ。名乗り出る気はない?」

 水谷が冗談っぽく言った。

「出てくるわけないでしょ」と恵美子がいつものようにため息混じりで言う。

 それを恵子と不二雄がくすくすと笑った。こんな光景も、いつもと同じように見えた。

 しかし、今、誰かが嘘をついているのだ。驚くべき狡猾さで、俺たちを騙している。

「どうせ誰だか分からないんだ。こういう時は直感でいくべきじゃないかな」

 池田がそう提案した。腕を組み、真剣な目で黄色く点滅する壁の一点を見つめる。「話し合ったところで、得するのは鬼だと思う。さっき恵美子が言ったように、何気なく誰かに誘導して、鬼たちが投票を一人へ集めるかもしれないからな」

「でも、それが逆に鬼を探すヒントになるんじゃないのかな」

 と裕太が言った。珍しく積極的に意見を発した。

「多分、今、鬼が一番怖いのは、ランダムに投票されて脱落してしまうことだと思う。俺が鬼だったら、できるだけ話し合いに持ち込もうとするはずだ」

 池田の声は、諭すような、優しい口調だった。

「でも……」

 裕太が反論しようとした時、池田は表情を一変させた。表情を消し、裕太の顔をじっくりと凝視したのだ。睨むのとも違う。ただ、じっと見つめる。もし知らない男だったら、その顔を恐ろしいと思ったかもしれない。

 と同時に、俺たちの間に流れていた雰囲気も少々変化した。遊び半分で挑んでいた俺たちの間に、真剣味を帯びた色が広がった。

 池田は静かに言った。

「……それとも、裕太は鬼だから、誘導する為に話し合いがしたいのか?」

 低い、冷たい声だった。

 裕太は呻き声を小さく上げ、沈黙した。

「……と、こんなように裕太に誘導することもできるわけだ」池田は無表情を崩し、にやりと笑ってみせた。口元は笑みを浮かべているが、鋭い眼差しはそのままだった。

「……うん。そうだね。イケピーの言うとおりだ」裕太が言う。

 俺は池田を見て思った。彼はきっと、この中で一番このゲームに向いている。ゲームの特性を分析する力と、周りを誘導する力。この二つを持っている。

「それじゃあ、適当に投票するか? なんとなく、直感で」と不二雄。池田と違い、彼はあまり考えていないように見えた。

「わたしもそれでいいと思う」恵美子が賛同した。

 俺たちも互いに頷き合う。

 話し合いは行わず、直感で選ぶことに決まった。

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