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投票の説明は円滑に進められた。一分ごとに、一人づつ部屋へ入っていく。
俺のあとに裕太、水谷。それから女性陣に代わり、恵美子、恵子、真世、葵、と続く。最後に部屋へ入ったのはかおりだ。
かおりは葵に声を掛けられると、身体を震わせ怯えた表情を見せた。しかし、何を言うでもなく、黙って部屋に入っていく。俺たちはかおりが部屋へ入ってゆく後ろ姿を見届けてから、互いに顔を見合わせた。
「ねえ、かおりちゃん、どうしてあんなに怖がってるのかな」恵美子が言った。
たしかに、孤島で行われる心理実験なんて怪しいと思うし、不安に思うのも分かる。だが彼女の怯え方は普通じゃない。心の底から恐れているような印象だ。なのに、何か言うわけでもない。何か理由があるのだろうか。
「でもさ、結局はかおりだって自分の意思でここまで来たんだし、平気だろ」言ったのは不二雄だ。
「……あのさ」真世が言った。話すのを躊躇っているような言い方だった。「実はわたし、理由、知ってるんだ」
「理由? 理由って、なんですか?」葵が訊く。
「うん。かおりには黙っておいて欲しいんだけど――」
それから真世は、かおりが怯えている理由を明かした。
なんでも、かおりは、この状況によく似たスナッフフィルムを見たことがあるらしい。スナッフフィルムとは、殺人の様子を撮影したビデオのことだ。かおりの見たそれは、孤島に人間を集めて、友人同士の殺し合いをさせるというものだという。
昨日、熱海のビーチで真剣な顔をしていた彼女たちを、俺は思い出した。あの時話していたのは、きっとこのことだったに違いない。
「……馬鹿だな。そんなことあるわけないのに」言ったのは池田だ。
「うん。わたしも言ったんだけどさ……」
「孤島の怪しい施設で実験なんて、よくあるシュチュエーションじゃないか。考えすぎさ。映画と間違えたんじゃないか?」
「わたしもそう思うんだけど。でも、かおりは怖がってたみたい」
「どうして言わなかったの?」と恵子。
「それはね、皆を不安にさせたくなかったんだって――」
と、そこまで会話が進んだ所で、赤い部屋の扉が開いた。かおりが現れる。俺たちは揃って口をつぐんだ。
かおりの顔は、さっきよりも更に青ざめている。
かおりの見たことがあるというスナッフフィルムの内容が気になりはしたが、彼女の凍りついた顔を見ると、訊くことはできなかった。
スピーカーからノイズとともに、音声が流れる。
「――さて、これで説明は全て終わりです。まもなくゲームを開始したいと思います。最後に確認ですが、質問のある方はおりますか」
「……あれ? 鬼はどうやって決めるんですか?」と葵が訪ねる。
「そうだね。そういえば鬼を決めるんじゃなかったっけ」と恵子が重ねた。
「…………」
ボイスチェンジャーの声が、珍しく沈黙した。俺たちは息を呑んで言葉を待った。
「……鬼は、もう決まっています」
「え?」俺は思わず呟いた。「鬼が、もう決まっている?」
「それでは、鬼について、少し説明を加えましょうか。鬼の人数ですが、これは秘密です。人数を暴くことも、ゲームの重要な部分となっておりますので。それから、鬼同士は、誰が鬼であるのかを互いに知っています」
一体、いつ鬼が決まったのだろうか。
考えられるとすれば、ついさっきの赤い部屋でのことだろう。一人づつ部屋へ入っていたのには、きっと鬼を決めるためだったのだ。
「うん? てことは、もう鬼がいるってこと?」
不二雄が一同を見まわした。「おいおい。まじかよ。全然気がつかなったぜ」
……誰かがもう、嘘をついている?
俺は全員の顔を順番に見てみたが、そんな気配は微塵も感じなかった。
「――さて、それでは、鬼探しゲームを開始します。部屋を移動してください」
ランプが点灯する。
先ほど、練習ステージを行った衝立のある部屋の扉だった。




