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一分ほどで池田が部屋から出てきた。難しい顔をしていたので、何かあったのかと訊いてみたら、行けば分かる、とそれだけ答えた。
それから、先ほどと同じ順番で部屋へ入っていく。不二雄、田村と続き、二人も池田と同じく一分ほど部屋に滞在した。
「それじゃ、俺の番だね。行ってくるよ」
俺が言うと、気だるそうな顔で真世が手を振った。待ち時間が長くなりそうなので、飽き飽きしているようだ。
扉を開け、一歩踏み込むと、なんとなく重たいものを肩に感じた。
薄暗い部屋だった。小さな部屋で、天井に赤い色をした裸電球がぶら下がっている。部屋の壁一面に、重たい赤色の光が塗られていた。写真現像用の暗室のような雰囲気だ。
そのイヤな色のせいか、絡みつくようなネットリとした空気が満ちているように感じる。この肩の重みは、多分この不気味な部屋のせいだろうか。池田が難しい顔をしていたのは、この奇妙な部屋のせいだろう。
話のとおり、この小部屋は完全防音らしく、扉を閉めると、外の声が一切聴こえなくなった。無音の耳鳴りを感じる。
部屋の中央に、縦長の黒い箱――赤い照明のせいで、断言はできないが――らしきものが置いてあった。胸くらいの高さのものだ。近づいてみると、液晶が埋め込まれているテーブルだと分かった。それから、ペンのようなものが手前にセットされている。
「――さて、それではゲームの説明をさせていただきます」
この部屋にもスピーカーがあった。声が流れてくる。おそらく、この声はこの部屋にしか聞こえていない。
鼓動が速まる。今、俺はこのボイスチェンジャーの人物と一対一の関係なのだ。そう思うと、緊張と不安が再び背筋に走った。
「目の前のテーブルに設置されているモニターをご覧ください」
言われたとおりに俺はモニターに目を配る。
「これは……」
モニターに映像が映し出された。白いバック画面の右下に「投票」。左下には、「クリア」と書かれたパネルのようなものが映っている。やけに余白の部分が広い。
「――この機械で投票をしていただきます。ペンを使い、投票したい人の名前を記入してください。間違えた時はクリア、送信する場合は送信と書かれた場所をタッチしてください」
最初に想像したとおりの使い方になりそうだ。
俺は試しにクルクルと試し書きをしてみた。黒い線で螺旋が描かれる。クリアをタッチすると、一発で白い画面に戻った。
「それでは、試しにご自分の名前を記入し、送信をしてみましょう」
神谷健太。
俺はそう記入し送信を押した。すると、送信中という文字と、タイムバーが表示された。ものの数秒でバーが満ちて、再び画面が切り替わる。送信完了しました、と中央に表示された。
「これで投票が完了しました。このように、投票は行われます。……最も投票を集めた人物は、このゲームから離脱していただくことになります。ちなみに、投票は一回ごとにリセットされますので、基本的には次回の投票には関係ありません。ただし、もしも最多投票数が同数になった場合は、累積投票数が多い者が優先的に脱落者となります」
俺は何度も頷きながら、黙って説明を聞いた。
ゲームに失敗するごとに投票を行い、脱落者を一人決める。投票は一回ごとの集計だが、投票数が引き分けた場合は、累積投票数の多いものが脱落する。
今のところ、ルールは把握できそうだ。
「……それから、ゲーム中は自分に投票することは許されませんので注意してください。それから、故意に引き分けを狙うことも禁止です。まあ、そんなことはゲームの性質上ありえませんがね。念の為。……何か質問はありますか?」
「……なるほど。だいたい分かりました。質問はありません」
「それでは、部屋へお戻りください。全員に説明が終わった時点で、ゲーム開始となります」
スピーカーからの声はそこで途絶えた。
説明の内容はだいたい理解できたが、一つ疑問はあった。
何故、わざわざこのような面倒な方法で説明をするのだろうか。一人づつ説明するような内容ではないように思える。防音を体感させるのなら、半分づつに別れれば済む話だ。
……考えても分かりそうにない。
俺は赤い部屋を出ることにした。




