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顔を仮面で隠した人物が映しだされた。マネキンの顔で型をとったような、精巧な白い仮面。男か女かさえ分からない。一見して、不気味だった。胸から上が映っており、ダークスーツを着ている。ネクタイまで黒で統一していて、喪服を連想させた。
「さて、皆様――」ボイスチェンジャーを使った声が流れた。俺たちのあいだに、困惑の気配が漂う。「――今回は実験にご協力頂き、ありがとうございます。早速ですが、実験についての説明を始めさせていただきます」
小林のそれよりも、更に抑揚のない喋り方だった。俺はその奇妙さに面食らったが、その人物は一方的に説明を続ける。
「ホームページにも記載しておきましたが、これから皆様に、あるゲームに挑戦していただきます。第一ゲームから第十五ゲームまで、全部で十五個のゲームです。ゲームに失敗してしまった場合は、その都度、脱落者を一人選んでいただき、これを十五回繰り返す。最終ゲームを、なるべく多くの人数でクリアするのが目標となります。……ここまで、よろしいでしょうか」
こっちの狼狽を知ってか知らぬか、説明は淡々と続けられた。このままでは、訳が分からぬまま時間が過ぎてしまいそうだ。俺はひとまずこの男の異様さはおいておき、説明を理解することに努めた。
もう一度、先程の説明を頭の中で繰り返す。
十五個のゲームに挑戦する。失敗すれば、その度に脱落者を決める。最後のゲームまで、なるべく多くの人間が残っているのが目標。なるほど、わりとシンプルなルールだ。
「ゲームはどれも、全員で協力すれば、簡単にクリアできるものばかりです。ただし、皆様の中から、鬼を選びます」
「鬼……?」
葵が小さな声で呟いた。緊張しているのか、声が上擦っていた。
「鬼、です。子供の頃、鬼ごっこをなさったことはあるでしょう? それと同じです。皆さんの中から鬼を選び、鬼はゲームを妨害するように働く、というわけです」
画面越しの反応は、まるでそこにいるようにスムーズだ。録画されたものではなく、どこかから中継しているのだろう。あのモニターの付近に、カメラがついているのかもしれない。
「全員で協力すればクリアできるゲームを、鬼が妨害する。鬼は、自分が鬼だと気づかれぬように。鬼以外の人間は、鬼を見破って、脱落者として選ぶように。これを十五回繰り返す。と、そのようなゲームです。――そうですね。鬼探しゲームとでも名づけましょうか」
鬼探しゲーム。漠然とだが、どのようなゲームなのかイメージが湧いた気がする。
「説明だけでは伝わりづらいでしょうから、本番の前に、予行練習をしてみましょう。……何か質問がある方はおりますか」
仮面が僅かに左右へ動いた。モニターの向こうから、こちらを見回しているような動作だ。
「ゲームに失敗したら、お金は貰えないんですか」次に発言したのは不二雄だった。「要するに、俺らの中で、鬼と子に別れるってことでしょ? 負けた方はお金が貰えないんですか? という意味です」
「いいえ。それは問題ありません。どのような結末になっても、謝礼金は差し上げます」
不二雄はほっと息をついて、椅子にもたれた。
「ただし、皆様がゲームを放棄した場合は、その限りではありません」
「放棄?」
「例えば、鬼が自分から正体をバラしてしまったり、鬼以外の誰かがゲームを終わらせる為に、故意に妨害したり。これらはゲームの放棄とみなし、実験を中止させていただきます。くれぐれも注意してください」
続けざまに、今度は水谷が訊いた。
「この実験の目的は?」
「詳しい内容を明かすことは、現時点ではできません」
椅子を引く大きな音が部屋に響いた。何かと思い、音のした方を見ると、真世が席を立っていた。
「説明できないって……。まさか、危険なことをさせるつもりなんじゃないですか」強い口調だった。訝しげな目を隠そうともせず、モニターを睨みつけている。
モニターの中の仮面の男は、頭を右へ僅かに揺らした。真世の迫力に驚いたように見えた。
「危険だなんてとんでもない。これは心理実験ですよ。……しかし、あなたの不安も理解できます。それでは、簡単にですが、話せる範囲で説明いたしましょう」
仮面の男は指を鳴らした。それを合図に、小林がまた部屋を出ていった。
「今回の実験では、皆様が人を疑う時の反応を調べさせていただきます。心拍数、発汗状態、体温、血圧などの身体の反応。それから、個人としての行動の変化。集団としての変化。これらについて調べるのが、この実験の目的です。これでよろしいでしょうか」
真世は不満な顔をしていたが、まもなく着席しなおした。
「何故、わざわざこの島で?」言ったのは池田だ。強い眼差しでモニターを見据えている。その疑問は誰もが抱いているものだった。
「極端な閉鎖空間でのデータを取るためです。周りに誰もいない、いるのは仲間たちだけ。なのに、仲間の中に鬼がいる。こういう状況を作る必要があるのです」
池田は目線を落とした。何か考えているように見える。目線を持ち上げ、再び口を開いた。
「あんたはどうして顔と声を隠す」
「……これは私の個人的な問題でね。実験とは関係ありませんので、お気になさらず」
小林が再び部屋に入ってきた。両手に深い緑色をした工具箱のようなものを二つぶらさげている。
「さて、皆様。……随分と怯えていらっしゃるように見受けられるが、今ならまだ、実験に参加せずに帰るという選択肢が残ってます。何もこの実験は強制ではありません。いかがいたしますか?」
口調は平坦なものだったが、挑戦的な文面だった。
俺たちは互いに顔を見合わせる。誰もが不安げな顔を見せていたが、口を開くものはいなかった。暗黙で、了承が決まった。一日で大金が手に入ることもあるが、ここが東京から遥か遠くに浮かぶ孤島だということが大きかったと思う。ここまで来て帰る、というのは心理的にできないように思えた。
「参加して頂けるということでしたら、データを取るための首輪を装着していただきましょう」
小林が工具箱の形をした箱を開け、中から何か取り出した。それは銀色の円環だった。小林は俺たちを見回すと、冷たい声色で言った。
「参加を決めていただけた方から、順番にこちらへ……」




