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BAR 夜明ヶ前  作者: 沼 正平
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煙草吸いの来し方行く末 中編

 今夜はなんとなくマスターと煙草をお題にして話している。実際には俺もマスターも煙草を吸わないから、あまり縁のあるお題ではないんだけどね。

「そういえば先日厚生労働委員会とかで、肺がん患者の代表みたいな人が受動喫煙とか喫煙所の問題なんかで意見を言っていたら、どこだかの議員さんが『いい加減にしろ』みたいなヤジを飛ばしたとか言って叩かれていたよね。まったく酷い人もいたもんだよ」

 どっちがいい加減にしろなんだか、って思うよ。

「ああ、あったな、そんな話。でも私は旦那とはちょっと違う意見かな。確かにヤジとかは見苦しいし、マナー違反として叩かれていることに対してはなんら弁護しようなんて思わないけどな」

「あれ、マスターは喫煙者側の味方なの?」

「私自身煙草は吸わないし、くだんの議員を弁護する気もない。でもあの人が言ったことっていうのは、大方の煙草吸いが思うところなんじゃないかと思うよ。何しろ煙草は税が重い。国税、地方税、特別税、消費税。全部合わせて六割以上が税金だ。更に最近は煙草自体が値上げ。いずれは消費税も上がるし、また何かの拍子に本体の増税もあるに違いない。それだけでも気が滅入るのに、あらゆる公共の場所、居酒屋なんかでも禁煙が広まって、家に帰ってもベランダでホタル族。しかも最近はそれが両隣や上の階のご近所さんからクレームが出るような世の中だ。『いい加減にしろよ』ってのは、そんな煙草吸いの偽らざる本音の言葉だと思うし、まさに彼らの気持ちを代弁したものだと言えるだろう」

 う-ん、そうかぁ。そうかもねぇ。

「でも、がん患者にああいう暴言は良くないと思わない?」

「いや、それは良くないとは思うよ。『いい加減にしろよ』っていうのは、煙草吸いがいわれのない迫害、弾圧を受けていることへの抗議の気持ちからの言葉なのだろうから、それは然るべき場面で煙草吸いの代弁者としてしっかり発言、抗議すべきことだと思う。それを“野次”という表現を使ってしまったことはあの人の大失態と言っていいだろう。ただ、相手ががん患者だったということで、必要以上に叩かれてしまっているという印象は拭えないと思うけどな。彼はがん患者だから弱者だ、可哀想だ、明日をも知れぬ儚い命だ、と勝手に忖度してしまって、いわゆる判官贔屓になってるんじゃないかと思うんだよ」

 うっ、確かに俺もそんな見方をしていたような気がするな。それにしてもマスターの“煙草吸い”って、なんか昭和っぽい響きだな。普通は“喫煙者”の方が通りがいいと思うけど。

「あのがんの人は理性的だったし、煙草を吸わない人が受動喫煙によって命を落とすような理不尽を無くす努力を懸命になさってるんだってことは理解出来るけど、追い詰められている煙草吸いの気持ちまでは理解出来ないだろうなと思うんだよ。彼はがん患者で、煙草を吸わない人達の味方なのだけど、だからと言って彼が正義で、彼の意見が真実なのかと言えば、それはまた別の話だと思う。そこは双方の意見をしっかり聞いた上で、理性的な結論をださなければ。日本は法治国家なのだから、被害者様が特権階級で一般人以上の発言権を持ってしまうような国とは違うということを肝に銘じないとな」

 被害者が特権階級の国っていうと……、あっ(察し)

「それにしても煙草は何かと槍玉にあげられるよね。嗜好品ってところではお酒と双璧をなす存在だと思うんだけど。何で煙草ばかりいじめられるんだろう」

「税金に関してはよく『取り易い処から取る』みたいに言われるけど、何で取り易いか、ってことだよな。煙草は酒と同じ“嗜好品”ではあるけど、文化的な側面が遥かに劣っている、ってのがあるか。それが弱みだったりするかも知れない」

「文化的っていうと?」

「酒は冠婚葬祭に付き物だったり、呑む器にもお猪口や枡、杯に切子などと色々あるし、その醸造技術も奥が深かったりする。旦那はマティーニのんでることが多いけど、他のスピリッツものむし、美味い日本酒が入ったって言えばそれも呑みたいだろ」

「そうだね。日本酒やワインなんかは専門外だけど、美味いから呑んでみろって言われたら喜んで呑むかな」

「ところが煙草吸いは大抵、同じ銘柄のものしか吸わない。今日はハイライトで明日はショートホープ、なんていう吸い方をしている人を、私は知らない」

 ハイライトにショッポか、昭和っぽいな。

「昔は煙管きせるを使って煙草を吸ってたりしたけど、まぁ旦那は知ってるよな。吸い口と先っちょの“雁首”が金属で間が竹製だから、それに因んで入場券と定期券で電車賃をちょろまかしたりするのを“キセル”なんて言ってたな。竹の部分は“羅宇らお”って呼ばれてて、名前の由来は南アジアの国“ラオス”からきてる。かつては羅宇屋っていう商売があって、煤取りや羅宇のすげ替えの行商をしていたそうだ。いや、それはさて置き、そういったものにはそれなりに文化的な側面があったのだろうけど、今は吸いたいときに吸えれば時と場所は選ばない、っていう感じで、あまり文化的なこだわりを感じないんだよな。そういうところが酒と比べるとちょっと嗜好品としての格が低いように感じられるのかも知れないな、っていうのが私の意見だ」

 自分では煙草を吸わないのに、意外といろいろ知ってるんだな。

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