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BAR 夜明ヶ前  作者: 沼 正平
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インスタ映えするお酒? 【その4】

「スノー・スタイルとコーラル・スタイルが出たついでに“サブマリン・スタイル”の説明だけしておこう。こういうのは好きじゃないからあくまでも説明だけな」

 マスターは念を押すように言う。俺にも分かるよ、こういうの嫌いなんだよな、マスター。山川さんは甘くてフルーティーで見た目もきれいなフラミンゴを楽しみながらマスターの話を聴いている。

「“サブマリン”っていうカクテルは通常、ジョッキに注いだビールにショット・グラスのテキーラをグラスのまま沈める、つまり“潜水艦”ってワケだ。これはまぁ酔っ払いの余興だし、とにかく早く酔えれば味なんかどうでもいいやからがワルノリで騒ぐためのカクテルだ」

 なんか、エラい嫌いようだな。

「ビールにバーボンを入れる“ボイラー・メーカー”やジンを使った“ドッグズ・ノーズ”なんていうのもあるが、これらもサブマリン・スタイルに使える。他にもドランブイとかのリキュールを使うこともあるそうだが、リキュールは色は綺麗でも甘いからな。甘いビールがお好きな人はどうぞ、ってなもんだ」

 うわっ、キモチワル。しかもビールもリキュールの味も台無しになりそうだ。香草系のベネディクティンやシャルトリューズだって結構甘いし。カンパリとかアメール・ピコンなら……、いや、やっぱり別に飲むのが正解だな。

「さて、お次が“シューター”と、一番面倒な“プース・カフェ”だ」

 また面倒とか…。

「シューターはその名の通りシューター・グラスで酒をのむ。プース・カフェも大体背の高い細身のプース・カフェ・グラスかシューター・グラスを使うことが多いかな」

 そう言ってマスターがグラスの棚から取り出したのは2オンスぐらいのコリンズ・グラスをミニチュアにしたようなグラスと、もう一つはどこからどう見ても試験管みたいなグラスだ。

「ええ、試験管とか使って飲むんですかぁ」

 山川さんもそのカタチの目新しさに瞳を輝かせる。確かにこんなので酒をのんでたらちょっと目立つに違いない。

「これは、例えばこんな風に使う。まずロック・グラスに少し大きめのクラッシュド・アイスを詰める。そしてこの試験管グラスに酒を入れて、氷を詰めたロック・グラスに斜めに挿す。こうするとストレートの酒を冷たいまま楽しむことができる」

 そう言いながらマスターはロック・グラスに氷を詰め始めた。

「今回はイエーガー・マイスターでいこうか。これはちょっと強いから旦那がのむだろ」

「そうだね、これならそんなに甘くないし、程よく苦味もあるから」

 正直、雪国のスノー・スタイルは俺には甘過ぎるんだよな。

 マスターは冷凍庫から牡鹿の絵が描かれた緑色のボトルを取り出す。35度だと凍らないんだな。ドイツのリキュールで色々な香草が入っている。イエーガーは“狩人”、マイスターは“親方”みたいなイメージだけど、このリキュールの場合は“聖人”とかがしっくりくるかな。

 マスターは酒を瓶口から直接試験管に注ぎ、それを氷を入れたロック・グラスに挿した。

「これはイイわ、インスタ映えするわ」

 山川さんは夢中で撮影する。酒の色自体は濃い赤、赤銅色って感じでそれほど変わり栄えはしないのだけど、この試験管グラスで供されると、やっぱり注目度が上がるし、ちょっとテンション上がるね。

「このお酒、35度でストレートだけど、山川さんも味見してみる?」

「そうね、折角だから…」

 山川さんは恐るおそる試験管を引き抜き、ちょっとだけ口に含んだ。

「うわっ、強! それに甘苦!」

 すぐにシューター・グラスをロック・グラスの氷の中へ戻し、飲み掛けのヴァイオレット・フィズを口にする。やっぱりちょっと強かったみたいだ。

 今度は俺の口直しの番だ。雪国でちょっと甘くなってしまった口の中をリセットするべく、イエーガー・マイスターをグイッと一口。苦味の中にうっすらと甘味も感じられて、なんとも複雑な味わいだ。

「それにしてもマスター、この試験管グラスは面白いよね。確かにインスタ映えしそうだよ。でもこんなのどこで手に入れたの? 専門店とかじゃないと手に入らないんじゃないの?」

「そうでもない。普通に通販とかでも扱っているみたいだしな。でも私が買ったのは百円均一の店だよ」

「え、百均でこんなの売ってるの?」

 試験管なんて使う人も限られてるだろうし、まず日常使うものでもないし。恐るべし百均。

「実はコレ、一輪挿しの花瓶なんだ。ゴムの木で作った台座が付いててな。一目見て“これはシューター・グラスだ”と思って買ってしまったんだ。実際、ちょうど使いやすいサイズだしな」

 確かに、大体3口から4口くらいで飲み切る量だし、ちょうど良いのは間違いない。

「このスタイルだと、他にはどんなお酒が合うのかしら」

 山川さんがマスターに訊ねる。強くて口に合わなかったのが残念で仕方ないようだ。

「そうだね、カンパリとかサザン・カンフォートあたりが合うんじゃないかな。チャールストン・フォーリーズやジンジャー・ワインなんかも良いんじゃないだろうか」

 ジンジャー・ワインで13度くらいか。そのへんは無難かも知れないが、まだプース・カフェが残ってるからな。それこそ“インスタ映えのためのカクテル”みたいなものだけど、果たしてマスターは快く作ってくれるんだろうか?

本文中の一輪挿しは以前ダ○ソーで販売されていましたが、現在は終売してしまったようです。

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