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BAR 夜明ヶ前  作者: 沼 正平
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インスタ映えするお酒? 【その3】

 見た目や飲み方に特徴のあるカクテル、俺もパッと幾つかは思い浮かぶけど、マスターはどんな風にまとめるつもりだろうか。

「特段変わったスタイルでもないけど、まずは“スノー・スタイル”からいこうか。“ソルティー・ドッグ”が居酒屋やカラオケボックスなんかで定番化したから今更珍しくもないけど、逆に他のカクテル名がすぐに浮かぶ人は少ないかもな」

「そう言われると私もすぐには出ないかも。どんなのがあるんでしたっけ」

 山川さんの言葉で一瞬マスターの表情に満足そうな笑みがこぼれる。ここでカクテルの名前がポンポン出るようだと面目丸潰れだからね。

「有名どころだと、テキーラ・ベースの“マルガリータ”と、そのヴァリエーション。後は“ライジング・サン”とか。ウオツカだと“キッス・オブ・ファイヤー”とかかな」

「あ、それ聞いたことあります。マルガリータのヴァリエーションってのはどんなのがあるんですか」

「さっきのブルー・キュラソーを使った“ブルー・マルガリータ”なんてのとか、グラン・マニエを使った“オレンジ・マルガリータ”、更にはフローズン・スタイルのヴァリエーションなんかもスノー・スタイルでつくるな」

 結構色々とあるもんだ。

「今のは塩を使った“普通の”スノー・スタイルだ。グラスの縁をカットしたレモンのスライスにくるっと回して湿らせて、紙に拡げた塩をデコレートする。砂糖の場合も同じ」

「え、砂糖も使うんですか?」

「あまり一般的じゃないかも知れないけどな。一番有名なのは“雪国”かな。ウオツカ2/3にホワイト・キュラソーを1/3とコーディアルのライム・ジュースを足してシェイク。砂糖でスノー・スタイルにしたカクテル・グラスにミント・チェリーを入れて酒を注いで出来上がりだ。のんでみるかい?」

「ええ、いただきます」

 山川さんのヴァイオレット・フィズはまだ少し残ってるようだったけど、酔わないようにチェイサー代わりにすればいいだろうな。

 マスターは先程の説明の手順でスノー・スタイルを作り、瓶詰めのミント・チェリーを取り出してカクテル・ピックで挿してグラスに入れる。

「それはサクランボなんですか。赤くないけど」

「ああ、着色料で色付けしてあるんだ。もちろん、赤いのもある。“マラスキーノ・チェリー”と言って昔はマラスキーノっていうリキュールに漬け込んだものだったんだけど、今はアルコール漬けにはなっていないんだ」

 そうなんだ、てっきりアルコール分が入ってると思ってた。きっとケーキや洋菓子のデコレーションとかで子供が食べることを配慮してるんだろうな。

 マスターは冷凍庫からストリチナヤを出してメジャーを切りシェイカーに注ぎ、続いてコアントローとライム・ジュースを入れてシェイク、グラスに注いだ。透明な酒に翡翠のように輝くミント・チェリーが見事に映える。

「キレイですねー、これは撮っておこうっと」

 山川さんはスマートフォンを取り出してパシャパシャと撮影し始める。マスターはちょっと渋い顔だ。

「いけない、マスターがシェイクしてるところも撮ればよかった」

「だからそういうのが嫌いなんだって、撮るのは酒だけにしてくれ」

 その一言でカクテルの写真を撮ることをマスターに了解させてしまったも同然だ。したたかだなぁ。

「あのー、これってどうやって飲めば……」

 そうなんだよな、スノー・スタイルに戸惑う人はいるはずだ。

「口をつけるところを変えながら飲む、ってのが基本だが、ショート・スタイルだと一周する前に飲み終わるだろうからな。まぁ好みの問題だろうが、塩や砂糖だけペロペロするのは無しだろう」

 そりゃそうだ。

「まぁぬるくならないうちに味わってくれ。話を続けよう。砂糖のスノー・スタイルでもう一つ有名なのが“青い珊瑚礁”、冬に対してこちらは夏、しかも奇遇にも双方が日本産のカクテルだ。こちらはジンとグリーン・ミントを使ってチェリーは赤。どうだい旦那、飲むかい」

「いや、なんか季節はずれだし、いいや」

 もう少し待てば俺好みのカクテルに巡り合えるだろうから、ここは外そう。

「変わり種ではシナモンをスノー・スタイルにする“インディアン・サマー”なんてのがある。アップル・リキュールにシードルをビルドする簡単なカクテルだけど、あまりメジャーではないな。後はスノー・スタイルで一番インスタ映えしそうなのが“フラミンゴ・レディ”。これはスノー・スタイルを作るときにレモンを使わずにグレナディン・シロップを使うんだ。こうするとグラスの縁がピンク色のスノー・スタイルが出来る」

「それを作ってくれれば良かったのにぃ」

「そうだったな、こいつはしまった。じゃあ雪国は旦那に譲って、そっちにするかい」

「はい」

 はい、って。え、おれが雪国? 砂糖とかいらないんだけど……。

 マスターは小皿にグレナディンを垂らしてカクテル・グラスを廻し、それを紙の上の砂糖に押し当ててピンク色のスノー・スタイルを作る。ストリチナヤにピーチ・ツリー、更にレモン・ジュース、パイン・ジュース、グレナディン・シロップを足してシェイクする。注がれた酒は見事にグレナディンのピンク色だ。

「これも素敵! こんなカクテル知ってたらみんなに自慢出来そう」

 そう言って撮影を開始する山川さん。あんまりマスターを刺激しないでよ。

「ついでに、グラスの半分だけスノー・スタイルにするカクテル、なんてのもある。後は“コーラル・スタイル”かな。スノー・スタイルの発展系というか、フルート・グラスを使って縁から数センチくらい塩や砂糖をデコレートするんだが、あまり一般的ではないかな。さっき話したメロン・リキュールの“ミドリ”を使った“シティ・コーラル”なんてのが代表的か。後はヨーグルトのリキュールを使った“キャスティンネベル”なんてカクテルがあるが、グラスの内側に着いた砂糖や塩を拭き取らなくちゃいけなかったりで面倒だから割愛な。この店には不釣合いなカクテルだ」

 あ、逃げた…。


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