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BAR 夜明ヶ前  作者: 沼 正平
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夏のワイン談義

前回の続きです。

 今夜はマスターのワイン話を聞きながらマティーニをのんでいる。はっきり言ってワインは自分の守備範囲外なのだが、仕事が若干絡んでいるので多少の興味はある。

「低アルコールで発泡しているワインが日本の夏向きなのはわかったけど、それだったら普通のワインを炭酸で割ってやればいいんじゃないの」

「確かにそういう飲み方はある。代表的なのは白ワインの炭酸割り“スプリッツァー”、それに赤ワインのジンジャーエール割り“キティ”だな。どちらも比較的ポピュラーなカクテルだ。ただここではスプリッツァーはとりあえず除外して考えようか」

「なんで?」

「日本でワインって言ったらおそらくほとんどの人が赤を思い浮かべるだろう。普通に考えるのならば、肉の消費量はそれほどでもなく、魚介や山菜なんかを多く摂る日本人にとっては白の方が断トツに馴染むはずなんだがな」

 確かにそうだな。会話でワインが出たりした時、無意識のうちに赤ワインのつもりで話しちゃってる。

「何でだろう。魚介や鶏、卵なんかは白ワインが合うイメージだけどね」

「一番大きいのは“健康”の観点からだろうな。ポリフェノールが体に良い、それも白ワインよりも赤ワインに多く含まれる、っていう情報からだろう。前にも話したが“フレンチ・パラドックス”でかなり有名になったよな」

 フランス人はバターやチーズなんかで脂肪分を多く摂取してるのに、意外と健康なのはワインのおかげなんじゃないの、みたいなアレだな。

「結構勘違いしている人もいるかも知れないけど、ポリフェノールっていうのは植物がつくる色素や苦味成分の総称で、赤ワインだと渋み成分の“タンニン”、後は大豆の“イソフラボン”とか、緑茶の“カテキン”なんてのが良く知られているよな」

 うっ、赤ワインにはポリフェノールとタンニンが含まれているんだと思ってた。プロ野球で例えればセ・リーグとジャイアンツみたいな関係だったんだな、恥ずかしい……。

「ちょっと脱線したかな。何しろより多くの日本人に好まれるのは赤ワインの方だろう。赤・白・ロゼの消費構成比で言えば、赤は50%を超えているしな。そういった事情を踏まえて、ここではあくまで赤ワインについて考えてみようか。実際私の身近ではワインが好きじゃないのに健康に良いからというだけで赤ワイン飲んでる人がいるよ。そういう人は味とかにはあまりこだわらずに、とにかく健康に良い赤であることが重要なんだ。だからそういう人は基本的に白ワインは飲まない」

「そういう人にはキティがおススメだね」

「まぁそういうことになるが、私としてはさっき言ったように最初から低アルコールで炭酸ガス含有のワインの商品開発を期待したいところだよ。特に醗酵による自然な発泡をな」

「ふーん、ジンジャーエール割りはお手頃でいいと思うけど、そこはこだわりどころなんだ」

 俺はピックに刺さったオリーヴをつまみ上げて口に放り込み、マティーニの最後の一口を流し込んだ。

「せっかくワインの話してるんだから、次はシェリーでも飲もうか」

「これでいいよな」

 そう言ってマスターが出したのは“ティオ・ペペ”、定番中の定番、“ぺぺおじさん”だ。あまり馴染みはないけれど、たまにはドライ・シェリーもいいものだ。食事前のアペリティフならいざ知らず、マティーニのんだ後に飲むってのも、ちょっとどうかとは思うけどね。

「旦那ならまぁ知ってると思うが、いわゆるスパークリング・ワインの造り方は大きく分けて三通りあるよな」

「う、うん、そうだね」

 えーと、炭酸ガスを注入するのと、醗酵させるのと。あと何だっけ……。

「一番泡のキメが細かいのがいわゆるシャンパン方式、砂糖を入れる瓶内二次醗酵。その次がタンク内での二次醗酵。炭酸ガス注入方式は、まぁ誤解をおそれずに言えばコーラやサイダーみたいな泡だ」

「マスターが言いたいのは、要するに二次醗酵によって発泡した低アルコールの赤ワインを開発して欲しいってことなんだ。炭酸で割ったり、炭酸ガスを後入れするんじゃなくて」

「そう。手間が掛かるから値段下げるのは難しいかも知れないけど。今言った三通りの造りかたの他に、一時醗酵だけで終わらせる“ローカル方式”なんてのがあるけど、それだったらコストを抑えられるかもな。正直そのへんの技術的なことは良くわからないんだが」

 マスターが良くわからないんだから、俺にはちょっと難し過ぎるな。

「ただ、日本のようなジメジメと蒸し暑い夏の需要に合わせて、しかも世界のワイン生産者・消費者からも認められるような新しいワインを考えると、そういうワイン造りってのが良いのかもなっていう。かなり漠然とした意見なんだけどな」

「でも暑い夏にゴクゴク飲めるワイン、っていうお題だったら、炭酸ガス注入方式でコーラみたいな泡でも良さそうだよね」

「コストのことを考えるなら炭酸ガス後入れが一番だろう。それでもおそらく炭酸割りよりは美味いだろうからな」

「赤ワインの炭酸割って美味しくないの?」

「スペインなんかではそういう飲み方をしてるらしいけど。私は正直そんなに美味いとは思わないな。当然の事ながら味が薄くなる。柑橘系や甘味で味を補強してやるっていうてもあるけど。或いはサングリアなんかを足してやるとか。ただ、味だけじゃなく炭酸も弱炭酸、微炭酸なってしまうのは否めない」

 健康第一で味は二の次の人には、炭酸割りもありかもね。

「まぁ色々と考えれば日本人とワインの付き合い方ってのも変わってくると思うよ。日本食に合わせるのは相当に難しいけどな」

 あ、またその話しが出た。

「マスターはワインと日本食の相性についてはホントに否定的だよね」

「酸とグリコーゲンの含有量とかを調べて、それに合ったワインを選べば合わないことはないが、まぁ無理に合わせる必要はないだろう。それを話し始めたら専門用語だらけで小一時間くらい掛かるかも知れないけど」

 今夜は遠慮させていただきます……。


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