表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BAR 夜明ヶ前  作者: 沼 正平
63/99

夏のフローズン・カクテル 後編

 いつもはマティーニやスピリッツで硬派な酒飲みの俺だが、今夜は流れでフローズン・ダイキリなんていうちょっとオシャレっぽい夏カクテルを飲んでいる。暑い夏の夜を涼しくすごすにはもってこいなのかも知れないけれど、大の大人がこういうので喜んでる姿はあまりみっともいいものではないだろう。まぁこれはあくまでも俺個人の価値観なのだが。ヘミングウェイだって飲んでたんだから別に子供用ってことでもないし。

 でも、やっぱり知った人には見られたくないな。はやく飲み終わってマティーニに替えよう。

 なんて思っているところで、入り口のドアがギイッと音を立てる。またタイミング悪く来店する奴がいるもんだ。しかも知った顔の二人組み、メガネくんとシロウト氏だ。

「んちわぁ」

 愛想を振り撒きながら二席空けて俺の左側に陣取る。他にお客もいないんだからもっと離れろよ。

 マスターはいつも通り無愛想におしぼりとメニューを渡す。シロウト氏はメニューを見始めるが、メガネくんは俺の方をちらちらと気にしているようだ。恥ずかしいから見るなって。

「オーダーは決まったかい」

 マスターがシロウト氏に声を掛ける。シロウト氏はテキーラのページを開いて、

「えーと、じゃあオルメカの…」

 と、それを今度はメガネくんがさえぎる。

「ちょっと待って。あのぉ、僕たちテキーラ飲もうと思ってたんですけど、あっちのシャーベットみたいなヤツが気になってるんですけど、あれは何ですか」

 あーあ、やっぱりきたか。

「ああ、あれはフローズン・スタイルにしたカクテルだけど、せっかくブレンダーも引っ張り出してきたし、あんたらも飲むかい」

「ええ、是非お願いします。いいよな」

 シロウト氏もメガネくんの意見に賛同してうなずく。

「テキーラ飲みに来たって言うし、せっかくだからテキーラ・ベースのカクテルをつくってあげよう」

 そう言うとマスターはカクテル・グラスを二脚取り出し、皿に塩を撒く。カットしたレモンでグラスのふちをなぞり、それを皿に伏せてグラスをスノー・スタイルにしていく。ブレンダーにクラッシュド・アイスとサウザ・シルヴァー、それにボルス・ブルーとレモン・ジュース、砂糖を入れてブレンドする。

 それをスノー・スタイルのグラスに注ぐと、青くて見るからに涼しげなカクテルに仕上がった。

「フローズン・マルガリータのヴァリエーションで“フローズン・ブルー・マルガリータ”。マルガリータはライム・ジュース使うけど、これはレモンを使うんだ」

「うわぁ、キレイだしイイなぁコレ」

 二人は出されたカクテルにはしゃぎ気味だ。女子じゃないんだから。と言うか、この状況を誰かに見られたら、大人の男が三人してオシャレカクテルではしゃいでいるように見えるのか? これじゃあどう見ても俺も仲間だよなぁ。早く飲み切って切り替えようと思うのだが、何しろ冷たいから。

「いかにも夏って感じで涼しげだろう。これでブルー・キュラソーをストロベリー・リキュールに変えれば“フローズン・ストロベリー・マルガリータ”になるし、ミドリに変えれば“フローズン・メロン・マルガリータ”になる」

 なんかついさっき聞いたような説明だな。リキュールとか、副材料をちょっと変えてやるだけで、様々なヴァリエーションができるってことだな。

「どうだい、旦那は次何にする。またフローズン・カクテルかい」

「いや、俺はもういいよ。そうだね、サウザのシルヴァーもらおうか、ストレートで」

 ちょっと冷えちゃったからね。

 二人組みは何か話しながら喜んで飲んでいる。結構ピッチが早いけど、そんなに連続で二杯も三杯も飲むようなものではないよな。

「そうか、これって家でもつくれるかな」

 シロウト氏が何か言い出した。

「シェイカーとか持ってないけど、ジューサーミキサーだったらあるし、出来ないことないな」

「でも僕は面倒くさがりだし、お前ほど酒が強くないからな。家ではちょっと」

 そうだ、シロウト氏は酒は詳しくないけど結構酒に強いんだったな。メガネくんは比較的弱い。

「あまり強くなくて簡単な夏向きカクテル、なんてのもあるよ」

 マスターの薀蓄うんちくが始まりそうだ。二人も興味深そうにマスターの話を聞く。

「フラッペ、っていうスタイルがあるんだけど、細かくした“クラッシュド・アイス”をグラスに入れて酒を注ぐだけ。これならつくるのは簡単だろう。酒は好みのリキュールを使うといい。メジャーなところでは“グリーン・ミント”を使った“ミント・フラッペ”。ペパーミント・ジェット27だったらアルコールも21度でスピリッツの半分ぐらいだから、あまり強くないしな」

「へぇ、それなら僕でも簡単に出来そうだな」

「基本的にはほとんどどんなリキュールでもできる。色のキレイなものなら他にメロン・リキュールの“ミドリ”とか、すみれ色のパルフェ・タムールとかもいい。いかにも夏っぽい感じならココナッツやカカオ、パッション・フルーツのリキュールなんかもおススメだ」

 フラッペか。夏にはそういうのがイイんだろうけど、俺には縁がないかな。

「旦那だったらシャルトリューズやベネディクティーヌみたいな香草系のリキュールがいいんじゃないのかい」

「俺はオン・ザ・ロックで十分だよ」

 ベネディクティンD.O.M.のフラッペっていうのはちょっと興味を惹かれるけどね。

「氷を薄く削って“シェーヴド・アイス”にすると、それこそカキ氷のように食べるカクテルにもなるよ」

「あっ、それならウチの子も大丈夫かな」

「大丈夫なわけないだろ、バカ」

 アルコールも回ってきて更に賑やかになってきたようだ。俺としては静かにおとなしくのんでいたいのだけれど、まぁたまにはこういうのもイイか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ