表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BAR 夜明ヶ前  作者: 沼 正平
31/99

原酒と濾過

前回の続き

今夜はマスター手造りのコンニャクと生牡蠣のつまみでご満悦だ。いつもはついついつまみなしでひたすら洋酒を流し込んでいるけど、日本酒だと酒の肴に合わせる楽しみってのがあって、こういうのもたまには悪くない。でもついつまみの美味さに気を取られてしまっていたけど、日本酒のことももっと知っておく必要はあるかな。

 マスターはCDを入れ替えているところだった。先ほどの大西順子と替わって、今度はまたとてもファンキーなピアノが掛かっている。

「マスター、これは誰」

「上原ひろみさんのピアノだ。カッコイイだろ」

 これも女流ピアニストなんだ。凄い速弾きで確かにカッコイイな。

「ところでマスター、最初に呑んだお酒は無濾過で原酒とかって話だったけど、“無濾過”とか“原酒”について教えて欲しいんだけど。まぁ原酒ってのはウイスキーなんかでも使う言葉だから何となくわかるんだけどね」

「ほう、原酒はわかるかね」

「カスク、フロム・ザ・バレルってヤツでしょ。出来上がった酒に水を加えてない酒」

「まぁそんなところだろうけど。焼酎なんかも原酒ってのがあるよな。でも酒税法上の関係で44度までしかアルコールを高められないんだ。で、日本酒の原酒だけれど、これはもう搾った後に何も加えない、ってのが大原則。まぁ早い話が加水しないってことなんだけど。“火入れ”に関しては原酒と名乗るのに何の問題もない。火入れしてないものは“生原酒”ってことになるな」

 なるほど、火入れした普通の“原酒”と“生原酒”があるんだな。

「ここでちょっと気にして欲しいんだけど、“アルコール添加”ってのがあるんだよな。“本醸造”なんていう酒はアル添してある酒だ。ところが“本醸造原酒”なんてのがあるんだよ」

「あれ、ホントだ。何も加えないのが原酒なのに、何でアルコール添加してあるんだろう。水を加えるわけじゃないからイイってことなのかな」

 不思議だな。アルコールを添加したら“原酒”ではなさそうだが……。

「タネあかしするとこういうことだ。酒を搾ることを“上槽”と言うんだが、上槽の直前に搾る前の状態である“もろみ”に醸造用アルコールを入れるんだ。アルコールはそのまま搾るための“ふね”をスルーするから、結果的には醸造用アルコールを添加した酒が搾れることになる。もちろんアル添済みだから、搾った後に何かを加えなければ本醸造の原酒になる。これがアル添原酒の仕組みだ」

 なんかインチキみたいな感じがするな。

「この“上槽前”ってのがポイントだよ。これは原酒に限らず全てのアル添で共通。搾った後にアルコールを添加すると、世界的な規格からすれば“醸造酒”ではなくて“混成酒”、リキュール扱いになってしまうのさ」

「じゃあ“純米原酒”ってなっていれば、本来の米と米麹と水だけの原酒ってわけだね。それだったら搾った後に何も加えてないんでしょ」

「ところが、実際には1%までの加水は認められているのさ。これはアルコールの調整用ってことになってるけど、濾過の際にはどうしても水が入ってしまうし、瓶詰めの時だって洗浄したポンプやパイプの中にわずかに水は残ってるからね」

 どうも日本酒ってのは色々と逃げ道が用意されてて、グレーな感じだ。

「まぁ原酒の方は何となくわかったよ。次は“無濾過”ってのを教えてくれない」

「濾過な。日本酒の濾過ってどんな感じでやってるかイメージ出来るかい」 

 そうあらためて言われると全然自信がない。濾過って言うくらいだからきっとフィルターなんかを通してるんだろうけど……。

「日本酒は炭を使って濾過するんだが、中には活性炭フィルターや浄水器的なものをイメージしている人もいると思うよ。実際にはパウダー状の粉炭を酒の中に入れてしまうんだ。もちろん酒は真っ黒。この細かい炭の粒に、更に細かい日本酒の雑味成分、色を黄色くしているもとになる成分なんかを付着させて、それらの雑味成分を炭ごとフィルターで濾過するんだよ」

「酒に直接炭をぶち込むんだ。思ってもみなかったよ」

「濾過器の方は布フィルターや紙フィルターのものがある。最初に水を濾過器内に循環させて、そこに濾過槽をつくるための“濾過材”を流し込む。濾過槽が出来たところで水の代わりに酒を送ってやって黒い酒を綺麗な酒にするんだ。この濾過がうまくいかないと黄色かったり炭臭がする酒になってしまう。またこの時にどうしても水が混入してしまうので、余程気をつけないと1%以上の加水になって、原酒として販売出来なくなってしまうんだ」

「なるほどね。濾過で雑味とか悪い色をとり除くわけだ。でも“無濾過”ってのは?」

「この濾過の時に、雑味と共に旨味成分もある程度濾過されてしまうんだ。だから雑味の少ない良い酒だったら濾過する必要もないんだよ。色の黄色いのだって、それが本来の酒の色なんだから、そんなに気にする必要は感じないしね」

「じゃあ“無濾過”っていうだけで“良い酒”ってことになるのかな」

「まぁそうとも言えるけど。でも燗に向くコクのある酒なんかは苦みや渋みも味わいの内だけど、吟醸系とかはやっぱり雑味が少ない方が美味いだろうな」

 濾過ってのも今まであまり気にしていなかったな。今夜は色々と勉強になったよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ