思いを紙飛行機に乗せて…。
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秋空は朱に染まり、黄昏が舞い降りる。
なんて、詩人のような事を考えてみたけれど、現実逃避は出来ないみたいだ。
目の前にあるものを眺めていると、ため息が勝手にもれてくる。
辛い……なんて、辛いんだよ。
「どうしたの? 暗い顔して……」
「ひゃっ」
誰もいない秋の夕暮れに赤く染まる教室。もうみんなは帰ってしまい、僕がただ一人残っているはずだった。
そう思っていたからこそ、突然聞こえてきた声に驚き、素っ頓狂な声を上げてしまったのだ。
「あはははっ――アッキー、女の子みたいっ」
「と、ともちゃんっ、び、びっくりさせないでよぉ」
お腹を抱えて笑っている女の子は、僕を見て更に笑い出した。
ショートカットの髪を振り乱して、笑っている姿はお世辞にも可愛いとは言えないよ。しかし、なんでこんなに笑われているんだ、僕は。驚いたから、ちょっと変な声が出ただけじゃないか。
「ご、ごめんって。だって、変な声出して暗い顔してるんだもん。気になるでしょ?」
「え……あ、うん」
「どしたの? アッキー」
首を傾げながら、僕の顔を覗き込んでくるともちゃん。この子は、上城智子。
同じクラスで、僕の友達の中でも一番、仲のいい友達の一人。ちなみに、僕の名前は彰人だからアッキーと言う訳。
”アッキー”や”ともちゃん”と言う呼び方は僕達の中でいつの間にか決まった、あだ名みたいなものだ。
でも、さすがに高校一年にもなって『ちゃん付け』は少しきついあだ名では、あるんだけどね。本人はとても気にいっているのだから、いいのか知れない。
「別に……なんでもないよ」
「ほんとに……? 妖しいなぁ、アッキーは嘘をつけない顔だからすぐにバレるよ?」
「うっ」
不意に近づいた顔に、もの凄く心臓がドキドキとしてしまった。
クリクリとした瞳で覗き込むともちゃんの顔と僕の顔は、あと数センチでくっつきそうな距離。
「ほらねぇ。ほんと、素直だね……アッキーは」
「そ、それは……」
僕の気持ちなんてまったく気付かずに、ゆっくりと離れていくともちゃんの顔が、少し呆れた声でため息をついて僕の机に腰掛けている。目の前には、制服から伸びる白い足がプラプラと動いていた。目のやり場にとっても困るんですけど。
短いスカートなんだから、そんなに足を動かした見えちゃうって!
「おんや? ……これ、なにぃ?」
「あ、ちょっ! だ、だめっ」
僕の机の上に置かれていた紙を、無造作に取り上げていくともちゃんを、止める事が出来なかった。
気が動転していて、すっかりこの事を忘れていた。どうしよう、まだ秘密なのに……。
まだ、話すのに気持ちが整理できてないのに――
「……え? これって――」
僕はただ、下を向く事しか出来なかった。驚いて声を失っている、ともちゃんの顔を見る事も出来ない。
静かだった教室が更に静かに感じる。今なら僕の心臓の音が、ともちゃんにも聞こえているんじゃないだろうかと思うぐらいだ。紙を持つ手が震えているのか、カサカサと音だけが聞こえる。だけど、その音が怖かった。
ただ、怖かった。
何を言われるのか分からないけど、でもきっと怒るだろう。ともちゃんは、隠し事が大嫌いな性格だ。
それに、言いたい事はスパッという女の子。僕の憧れであり、そして大好きな人。
「どう言う事……? 転校って」
「えっと……。その」
上から聞こえてくる声は、すごく冷静に言っているように感じた。でも、どこか感情を押し殺したような声。
怒っているよ、どうしよう。本当は、もう少し先になってから言うつもりだったのに。
「ねぇ……アッキー」
「う、うん。父さんの仕事の都合で……急に決まったんだよ」
静かなともちゃんの声に、絞りだす僕の声は震えていた。不意をくらったような告白に思うように声が出てこない。
「……いつ?」
「今月……いっぱい、だよ」
怖くてともちゃんの顔なんて見れない。ただ、下を向いているけど震えているのは、分かっている。
下を向いても見えているともちゃんの足が、小刻みに震えているから。きっと、怒っているんだ……。
「アッキー、顔……上げてよ」
「……うん」
「くすっ。アッキーもしかして、泣いてる? 泣き虫だなぁ……アッキーは」
そう言われてゆっくりと顔を上げると、ともちゃんは僕を見て笑っていた。
なんで? なんで笑っているの? どうして、笑っていられる? 僕はこんなにつらいのに。
転校の話を聞いて、真っ先に思い出したのはともちゃんの事だった。
いつも一緒でみんなと仲良く遊んでいたけど、その中でもともちゃんは僕にとって、特別な存在。
……それが、いつからなのかはハッキリとは分からない。
でも、この気持ちに気付いた時は恥ずかしくて、それ以上に嬉しくてたまらなかった。
ずっと一緒にいたいって思っていた。いや、今でも思っている。
だから、この気持ちを伝えたいと思っていた矢先に、これだ。結局、伝える事は出来そうにないよ。
きっと、迷惑になるから。
「でも……。これで、アッキーは泣かなくて済むよ――それっ」
その声に顔を上げると、ともちゃんがゆっくりと窓の外に向かって、何かを投げていた。
綺麗な弧を描いているのは、紙飛行機。赤い空に、吸い込まれるように飛んでいく、白い紙飛行機。
やがて飛ぶ力を失い、スッと地面へと下りていった。
「これで、アッキーは泣かなくて済むね。よかった、よかったぁ」
「え……? え、あっ」
笑みを浮かべているともちゃんは、両手を広げて喜んでいた。だけど、何か足りない。
そうだ、手に持っていたはずの紙を持ってない。
「あ、あれって……もしかしてっ」
「そうだよ。アッキーの転校手続きの紙だよ――よっとっ!」
ブラブラと揺れていた足を止めて、机の上から腰を浮かして軽快に飛び降りて、おかしそうに笑っているともちゃんが窓の外を見て、そう悪びれた風もなく言い切っている。
「ダメだよ。あれは、持って帰らないといけないのに……」
「いいじゃんっ、無くしたって言えばさぁ」
窓の外を覗くと、風に吹かれて地面を滑っていく紙飛行機は、僕の視界から段々と見えなくなってしまった。
「そんな訳には、いかないよ」
無くなっては大変だと思い、立ち上がって取りに行こうとする僕の背中に、不意な温もりを感じて胸が高鳴った。
咄嗟に何が起こったのか、理解するのに時間がかかり、思考が停止しそうなる。
「ダメ……」
「……え?」
弱く囁くようなともちゃんの声に、背中の温もりがともちゃんだと分かるまでに更に数秒。
でも、それがともちゃんだと理解しても、信じられなかった。ここにいるのは、僕とともちゃんだけだ。
だから、それは分かる。しかし、なんでともちゃんが僕に抱きついているのかが、分からない。うるさいくらいに鳴り響く僕の心音が、考える事すら邪魔をしている。
「あ、えっと、とも――」
「いっちゃ……ダメ」
首にかかる息が妙にくすぐったくて、熱っぽい吐息に更に心臓が跳ね上がる。
だけど、そんな事を考えてる場合ではない。『いっちゃ…ダメ?』行っちゃダメってなんで……?
「あれは、捨てたの……。アッキーは、あれを拾ったらダメだの」
分からなかった。ともちゃんが何を言っているのか、何を言いたいのか分からなかった。
「でも……あれは」
「あれがあると……アッキーは、いなくなっちゃうんでしょ? ……だから、捨てたのよっ」
少し声を荒げて、背中にしがみ付くともちゃんの指に力が段々と、こもっていく。
言っている事が、小学生の考えみたいだよ。
紙飛行機を作って飛ばしてもどうしようもない、て分かっているはずなのに、なんであんな事したんだろう。
「だけど、こんな事しても……」
「分かってるよっ!」
「うわっ」
突然、大きな声を出して僕を突き飛ばしたともちゃん。
いきなりの事に驚いて振り返ると、大粒の涙を目に溜めたともちゃんの顔が、真っ先に目に飛び込んできた。
「私は、嫌なのっ」
真っ直ぐ、僕を見つめるともちゃんの瞳には怒りとは違うものがあった。
もしかして、泣いていたのはともちゃんの方? 笑いながら、心で泣いていたの?
「……ともちゃん」
「だって、遠くに行っちゃうでしょ? あんな紙一枚で、アッキーは行っちゃうでしょっ!」
涙をこらえながら、必死に話していたともちゃんだったけど、ついにこらえきれなくなり顔を覆ってしまった。
指の隙間から零れ落ちる一滴。それにどんな思いがこめられているのか、僕には分からない。
「いやだよ……。もっと、一緒にいたいよ……アッキー」
その言葉は、僕が一番言いたい言葉。そして、伝えたい言葉だ。
呆然としていた僕の胸に、フワリと感じる重みと鼻をくすぐるシャンプーの香り。その全てが愛しくて、僕のものにしたいという感情が湧いてくる。叶うなら、そうしたい!
「どこにも行っちゃ……やだよぉ」
だけど、その言葉に返す言葉がない。
上辺だけの言葉ならなんでも言えるけど、でも僕自身の気持ちを伝える事が出来ない。本当はどこにも行きたくなんかないっ! ずっと、ここにいてみんなと一緒にいたい。何より、ともちゃんと一緒にいたんだ。
「僕も、行きたくないよ」
「アッキー……」
胸が痛い。大好きな人が泣いているのに、かける言葉が無いなんて……。
しかも、その思いは伝える事が出来ない。いや、伝えるのは簡単だ。だけど、僕はここからいなくなる。
「だけど……ごめん」
それも、簡単に会える距離ではない場所に僕は行く。だからこの思いは、秘密にしなければいけない。
「――か」
「え……?」
小さくて聞き取れなかった声。震えているともちゃんの手に力がこもっていく。
「ばかっ!」
僕を突き飛ばして、そのまま走り去っていくともちゃんの後姿を、ただ見つめていた。
胸の痛みは、突き飛ばされたから? それとも、別のもの?
込み上げてくる行き場の無い感情に、気付いたら僕は泣いていた。
次々と流れ落ちていく涙を、僕は止める事が出来なかった……。
時間と言うのは、経つ時はあっと言う間に経つものである。
明後日、日曜にはこの街を去らなければいけない。だから、今日がこの学校に来るのが最後。
あれからすぐに、僕が転校する事はクラス中に知れ渡る事になった。さすがに最初は驚いていたけど色々と励ましてくれたり、心配されたりと忙しい日々だった。なんだか楽しくて、でも寂しい日々。
そんな思いを感じているのは、きっとあの日の出来事がそうさせているに違いない。あの日、僕は勇気が出なくてグルグルと廻る色んな思いが一辺にあふれて、自分が傷つくのが怖かった。
そして僕は、大切な人を傷つけた――
静かな教室で一人残って、机の中に残っている教科書を鞄に詰め込んでいるが、ほとんど持って帰っているので意外と簡単に終わりそうだ。
友達が僕の送別会をしてくれると言っていたが、どうしてもそんな気分にはなれなかった。
気持ちはすごく嬉しかったのだが、そこには一番来て欲しい人は多分来てくれないだろう。だから、行きたくない。
いや、嫌な思い出を残して行くのが、耐えられないと言うのが本心だ。
「これで、最後――あれ?」
机の中からノートを出していると、その中の一冊に見覚えの無いものが紛れていた。
男の僕が決して持つ事がないだろうと思われる、ピンクの表紙をしたノートで、しかもまだ新しい。
中を開いてみると、まったく何も書いてないようだが、ノートとは少し違うみたいだ。
よく見れば、これは便箋。可愛いイラストが隅にちょこんと書いてある薄いピンク色をした便箋。
誰かが間違えていれたんだろうか?パラパラとめくっていくと、突然何かが剥がれるように落ちていった。
「見つけるの遅いよ……アッキー」
開け放たれた窓から、教室の中を優しく吹いていく風が運んできたその声に、慌てて振り向くと目を細めて
僕に微笑みかけている大好きな人が、そこにいた。
「……ともちゃん」
教室の扉にもたれるように立つともちゃんの姿は、どこか懐かしく包み込んでくれる優しさがあった。
「ふふ……。名前――久しぶりに、呼ばれた気がするよ」
そう微笑む顔は、僕の知っているともちゃんの笑顔。細めた瞳には、いっぱいの優しさが溢れている。
大好きなその笑顔を見ただけで、僕は涙があふれてくるのが止められなくなりそうだった。
「やっと見つけてくれたんだね……。まったく、時間掛かりすぎだよ」
「え……あっ」
その落ちていたものを拾い上げて見てみると、それはさっきの便箋にたった一言だけ、書かれていた。
――ごめんね。
だけど、その一言は今の僕にはどんな言葉よりも胸に響いている。僕は、許してもらえた。
大好きな人に、嫌われたままでここを去るのは嫌だった。だから、最後にどうしてもちゃんと謝りたかったんだ。
「ともちゃん……」
「ごめんね……。あの時は、突然だったから……その、気が動転していて……だから」
しどろもどろになりながら必死に話しているともちゃんの顔は、見る間に赤く染まっていく。
きっと、あの時の事を思い出しているに違いない。その様子がこの場には相応しくないと分かっていても、僕はおかしくて思わず吹き出してしまった。
「もうっ、なんで笑うのよっ」
「ご、ごめん……でも、なんかおかしくって」
頬を膨らませて笑っているともちゃんの顔は、更に赤くなって僕を睨んでいる。だけど、本気で怒っている訳じゃない。
それは、目を見れば分かる。
「もう……。ふふっ」
「あははっ」
楽しそうに笑って口元をほころばせて、声を上げて笑っていたともちゃんは、急に胸の前で拳を握りしめ、一呼吸おいて僕の方へと歩いてきた。 ただ、迷いも無く机の間を通り抜け、一直線に僕の方へと真っ直ぐに向かってくるともちゃんが、目の前に立ち止まり僕の目をすっと見つめている。
「アッキー……ううん、彰人」
その瞳を見た途端、心臓が跳ね上がり落ち着きを無くして、何も考えられなくてなっていた。
「な、なに……」
その瞳に吸い込まれそうになるのを、ただじっと我慢していた。抱き締めたい衝動にかられる。
この腕に大好きな人の温もりを感じて、お別れがしたかった。互いに見詰め合ったまま時間だけが過ぎていき、微かにかかる吐息が頬をくすぐっていく。ただ、僕を見ている瞳には優しさも何もかもいっぱい、詰まっているような気がする。
「え……と、あの、と、ともちゃん?」
「――智子って呼んでよ。もう……鈍感」
頬を赤く染めて、口を尖らせているともちゃんが僕を見つめたまま大きくため息をついていた。
「……彰人」
そう言うと、僕の方へと身体をあずけてきた。
咄嗟に腕を伸ばして体を受け止めてようとしたら目の前にあった顔は、すぐそばに、
「んっ」
どちらの声かなんて、分からない。それは今、一つになって繋がっているから……。
突然の事に頭の中が真っ白になりかけていたけど、唇に伝わってくる感触に神経が集中していく。
柔らかい温もりと感触が、触れている部分からどんどんと溢れてくる。
「あのね……。わ、わたし……あの時に伝えたかった事があって」
名残惜しそうに、そっと離れていく唇が微かに動く。ともちゃんが何を言いたいのか、今なら分かる。
あの時の行動も言葉も、それがともちゃんの気持ちを表していた事を教えてくれている。だから、僕が言う。
僕もずっとその気持ちを持っていたから、だからこれだけは僕から言いたい。
「ともちゃん、僕は――智子が好きだっ」
言った……。
心臓がバクバクと跳ね上がっているけど、とても気持ちがいい。
恥ずかしくて顔が赤くなっているのが分かるけど、それでも正直に伝えられた事が嬉しい。
「うん……私も好き。大好きだよ……アッキー」
薄っすらと瞳に光るものが溢れてきているともちゃんは、ゆっくりと頷いて僕の首に抱きついてきた。
ギュッと腕にこもる力に、ともちゃんの気持ちを感じる。同じ気持ちを持っていた事が嬉しい。
同じ気持ちを持てた事がすごく嬉しい。僕は、今なら心から言える。智子が好きだって、大好きだって……。
「ふふふっ……。ものすごく恥ずかしいね、アッキー」
「そうだね。恥ずかしいけど……嬉しいよ」
耳元で聞こえる声は、恥ずかしそうに囁くがどこか楽しそうに、更に力がこもってくる。
僕達の思いは今一つになった。それが嬉しくもあり、恥ずかしくもあるが幸せな気持ちでいっぱい。
「でも……」
「ダメだよ、アッキー」
人さし指で僕の口を塞ぐようにして、微笑んでいるともちゃんは、ゆっくりと首を振っていた。
「離れても、ずっと気持ちは変わらないから……。だから、『でも』はダメなの……そうでしょ?」
まるで僕の言おうとしていた事が分かっているみたいに、ともちゃんは「めっ」と言っておどけていた。
敵わないよ、ともちゃんには。僕の事、ちゃんと理解している。僕の考えている事を、ちゃんと分かっているから。
「それとね、アッキー……。メールじゃ伝わらない気持ちってあるから……だから」
ゆっくりと僕の正面に来る顔は、照れているのかさっきよりも赤く、そして熱っぽかった。
「……手紙書くね。いっぱい書くから……私の気持ちをこめて、いっぱい、いっぱい、書くからね」
「うん。僕も書くよ……いっぱい、いっぱい気持ちをこめて書くよ」
照れくさそうにそう言うともちゃんが、僕から離れていく。温もりが離れて行くのは寂しいけど心までは離れない。
たった今、通じ合ったばかりだ。それを表すように、僕の手はしっかりと握られている。
「そうだっ。ねぇ、アッキー」
「え、なに? ともちゃん」
何かを思いついたのか、楽しそうに声を上げて僕の机の上を漁り始めた。
今、片付けてるのに散らかしてるよ。まったく、ともちゃんはどんなになっても、ともちゃんって事だね。
だけど、僕はそんなともちゃんだから好きなんだ。
「よし、これに今の気持ちを書こうよ。ちゃんと、正直に書いてよね」
ともちゃんが手に持っているのは、ピンクの便箋。楽しそうにペンを走らせていて、軽快な音をたてている。
「よしっ、書けたぁ――はい、アッキーの番だよ」
「うん。えっと、ちょっと……ともちゃん。そんなに覗かないでよ」
「だって、私の書いたの見てるもんっ。アッキーだけずるいよぉ」
「恥ずかしいって…」
僕の背中に乗って覗いてくるともちゃんの顔が、楽しげに微笑んでいる。それを見て、自然と僕も微笑んでしまう。
ともちゃんが書いた気持ち。僕はそれに今の気持ちを続けて書く。
「よし、じゃぁ――飛ばそうっ」
「え……飛ばす?」
今書いたばかりの便箋を、半分に折ってそれを更に折っていく。
「うん。私達の気持ちを紙飛行機にして飛ばしたら、空いっぱいになるかなぁって思って……」
両手を広げて楽しそうに空を眺めているともちゃんを、夕日は綺麗に照らしだしている。
この気持ちを空いっぱいに出来たら、きっと寂しくなんかないよ。
だって、この空は繋がっている。やがて便箋は綺麗に折られて、紙飛行機の形をしていた。
ピンク色の紙飛行機。
その中には、僕達の気持ちがいっぱい詰まっている。
その気持ちを空にのせて、
「それじゃ、飛ばしちゃうよっ――それっ」
手から離れていく紙飛行機は、きれいな夕焼けの空を僕達の思いをのせて飛んでいく。
繋がれた手と同じで、僕達の気持ちはいつまでもどこまで繋がっている。
「飛んでけぇ!」
「どこまでも、飛んでいけぇ!」
ゆっくりと飛んでいく紙飛行機を、いつまでも僕達は眺めていた……。