私が生きる道
私が生きる理由はなにか。兄のため?
それは違う。兄もそんな生き方は望んでないことは知っている。
じゃあやっぱり自分のため。けど何がしたいかわからない。
ただ目の前のじゃまな人間を斬って殺して生きるそれだけ。
あとは何も考えない。それが正しいとは思えない。けどそれが楽、苦しくない。
昔からそうだった。荒れた西の大地を歩きまわり、飢えから自分を守る毎日。
ただただそれが苦しい。生きることが苦しいけど死にたくはない。そんな毎日が変わったのは突然だった____。
アリスを兄のジャックが連れて助けを求めたのはたまたま仕事で村に立ち寄った傭兵の集団だった。
のちに彼女も所属することになった猟兵旅団だったわけだが、彼女がすることは今も変わっていない。
戦場にでて相手を倒す。もちろんそんなアリスに兄は総隊長に相談して安全で戦場から遠い仕事に回してくれた。彼女は兄の優しさを感じてその仕事を引き受けたがどうしても戦いたい自分のなにか嫌なものを感じてしまった。
彼女はなんどか自分で抑え込みながら仕事をこなしていた。だけどとある時のことだった。
他の隊員数人が賊の集団を捉えたという情報を聞き近くにいたアリスも応援として駆けつけた。
仕事はけして戦うものではない。もう捉えられた賊の構成員を他の隊員と一緒に国の軍隊に受け渡すものだった。
受渡し場所は、大きな川が流れる橋の上で行われた。彼女たちは軍隊の隊長からお金を頂きそして賊を受け渡すところだった。
その時、賊の一人がなにか変な行動をとろうとした。
まだその時は彼女は気づいてなかったが次の行動ですぐに気づくことになる。
賊の中でも若い男が仲間の隊員の剣を抜き隊員を斬り倒そうとしたのだった。
賊を縛っていたはずの縄は解かれていてその男は完全に油断していた隊員の腰に下げている剣を奪ったのだった。
となりにいた他の隊員が危険を察知して行動に出ようとしたが少し遅かった。
「おい、あぶない!」
仲間の声を聞いた隊員は後ろを振り返り状況を理解した。
その隊員は急いで距離を離そうと後ろに飛びのいたが間に合わず右肩を斬られてしまった。
障壁ごと斬られた肩から飛び散る血の雨。出血を抑え込もうとする隊員と賊を捉えようとする軍の人間。
だが他の賊に邪魔されてうまく捉えられない。そんな時、アリスの中で何かが切れるような音がした。
彼女は血を見てとても気持ちが高まるのを感じたのだ。
アリスは携帯していた大型のナイフを手に持ちマナを身体に通わせる。強化魔術の一つ加速を利用した彼女の身体は、他の人間が若い賊を捕まえるより速かった。
(そこから先は語らなくてもわかる。ただ覚えていたのは皆が私を恐怖の対象として見ていたことだけだった。)
そのあと、彼女たちの仕事の結末を知ったジャックと総隊長は彼女を極端に戦場から避ける仕事をまわしてこなくなった。
「ねえ、大丈夫ですか!? 医者でも呼びましょうか?」
アリスは状況が読めないまま少しの間、話しかけてきた同年代と思われる少女をみていたのだが彼女はは今現在、怪我をしている兄を背負い学園都市リディカレアに来ていることを思い出したのだ。
「問題ないです。後ろの兄は殺そうとしてもしぶとく生きる獣見たいな男ですから」
「そ、そうですか・・・傷が痛そうにみえたので」
彼女は仕事のことを思い出し都市に住んでいるだろう彼女なら案外、ここにいる猟兵旅団の隊員のことを知っているのではないかと考えた。
「ここに最近来たツバキという人物を知りませんか? 学園に通ってると思うのですが」
「ツバキさんですか。知ってますよ」
(本当に案外知っていたりするもんだとこれから聞き込みながら歩きまわることがなくて良かった)
「今どこにいるかはわかりませんか?」
「ちょっとそこまでは・・・けど知っている人物はわかります」
少し困った顔をした彼女だったがすぐにやさいい顔になり頼もしい発言をしてくれた。
「そうですか。よろしければ紹介してもらえませんか?」
「ええ、もちろんです。あ、私はリリーと申します。よろしくおねがしますね」
リリーの丁寧な自己紹介に少しカタコトで彼女は自己紹介を返してしまった。
「こ、こちらこそ、わざわざすみません。わ、私はアリスと言います。背中のは兄のジャックです」
「いえいえ、困っている人がいれば手助けするのは当然ですよ。それでよろしくねアリスさん」
「はい」
案内してくれるというリリーの後ろについて彼女は都市内部の道を歩いて進んだ。
人が多い商店街を抜け、中央にそびえたつ塔の横を通り、東の森の間にある道を進んだ。
すぐに目的地と思われる建物がみえた。とても大きなお屋敷で彼女はどんな人物が住んでいるのだろうかと考えたがリリーの知り合いと言うのではきっとやさしい人物だと思った。
リリー建物内に入り誰かと会話をしている声が聞こえる。その後すぐに誰かを連れて外に出てくるのが確認できた。
「ふふ、始めましてエレガノといいます。どうぞよろしくねアリスちゃん」
「あ、はい」
建物からリリーと一緒に出てきたのは、エレガノと名乗るとても綺麗なドレス姿の女性だった。
「ここまで来て頂いて申し訳ないのですが今日はツバキを見たのは学園を出る前が最後だったので、今はどこにいるかは・・・もしかしたら商店街にある喫茶オダインにいるかもしれませんわ」
「商店街ですか」
さっきまでいた場所だとわかったアリスは少し残念に思ったが、新しい情報を手に入れたのでよかったとも思った。
「ごめんね、たいして役にたたなくて」
「いえ、ありがとうございます。エレガノさん。あとリリーさんも。あとは一人で探せそうです。それでは失礼します」
彼女らの返答が返ってくる前にすぐにアリスは来た道を戻り始める。
商店街を歩きまわり始めてすぐに彼女は運よく目的の喫茶オダインを見つけることができた。彼女が中に足を入れると中から店員の少女が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ・・・こちらの席へどうぞ」
アリスは兄を隣の席に転がすと勧められた席に座った。
「おとうさん、お客さん」
店員の少女がキッチンの奥に呼びかけると中から髭づらのやる気のなさそうないつものジョージがでてきた
「おお、いらっしゃい・・・ところでそのよこの男性は客として扱えばいいのか?それとも病人か?」
「・・・兄ですが今は荷物として見ていただければいいです」
「そうかい」
彼女はドリンクを注文するとともにここにいないのはわかっていたがツバキという隊員の居場所を尋ねてみることにした。
「今日はここにツバキという男性はこられていないですか?」
「ツバキか。知り合いか?もしかして猟兵旅団の」
「はい、そうです。・・・よくわかりましたね」
「血の匂いって奴だ・・・」
アリスはこの人はただの喫茶店の店主ではないことを理解して、ナイフにてをかけた。
「おいおい、娘の前でそんな物騒な物はださないでくれよな。おっさんは実はそっち系商売もここでしているんだよ」
「なるほど、そういうことですか」
そのことの意味を武器商人かなにかだとわかアリスはナイフを元に戻して改めて居場所を聞いた。
「あいつなら、今は警察署だわ」
「警察署?」
「ああ、別になんかしたわけではないぞ。ただ魔獣退治の仕事を引き受けに行ったんだ」
「そういうことですか」
アリスは注文したドリンクを飲みきり席を立った。
「おう、もう行くのか。ところでその荷物いや兄をここにおいていくといい。あとで戻ってくればいいだけだろ?」
(私は少し考えたがこの人たちが兄になにかするとは思えなかったので荷物、いや兄をあずけて警察署に向かうことにした)
「痛いんですけど・・・」
「我慢しろ、男だろ」
「けど警部の蹴りは反則ですよ。どんな鍛え方したらそんな力になるんですか・・・」
「はっは、こいつは鍛練だ」
「いやいや」
彼女が警察署につく前に何かがあったのだろう。警察署内はひどい荒れようだった。
「ん、人か?ああ悪いな嬢ちゃん。ちと荒れてるが何か用か?俺は警部だ。なんかあれば聞くぞ」
「そちらのツバキさんに」
「警察じゃなくて俺にようなのか?」
(黒いコートの中に猟兵旅団の隊員が利用している戦闘服がみえる。彼がツバキで間違いないようだ。)
「はい、旅団の連絡係です」
「おお、やっときたか!」
「けど、たしか連絡はジャックの奴だって聞いてたんだが?」
「兄は怪我をしたので途中で立ち寄った喫茶オダインに捨ててきました」
「おいおい」
(そういえば、兄がこのツバキという隊員とは親友だとか言っていたのを聞いた覚えがあった。)
「とりあえず、これが手紙と荷物です。」
「しかしそうか、妹がいるとは聞いていたががあんたがジャックの妹か・・・兄と違って普通そうだな?」
「兄と比べられたらだいたいの人間が普通の人になります。」
「それもそうだったな。とりあえず改めてよろしくな。俺はツバキだ」
「どうぞよろしくお願いします。妹のアリスです」
彼女はお辞儀をしてできるだけ丁寧に言葉を返した。
ツバキとコロソン警部が魔獣退治にいくのにアリスもついていくことになった。
「警部。ところで魔獣ってどんなタイプの奴ですか?」
「ああ、そうだな飛行能力を持った中型のタイプだ。格闘しかできない俺ではどうも闘いづらくてな」
飛行タイプの魔獣は、相手を攻撃するその時しか地上に降りてこない警戒心の強い魔獣だと言われている。ものによっては火球を吐き出す魔獣すら存在する。もちろんこちらも放出系の魔術が使えれば問題がないがコロソン警部は利用できない。
彼女たちは、警察署をでて商店街を通っていた。
「おお、警部!見回りですかい?」
「いや、これから依頼のあった魔獣を退治しに少し都市外にでようと思ってな」
「そうですか。気をつけてくださいな。そうだこれを受けとってください」
「ああ、悪いな」
コロソン警部に話しかけていたのは街の商人だった。
彼女の位置からではよくみえなかったが、渡していたのは傷薬の袋のだった。
「あら、コロソンさん。今日も見回りかい?」
何度か角を曲がり一件の蒸し焼きの屋台の前を通る時にまた警部を呼ぶ声がした。
「いや、今日は魔獣退治だ」
「そうかい、そうかい。若いお嬢ちゃんたちも大変だね。これをお食べ元気でるよ」
「おお、助かります」
屋台のおばちゃんは、そういって饅頭のような物を彼女たちに手渡してくれた。それを受け取るや口いっぱいに入れ込もうとするツバキをみてアリスは笑った。
なんどか屋台のお店の前を通るたびに食べ物を頂いて都市の正門を出るころには彼の両手には食品が山積みされていた。
「警部は人望があるんですね」
「ん~、仕事中に貰うのは困るんだがあまり断るのもできなくてな」
「大変ですね」
アリスはいつの間にか心に思ったことを喋っていた。
それからはこのまま食べ物を持ったままではいられないので手分けして食べ、魔獣を退治するために森へ向かう。
「魔獣を見つけた」
前を歩いていたツバキが銃を取り出しながら示す
木の枝にとまっている報告通りの中型魔獣のようだ。鋭い牙と爪を持つ飛行タイプ。この種類はリディカレアに来る前に倒した小型のタイプと違い狂暴で人間を襲う恐れがある。
彼女は加速を使用してナイフを手にとり身体の前で構える。
横では警部が拳を突き出し構える。
先制を放ったのはツバキ。ライフル銃の引き金を引く。銃弾を発射した時の大きな音が森に響く。
発射された弾は獣の胴体を貫きその身体を地面に引きづり落とす。
ザワザワとざわめく森。どうやらさっきの銃声で他の魔獣が気づいたようだ。
「どうやらほかにもいるみたいだぞ。気をつけろ」
警部が周囲を見渡しながら注意を呼び掛ける。言われるまでもない。
アリスは飛んでいた中型魔獣を見つけ、近くにある木を駆け上がる。そしてその木を踏み台にして空中を徘徊する魔獣に飛びつきながらナイフを下ろす。血を噴出させ奇声を上げながら落下する魔獣を捨ておき、足場がわりに利用して隣にいた魔獣に飛び移る。そのままナイフを突き刺し横へ引き裂く。
共に落下するアリスと魔獣。彼女は落下した衝撃を転がることで軽減して立ち上がりながら次の獲物をさがす。
彼女は返り血を受けながら自分の気持ちが高まるのを感じていた。そして気づいた時には3人ですべての魔獣を倒していた。
「かなりの数がいましたので・・・警部。いままで都市に被害はなかったんですか?」
「そうだな。被害らしいものはなかったはずだが」
「しかしこんだけいると後処理も大変ですね」
「まあそれは他の警官を呼んでやらせるさ。お前らにそこまでさせはしないから心配するな」
アリスは魔獣の死骸を斬り裂きながらまだ闘い足りなさを感じでいた。
「おい、なにやってんだお前?」
そんな彼女の行動に奇怪さを感じたツバキが近づいてくる。
「・・・足りない」
「はっ!?」
「闘い足りない」
ツバキは後ろに数歩下がり、警部に話しかける。
「警部は先に帰って後処理について他の警官に話して置いてくれませんか?」
「ん、一緒に帰らんのか?」
「ええ、少しこいつに用事があるんで」
アリスを指差しながら答える。彼女のほうを向いた警部は少し怪訝な表情をしたが追求せず先に都市のほうへと帰っていった。
「おい!戦闘狂!俺が相手してやるよ」
「え?」
「いやー、絶対ジャックの野郎の妹が普通のわけがないと思っていたんだ。まさか狂ってたとはな」
「・・・兄はひどい扱いですね」
「お前も言えないだろ」
「そうですね」
アリスは笑う。それは兄の扱いにたいしての笑いなのかそれともこれから闘える喜びなのか。どっちにしても笑った。これから彼女にとって楽しいことが始まる。ツバキはアリスと一緒で戦場を生きたもの。強い敵と戦えることほど彼女にとってうれしいことはない。
「私と戦ったら死にますよ?」
「そうかもしかしたら死ぬのはお前かもしれないぞ」
「ふふ、いきます」
「その腐った根性叩きのめしたやるよ」
ツバキはライフルを構え、弾を撃ち放つ。アリスは大きく横に飛びのき彼の位置を確認する。さっきと同じ位置から動いていない。ツバキはさらにアリスに目掛けて銃弾を浴びせる。
それを彼女は前方に移動しながら身体を捻りかわす。ツバキは残りの弾を撃とうと構えなおす。彼女は持っていたナイフを投げつけた。
彼は驚きながらもナイフを銃でぎりぎりの所で受け止めた。近づいたアリスはツバキのライフル銃を横に蹴り飛ばして、もう一本もっていたナイフを取り出し突きかかる。
ツバキは彼女の腕を払いナイフの攻撃を防ぐ。そのまま彼女の身体を蹴り飛ばし、背中にあったショットガンを構えて撃つ。
アリスは炸裂する小さな弾を浴びて障壁を散らしながら後方に転がる。だが次の弾が彼女に命中する前にその場を移動する。その後2度銃弾を発射させた彼だが動く気配はない。
アリスは円を描くように彼の周りを回りながらさきほど蹴り飛ばしたライフルを拾う。ツバキが驚愕の顔を浮かべいたがすぐに銃を構えなおす。
アリスは前方に走りながらライフルを構えた。ツバキは彼女の動きを止めるためにショットガンの弾を撃ち放つ。アリスはそれを横に飛びながら避けライフル銃の残りの弾を撃つ。
彼は黒いコートを前方に広げて、銃弾を防いだ。魔法加工が施された物だ。アリスは銃に刺さっていたナイフを抜き不要になった銃をその場に捨ててナイフをコート越しのツバキに投げつける。
コートが役目を終え地面に落ちる時ツバキの居場所が彼女にわかった。そのままツバキは一歩も動いていない。
投げたナイフがツバキの身体に迫るが彼はショットガンの弾を吐き出しナイフを撃ち落とす。
(私の勝ちだ!このタイプのショットガンの装弾数は6発。これで彼は全弾撃ち放った。)
ツバキは銃の弾を取り出し銃に込めようとする。
だが加速で強化されたアリスの移動の速さはツバキが銃の弾を装弾するより速い。
彼女がナイフを構えてツバキに素早く駆け寄った。彼女の攻撃を2度も払いきれるほどツバキとの実力差はない。
___とても楽しい。勝つことはうれしい。
ツバキを殺してしまえば総隊長はアリスを処分するかもしれないがそれでも構わないと思えるほどこの勝負は彼女にとって楽しかった。彼女は笑う。
そして彼にナイフを突き刺すために近づいた。彼の顔を彼女はみる。どんな顔しているのか知りたかった。
悲痛の顔か、絶望した顔か、どれにしてもアリスにとってはうれしい。彼女の勝利は目の前なのだから。
だがアリスの身体は彼に一歩届かない。どうしてももう一歩前に彼女の足が動かないのだ。
アリスは彼の顔を見る彼は絶望していなかった。それどころか悲しそうだった。
ツバキは装弾した銃を彼女の身体に向ける。アリスは自分の足をみた。彼女の足を止めていたのは魔術式の仕掛け罠。
彼が移動しなかったのはこの罠に彼女をかけるためだった。
そして思い出す一つ忘れていたこと。
彼の名前を忘れていたのだ。彼の名前はツバキまたの名を亡霊。戦場にて多くの武器を使いこなす戦場の支配者だった。
「楽にしてやる」
彼が銃の引き金に指をかける。彼女の負けだ。残念だけど負け。アリスの瞳から涙があふれる。
___もっと生きたかったどうせならもっと女の子らしい生き方を・・・
彼女の意識は甲高い銃声が森に響くのと共に闇へと落ちていった。