親父の存在
彼が親父と出会ったのはいつの頃だったろうか。無残にも目の前で死んでいった当時の仲間たち。彼は今更ながら昔の記憶をたどっていた。
そんな彼を現実に呼び戻したのは学友のグレイだった。
「今日もなんか、話ばっかりだったな」
「__ああホントにな」
「俺は野外授業やサバイバル訓練みたいなのを期待したんだが」
「そうか。話は眠いだけだが楽でいいだろ」
学園生活が始まってからというもの授業は、冒険家としての心へだのと非実戦的なものが多く彼らには疲れる内容でしかなかった。彼らは実践的な身体を動かす戦闘訓練などのほが得意なのだ。それにもともと基本的な教育を受けていないツバキは残念ながら頭が良くなかった。
「どうだ帰りに飯でもいかないか?」
「いや今日はやめとくわ。てかどうせ俺のおごりだろ?」
「いや。そんなことないぜ・・・」
「無理すんな金ないんだろ? 」
「ばれたか」
グレイにたかって飯にありつこうとしていたツバキは残念がりながらも次に食べ物を頂けそうな喫茶オダインに向かった。
カラン_店の扉についていた鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
彼は店に入ると一番左奥の席に座る。
「なんだお前か」
「なんだとは失礼な! 客だぞ」
「金がない奴は客じゃないぞ」
「そこを恵んでくれたりはしないのか?」
「悪いがだめだな!」
ツバキにとってはもっと考えてほしいところであったが彼にしても商売なのだ。
「仕方ない帰るか」
ツバキはあきらめて席を立とうとするとキッチンの奥から声がした。
「まって・・・これ」
「焼飯だ。ありがとシゼルちゃん。おっさんと違ってやさいしなまるで天使のようだ」
「シゼル。こんなアホに恵んでやらなくていいんだぞ」
彼は飯を食べながら、不満そうなジョージに話しかけた。
「なあ、おっさん。なんか楽な仕事ってないかな?」
「仕事か・・・楽ではないが、たしかコロソンが使えそうな奴を紹介してほしいって言ってたな」
「マジかなんでもいいや紹介してくれ」
「内容はハードだぞ。都市外部の森に中型の魔獣が出没したって話が警察署にはいってな。コロソンってのはそこの魔獣対策を任されてる警部なんだが人手が足りないとのことでフリーの傭兵を募ってるんだ。」
「おう、やるやる。魔獣ぐらい大丈夫だろ」
「ホントに大丈夫か? 」
「まかせろ」
めんどくさそうにしていたがどうにか紹介してくれることになった。
ジョージは紙に書いた紹介状をツバキに渡しそれを彼は片手に警察署を訪れた。
「たのもう! 」
「なんかようか小僧? 」
なんと建物内にいたのはでかいトカゲだった。警察官の制服を着たトカゲ男だ。
「コロソンさんを探してるんですがいらっしょいますか? 」
「俺がコロソンだが」
(この人かよ怖いんだが。)
「ジョージのおっさんの紹介で仕事をさせてもらえるとか」
「そういえばアイツに話してたなそんな話。お前がやるっていうのか?」」
「そうだ」
「強そうにはみえんな、使えるのか? 」
「そりゃあ、あんたに比べたら弱そうかもしれんが戦場で生きてきたんでな」
でかい身体を持つトカゲ男に比べたら誰もが弱くみえる。
「どんな戦場かは知らんが子供のお遊びじゃないんだ。ジョージの奴め、紹介するならもっとましなのを紹介しろってもんだ。」
そのセリフには腹が立った彼はコロソンをにらみつける。
(たとえ魔術がろくに使えないからといっても戦場を生きてきた身だ。闘うことに対して馬鹿にされるのは黙ってられんな。)
「どうだ?トカゲのおっさん。ひと勝負しないか?」
彼は正直余裕だと思っていた。
「ほう言うじゃないか本気でいってやろう。1分ぐらいは耐えろよな」
トカゲの警官は身体にマナを巡らせる。強化系の特徴だ。身体が一回り大きくなったのを見ると純粋な肉体強化だとわかる。
彼らは、同時に前方に飛び出す。ツバキは早期決着をつけようとショットガンを構え、前に足を運ぶ。
コロソン警部も鍛えられた肉体をぶつけるかの意気良いでこちらに接近する。ツバキはトリガーを絞り、ショットシェルを銃口からはきださせる。弾は前方に迫っていたコロソン警部の胴体前で小さな弾が炸裂する。接近していた身体に大きな音とともに全弾が命中した。
彼はさらなる追撃を行うために弾のリロードを行い、引き金に指をかけるが、ショットガンの直撃をうけてなお前方に進んでくるコロソン警部に嫌な予感がして無理やり態勢をひねり横に飛びのく。
ツバキ身体の屈伸運動を利用して態勢を素早く立て直して通り過ぎたコロソン警部を確認するために後ろを振り向くと恐ろしいものをみた。
付加された魔法の剣の攻撃すら防ぐ防御服を貫くショットガンの弾を撃たれたコロソン警部の身体は傷どころか魔法障壁にヒビすら入れることができていなかった。それに加えコロソン警部がぶつかった後ろの壁は脆くも粉々に粉砕されていた。
ツバキは身体を流れる嫌な汗を感じながらも、それを打ち払うために全力で身体を動かした。
一撃が必殺の攻撃力を持つと思われるコロソン警部の動きを集中してかわしながらもどうにか一発づつ弾を当てていく。風を断ち切るかのような蹴りと風を貫くかのような弾の発射。警察署の中はぐちゃぐちゃだった。
決着がつかないまま1分どころか10分は時間が経過していた。
なんとかぎりのところで避けきっていたツバキの動きを読んだコロソン警部の蹴りが彼の額をかすめる。
飛びでる血とともに額を走る焼けるような痛みを感じながらも勝つために彼はあの障壁を撃ち破ることを考え強力なスラッグ弾を装弾する。その時、急にコロソン警部の動きが止まる。
「お前、魔術を使えないのか?」
「ああ、さすがに障壁がなかったから気づいたか・・・」
彼は大きく後ろに飛びのいて距離をおき止まる。
「ふ、気に入った。障壁なしでこの俺に挑むとはな、見上げた根性だ」
「別にあろうがなかろうが関係ないだろ。まあもろに蹴り食らってたら首が無くなるんだが」
ツバキは武器を下ろしてその場に座り込んだ。久しぶりに本気で動いた気がした。大型の魔獣を相手にするのより厄介なのではなかろうか。
コロソン警部もその場に座り込んで二人して無駄な時間を過ごした。
男は闘いの中で友情が芽生えるとはさすがに歳の差もあるし言えないが強敵であったのは確かだった。
彼はまるで親父と対面している時のことを思い出していた。なんど挑んでも倒すことができなかったあの親父をいつか越えることを考えてた日々の訓練。苦しい思いをしながらも生きたい。勝ちたい。それだけを考えていた少し前の彼。
(そういえば俺の目標は親父だったな。)
「少し、甘えてたかな・・・」
「ん、どうした?」
「いや、すまん。たいしたことじゃないさ。ところで仕事はくれるのか?」
「おう、当たり前だ。どんどん働いてもらうぞ」
彼の身体はへとへとだったが気持ちはいつもよりすっきりしていた。