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血染めの乙女

東都市連合国ヒルデカレア。そのうちの一つである学園都市リディカレアの東地区の屋敷にツバキはいる。


「なあ、お嬢! 人に大切な物はなんだと思う? 」


「知らないわよ! 今何時だと思っているの常識を考えなさい! 」


今はもう空は暗くマナの光が照らす街灯がかすかに光をもたらすだけの夜遅い時間だ。


しかしなんだかんだと言いながらエレガノ嬢は部屋に彼を通す。持つべきはやさしい友人だなとしみじみと彼は感じた。


「ところでなんだがお嬢。お腹すいたんだがなんかないか? 」


「知らないわよ! ずうずうしいわね。・・・もう、少し待ってなさいなんか作ってくるわ」


「よ! お嬢、麗しい! 」


「アホ言ってないでおとなしくしてなさい」


彼がリディカレアにきて2日目の夜だ。彼の親父が組織した猟兵旅団からの連絡はまだない。


(連絡役の変態野郎が速くこないことには俺がここにきた意味がない。)


 世界樹の護衛という命を受けたのは良いがなにをすればよいかなどはまだ彼はまったくわからない。


(樹を護るって言われて何が起きる?燃やされるのか。切られるのか。盗まれるのか。いやあんなでかいものを盗むのも切るのもダルそうだ。燃やすのもできるかどうか。)


____なんたって世界樹だからな。


しかし彼はのんびりできるだけでこの場所に派遣されたことは良かったと思ってた。もちろん金銭面を気にしなければという話は置いといて。


 猟兵旅団はもともと彼の親父と数人の親友で始まった傭兵稼業だった。もの探しや配達といった小さな仕事から始まり、名を上げることにより人数が増え仕事も荒々しいものに変わっていった。ただ彼の親父は大雑把でいつものんびりしているが奥がみえない男だったので彼は親父がなにを思ってこの仕事を引き受け彼に任せたか分かりはしない。だが彼にとっては親父の命令は絶対で、任された以上はやらなければならないという使命感があった。


「はい、作ってきたわよ。食べなさい」


「おう、助かる。さすがお嬢、うまそうだな」


「ふふ」


半熟のとろとろ感のあるオムライスだ。ソースはデミグラス。オムライスとはかわいらしいと彼は思う。


「うまい、最高です」


「当然だわ、この程度の料理どうってことないわ」


オムライス、それは基本料理に見えて奥が深い。まず卵だ、半熟に焼き上げた卵をのせて切り開き形を整えるのか、薄く平たく焼いた卵で包みこむのか。そしてソース、トマトベースで作りあげたケチャップソースか野菜を煮込みこんで作りあげたデミグラスのコクのあるソースなのか料理とは奥が深いものだと彼は思う。


「じつは俺も料理ができるんだぜ」


「あら、そうなの? 男性というものは料理をしないものだと思っていたわ」


「そんなことないさ。一人旅の時に自炊できないと困るだろ」


「なるほどね、確かにそうね。じゃあ必要だからおぼえたのかしら? 」


「まあ、そうだがやっぱ作ってもらったほうが良いな、お嬢の料理は美味しいし」


愛情がどうのとは言わないが、自分で作るより作ってもらったほうが美味しく感じるのでなかろうか。やはりそれは温かみというものを感じるからだろう。自分で作ったほうが自分の好きな味をつけれるので美味しいという話もあるがやはり彼にとっては作ってもらったほうが美味しくそしてうれしく思うのだった。


「ふふ、そう言ってもらうと作ったかいがあるわ」


「ところでなんだが寝るところを提供してもらえないだろうか? 」


「__ほんとに世話がやけるわね。そのへんで良いなら好きにしなさい」


「ありがたや」


彼はすぐに荷物を枕がわりにして寝ることにした。


(やはり外より良く眠れそうだ。感謝感謝。)



___時は数日前、中央貿易都市カルダにて。


「アリス、悪いがジャックを呼んできてくれるか?」


「かしこまりました」


大柄の人物に頼まれてアリスは部屋の外にでていく。


何故、どうして彼女がこのような仕事まわされなければならなかったのか。つい先月までは猟兵旅団が引き受けた西コルドバ地域の紛争に介入していたはずだったのだ。


(それもこれもジャック兄さんのせいではないだろうか。)


彼女の兄が怪我をして本拠地に戻されるついでに妹の彼女も戻されたのである。


___(私はもっと闘いたい。闘って戦ってそして戦場で死ねるならなにも思い残すことはない。)


しかし彼女が受けた今回の仕事は兄の補佐として世界樹の警備にあたっている隊員の支援という彼女には不服なものだった。


「兄さん、総隊長がお呼びです」


「おお!いいところにきたなアリス! これを見てくれ」


「なんですかそれは? 」


「見たらわかるだろ! 仮面さ! かっこいいだろ」


目の所だけ隠すように付けられた黒と赤の仮面。正直怪しい人物にしか彼女には見えない。


(兄の変態かげんがパワーアップしたようです。)


「どうでもいいですけど、早くいかないと怒られますよ」


「おうおう、そうだった」


総隊長のいる部屋までの間できるだけ彼女は兄から距離をおいて歩く。


「おう、来たかジャック。さっそくで悪いんだがこの手紙と荷物をそろそろリディカレアについている息子に届けてくれないか? 」


「ツバキにですか。おまかせください」


「ところで腕の怪我は大丈夫か? 」


「はは、問題ありませんよ。闘いにいくわけじゃありませんし」


「まあ、無理はするなよ・・・アリス、悪いがお前もついていってくれ、何かあっては困るからな」


「仕方ないです、引き受けました」


アリスとジャックは旅の準備を終え、今日のうちに足を進めた。


「なあアリス。リディカレアってどんなところだろうな? 綺麗なところかな? 美人はいるかな? 」


「知らない、興味ない。ささっと歩けボケ」


「そう怒るなよ、旅はこれからさ」


「・・・・」


(なんでこんなのが兄なんだろうか? 嫌がらせですか。)



アリスたちは二つほど山を越え三つ目の山の麓にある小屋で夜を過ごすことにした。彼女の予定通りかなり先に進んだ。ジャックは飲み水の確保と火を起こすために薪を拾いにでかけていた。


この調子でいけば彼女たちはあと二日でリディカレアに到着できるだろう。だが彼女には不満がある。

戦えないのだ。戦闘でしか自分の居場所を見つけれない彼女は今の状況に苛立ちを覚えていた。


(賊でも魔獣でもいい八つ裂きにしてしまいたい。はやくはやくと腕が叫んでいるようだ。)


「なに? 」


二つ向こうの草の茂みから草をかき分ける音が聞こえる。この音からして彼女の経験のうえ小型の魔獣だとわかる。


 彼女は身体全体にマナが回るようにイメージする。魔術の強化だ。彼女が得意とするのは加速。誰よりも速く、そして残虐に反撃のチャンスなど与えない高速の戦闘が得意なのだ。


 彼女は紅く煌めくナイフを逆手で握る、そして斬るそれだけをイメージする。


____草むら目掛けて走る。風を切り裂く音が聞こえる。


どうやら魔獣は彼女に気づいたようだ。逃げようと背を向けるがもう遅い。遅すぎるのだ。彼女はもう真後ろに近づいていた。彼女の握るナイフが魔獣の背中にふり下ろされる。獣の醜い悲鳴とともに血が飛び散る。それでも彼女はナイフを振り下ろすことをやめない。獣の身体へ刺したナイフを強化された身体を使い無理やり引き抜く、そして左から右へ、右から左へ斬り裂く。


 なんどか斬り裂いたあとふと彼女は気がついた。もう魔獣は__ピクリともしないのだった。彼女はナイフについた血を払い鞘におさめ、顔に飛び散った血を腕で拭きながらもう片方の手で獣のを掴む。


火を起こして待っていたのだろう兄に彼女は獣を投げつけた。


「魔獣の肉か。少し待ってろ捌いて食べれるように焼いてやるから。とりあえず向こうに湖があったから返り血を流してくるといい」


ジャックは驚いて飛びのきながらも肉をキャッチして、空いたもう一つの手で湖がある方角を指差した。


「そうする」


アリスは兄が指差した方向に歩いて行くとすぐに湖を見つけた。湖は月の輝きを反射させ彼女には美しく感じた。


(私はこの湖で血を洗い流して良いのだろうか)


彼女は迷ったが、すぐに考えるのをやめ、服を近くに脱いで、身体を水の中へと浸けた。血が洗い流されるのと同時に彼女の心まで綺麗になるようだった。だがすぐに彼女は気づく。


___(この肌にまとわりつく血の匂いは消えない。)


彼女は持ってきた布で身体を拭くと一緒に持ってきた服を身につけて兄がいる小屋まで戻った。


「帰ったか、焼けたぞ! うまそうだろう」


ジャックは木の枝に刺して焼いたさきほどの肉をアリスに手渡した。


それを彼女は両手で受け取り口に運ぶ。


「うん、美味しい」


彼女の兄は塩をつけて焼いたのだ。彼女には味がしっかりして美味しく感じた。それにほのかに香料の匂いがして肉の臭みが和らいでいた。ジャックは昔からこういう細かいことにこだわる人間だった。


アリスたちは小屋で夜を過ごし、日が昇り始める頃に小屋をあとにした。


彼女たちの進むペースは速い。ジャックもアリスも魔術の能力は加速、足が速いのだ。


彼女たちは強化させた身体を使い、山を越え森を越え凄まじい速さで東貿易都市ガタンに到着した。夕方の街並みを見渡しながら二人して商店街を歩く。街では海に近い都市から買い付けたのだろうか魚の塩漬けなどの海産物が並んでいる露店、保存食にでも旅人が買い付ける干し肉や堅く焼き上げたパンなどがずらっと並んでいた。ジャックは露店に並びいろいろと見ているようだが周囲の目線は痛い。


それもそのはず、彼は旅に出る前から変な仮面をつけたままだった。


「お嬢ちゃん。少しいいかい? 」


「私ですか? 」


「そうそう、手が少し荒れているようじゃないか」


商人に言われた彼女は自分の手を見る、確かにキズなどで手はいまどきの女の子のように綺麗なものではない。


「女の子なら気を使わないといけないよ」


「これでもどうだい?安くしとくよ。効き目はもちろん良いさ」


「別にいいです」


彼女は商人に背を向け兄の後ろを追って歩いた。


(女の子なら綺麗に着飾らないといけないのか?別に良いのではないか。どうせ戦場に生きるものとして、いつかは死ぬ。)


彼女たちはその晩、都市にある安い宿に泊まることにした。


「よう、嬢ちゃん。肌が茶色っぽくて色っぽいな。西の人間かい?」


「そうですが、何か問題でも? 」


「いやー悪い。気に障ったら謝るよ。ただいい女だったもんで気になってな」


「そう、もっといい女ならそのへんにたくさんいるでしょう? 」


「いやいや、お嬢ちゃんほど色っぽくて綺麗なのはいないさ。どうだい? いっぱいおごるぜ? 」


「別にいらない。あっちにいけ」


「そういうなよ。つれないな」


リザードの男は舌打ちをして彼女の肩に手をおく。会話を聞いていたジャックが横から男の手をつかんでこう言った。


「僕の妹に何かようかトカゲ野郎! 」


「おめえに用はねえよひっこんでろ! 」


トカゲと言われたのが腹たったのだろう男は怒りジャックを突き飛ばした。


突き飛ばされた彼は後ろのテーブルを巻き込んで倒れた。


(もともと弱いのに加え、腕を怪我してまともに喧嘩もできないくせに喧嘩を売るなんて馬鹿じゃな)


その状況をみたアリスはそう思った。


「なろう! 」


ジャックは立ち上がり左手で男に殴りかかった。


 トカゲ男は彼の腕を片手で受け止め、魔術で強化した身体を使い横腹に蹴りを加えた。ジャックの魔法障壁が砕ける音がした。彼はさらに近くテーブルを巻き込みながら転げ回る。


近くの女性客が悲鳴をあげ、店員の男性がどうしようかと慌てている。


「だぜえ、弱いくせにアルスの兄貴に喧嘩売ろうなんて馬鹿だろう」


「そうだそうだ。まあ酒でも飲めや! 」


トアルスと呼ばれたトカゲ男の取り巻きたち7人がジャックを馬鹿にしながら手に持っていた酒を彼の頭の上からかける。


(ホントに馬鹿な兄。弱いくせに喧嘩売って・・・。)


ただ彼女は黙ってはいられない。知らない奴に馬鹿にされ、こんだけ痛めつけられた兄を見て黙ってられるほど彼女はお人よしではない。


アリスは身体にマナをめぐらせる。身体を強化する。そして誰よりも速く駆ける。


「はぁ! 」


一番近くにいた取り巻きの男の横腹を彼女は蹴り飛ばす。男は変な声をだしながら壁にぶつかる。皆がその男のほうを向く。彼女は次に兄に酒をかけた男に向かって近くのテーブルに置いてあった酒の瓶をつかんで思いっきり投げつけた。男の頭にあたり瓶は甲高い音とともに割れて破片が床に散らばる。そして男は膝から崩れ落ちる。周りの男が気づく前にさらに兄を馬鹿にして蹴りを入れようとしていた二人の男性を蹴り失神させた。


「貴様! やりやがったな」


「さあしらない。」


彼女の行動にいち早く状況を理解したトカゲ男が彼女に向かって突き進んでくる。


「小娘がただですむと思うなよ。大人の怖さを思い知らせてやる」


「死ねトカゲが! 」


彼女は走り寄ってこようとするトカゲ男が一歩でも踏み込むより早く、男の目の前に移動する。そのままの勢いを利用して顔面目掛けて飛び蹴りを食らわす。衝撃で後ろに飛んだ男は壁にめり込みながらも立ち上がろうともがく。だが怪我をしたようではない。


____障壁所持者なのだ。


 彼女は男の顔面の前に不自然に白いヒビがあるのを見つけた。障壁の切れ目である。すぐに砕けそうだった。彼女はもう一度身体を加速させて立ち上がろうとするトカゲ男に飛び蹴りをお見舞いした。


こんどはトカゲ男は障壁が砕ける音とともにさらに壁に深くめり込んだ。これは少しやりすぎたかもしれないと彼女が思っていると外から声がした。


「逃げろ皆、警察がきたぞ。見ていた奴も捕まるぞ! 」


すぐに店の中は慌ただしくなった。窓から外にでようとするもの2階の部屋の中へ逃げ込むもの、アリスもつられて兄を担ぎ強化させた身体で遠くまで走って逃げる。


彼女が気がついたときは都市をでて森の中だった。森をでてすぐの休めそうな広場見つけてジャックをおろす。


この辺で今日は休むことを決めたアリスは兄の怪我を水で濡らした布でふきできるだけ楽そうな態勢にさせる。ついでに仮面は取り上げておく。


(気づいたら怒るだろうか。)


彼女は近くに生えっている木にもたれかかり眼を閉じすぐに眠りについた。彼女たちは明日にはリディカレアにつくだろう。


翌朝、彼女は起きると目を覚まさない兄を担ぎあげて走った。森を越え、草原の道を進み自然に護られた都市に到着した。道行く商人の馬車の間をすり抜けて正門を通り都市の中へと足を踏み入れた。


_____ここがリディカレア。彼女が想像していたものより幻想的で綺麗な場所だった。
















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