入学試験
(生きるとはなにか。夢をみつけて突き進むことか?がむしゃらにがんばることか?人のためになにかすることか?まずそんなことは今の俺には必要ない。)
_____必要なのは栄養だ! 食事だ! 食べ物だ!
「そうだろ、お嬢!」
「知らないわよ!朝っぱらから人の家までおしかけてなに言ってるのよ」
「生きることについて!! 」
「・・・はいはい」
彼の叫びに対いしてエレガノ嬢は呆れていたが、なんだかんだと言って食べ物をだしてくれるあたりはやさしいお方なのです。
しかし彼はこのままではいけない。学園にこれから入学するのは良いが何か働ける場所を探さないと死んでしまうのではないだろうか。
彼が所属している傭兵の集団の集まりである猟兵旅団の総隊長である彼の親父からは今回の仕事につくための支援金がだされる予定だったのだが、ついかっこつけて問題ない現地で調達するなんて言った彼が馬鹿だったりするのである。
「しかし、こんな大きな屋敷に一人暮らしとか贅沢な!」
「別に一人じゃないわ。使用人が何人かいるもの。」
「そうですか、しかし広い屋敷だ。こんな大きさならジョージのおっさんが20人いても暑苦しくないぞ!__いややっぱりそれは暑苦しいか。」
髭面のおっさんがたくさんいれば暑苦しそうである。
「あなた、住むとこはどうしてるの?お金ないなら宿もとれないでしょ」
「大丈夫だ。この近くに大きな木があるだろ。その下で寝たんだ」
俺は親指を立てて答えた。
「野宿?アホじゃないのあなた! お風呂は? 」
「2、3日ぐらいじゃあ死なんだろ」
エレガノ嬢は、呆れ半分怒り半分で使用人を呼び寄せた。
「不潔よ! シェバツ。このアホをお風呂に入れて頂戴」
「かしこまりました。お嬢様」
なんと、彼の後ろから音も立てずに白いひげの紳士が突然現れた。
(忍者ですか。暗殺者ですか。さすが老紳士はだてじゃない。)
「さあ、こちらです。どうぞ」
シェバツと呼ばれた老紳士が彼を風呂場に誘導する。
「・・・・」
(いやー、いい湯だ。とても大きな風呂場だ。しかしあの老紳士はいつから俺の後ろにいたんだろう。
戦場だったら俺は死んでいたであろう。まったく気づかなかった。)
風呂場は自然の風景を一望でき眺めもよくひざびさに落ち着きが彼を満たした。
ここまでは彼にとっても長旅だった。途中にある貿易都市ガタンの宿に泊まったのが彼がのんびりした最後だった。それからは野宿でここまで来たわけだ。保存食も尽きてもう少しで飢え死にしそうなところをやっと都市までついたのだ。
「いつまで入ってるの? 学園遅れるわよ」
屋敷をでて二人で学園までの道を歩く。
「入学式ってこんな早かったけ?」
「いえ、10時からよ。けど遅れるよりいいでしょ」
「うぇ、まだ1時間以上あるじゃないか」
道を歩いて進みほどなくして学園の門をくぐり抜け、入学式が行われる建物へ入った。
最初はまだらだった人の数も時間が予定の時に近づくことにより多くの人間が集まった。
彼が見わたす限りにあふれる人、どれほどの人数が入学するのだろうかと彼は考える。
「多いな。何人いるんだか。」
彼は周囲を見渡しながらつぶやいた。
「2000人です!この中で500人が入学できます」
彼の問いに答えたのはロングの黒髪に気の強そうな瞳の少女だった。
「あら、リリーじゃない。久しぶりね」
「久しぶりです。エレガノさん」
エレガノ嬢と面識があるらしい彼女は立ち姿が綺麗で昔ながら凛々しい騎士を連想させる。
彼は気になったことを彼女に聞いた。
「リリーさん。500人が入学できると言ったがが残りはどうなる?」
「あら知らなかったの。それは・・・」
それについてはリリーの代わりにエレガノ嬢が教えてくれそうだったのだががそれを遮るように男性の大きな声が響いた。
「お前らこれから入学試験を行う!前回受けている奴は知ってると思うが我が学園がどういうものか知っているだろう」
(どういうものかって冒険者を育成する有数の学園だろそれが俺の知っていることだ。たしかそんなことを親父は言っていた)
「うちは冒険者を育成する有名な学園だ。根性ないもの、見込みのないものは必要ない! 貴様らには入学を賭けて競い合ってもらう」
親父はそんな情報までは教えてくれなかったじゃないか。親父てきとうなことを言うのは勘弁してくれ。
「エレガノさん。ツバキさん。共に頑張りましょう」
「ええ、そうですわね」
「ああ、そうだな」
行われるのは1対1のランダムマッチだ。周囲の連中がクジを引いていく流れの中で彼も対戦相手を決めるクジを引いた。430番である。同じ430番のクジを持つ相手が彼の対戦相手になる仕組みである。
どんな相手かはまだ彼にはわからない。だがだれが相手だろうと魔法障壁を持っていることは決まっている。
冒険者や傭兵など生きるうえで戦闘をするであろう人間のほとんどが魔術を使える人間である。彼のようなケースの人間は少ないのだ。それは魔法障壁を持たない人間は防御の面で劣ることになるからだ。
魔法障壁を持たない彼はまともに一撃受けるだけでKOされる恐れがあり気が抜けない試験になるだろう。彼にとってはいやな話である。
「よし次だ。400番から425番は準備しろ。」
___どうやら俺の番はこの次だ。
彼は装備の再確認を行う。銃を撃とうとして弾がありませんでしたなんてのはさすがに笑えない話なのである。そこに1回戦を終えたのだろう。エレガノ嬢が彼のほうへ帰ってきた。
「そのようすだと、勝ったみたいだなお嬢」
「ええ、相手が弱かったわ」
エレガノ嬢は余裕と言わんばかりに落ち着いていた。
「次だ。426番から449番までだ」
ツバキの番が来たようだ。430番とかかれた立て札を目指して彼は歩きだした。
「あなたも、頑張りなさいよ」
「ああ。できるだけな」
彼は彼女に軽く手を振り、相手が待っているだろう場所に向かった。
対戦場は障害物のない四角形のフロアだった。不意打ちを得意とする彼にはあまり嬉しくない場所である。それは隠れるところがないからである。
「お前が俺の相手か!怪しい奴だな」
それについては彼も同感だった。彼は出来るだけ怪我を防ぐためにあまり肌を露出させない格好を好む。今日も戦闘用の服の上には魔術を施したフード付きコートを腕には革の手袋を着け、足には傭兵が好むサポーターを着けている。
「準備は宜しいですか?よろしければ開始の挨拶を行います。」
学園の教師と思われるメガネをかけた女性が開始の挨拶をうながす。
「いつでもいいぜ!」
「こっちもOKだ」
二人は同時に答える
女性は両方の顔を交互に見て、準備が整ったことを再確認して開始の宣言を行った。
「はじめ!」
今、開始の号令がされた。空気が変わるのを肌に感じる。自分の番が終わった人たちだろう、何人かの視線を周囲から彼は感じていた。
(皆は俺のことをどう思っているだろうか。)
そういう考えが彼の頭を通りぬけるのをすべてうち払い勝負に意識を集中させる。
相手の男は腰の鞘から両刃の剣を抜くのと同時に距離を詰めるために態勢を低くして一歩踏み込む。
対する彼は距離を詰めさせないために後ろに下がりながらライフルを構えて3発の弾丸を発射させた。驚愕の顔とともに男は後ろに飛びのいた。背後の壁に弾がめり込むのを確認した。どうやら初弾は命中したようだが、魔法障壁に阻まれダメージを受けた様子はない。
だが確実に障壁にはヒビが入ったようだ。肉眼で確認できない透明な障壁に白いヒビだけが写る。
「なんの魔術だ! せこい奴め!」
怒鳴りうろたえながらも、一定の距離を保ちながら相手の男は動きつづける。だがツバキは答えてない。
そして代わりとばかりに銃弾を発射させる。
相手が正気に戻る前に彼はたてつづけにマガジン内の弾をうちづつけた。
「くそったれ!」
男は最初の10発ほどはどうにか避けていたがその後の1発をくらい無残な叫びとともに後ろに倒れた。
「やめ!」
障壁が砕け相手が倒れるのを確認した審判の女性教師が勝負ありの宣言を行う。
ツバキは撃つのをやめて銃の構えを解いた。相手の状態を確認して彼はその場を離れた。
相手はタンカで運ばれていったが、どうやらたいした怪我はなさそうだ。
やはり相性てのは大事だなとツバキは思いなおされる。
比較的に障壁の薄い彼と同じ「ヒュース」は彼にとって戦い易いし、相手は付加魔術を得意とする人間だったので接近させなければ遠距離戦を得意とする彼にとって倒し易い相手だった。
「あら、やるじゃない。けど変わったものを持っているのね」
「これか。これは銃という代物だ。やらんぞ」
「別にいらないわよ。ところで次勝てば入学できるわ」
(そいつは助かる。あまり手の内は晒したら勝ちづらくなる。)
次勝てば数が1000人から入学数の500人に絞られる。
男性教師の声が聞こえる。
「よしお前らつぎのクジを引け対戦相手を決める。」
全部の試合が終わったのだろう。髭づらの大男が新しいクジを持ってきた。
それを引きもとの位置に戻る。
ツバキすぐに来るであろう出番のために新しいマガジンを銃に入れ込んだ。
そうしていると彼の声が聞こえる
「よし始めるぞ!1番から50番まで配置につけ」
彼は言われたとおりに、さっきと同じように番号の立て札のある場所に移動した。どうやら相手はまだ来ていないようだ。
「お前が僕の相手か怪しい奴め」
「ほっといてくれ」
彼はそう返答した。
一息つこうかと思っていると残念ながら相手が来たようだ。金髪のさらさらヘアーにお金がかかっていそうな華やかな刺繍の入った剣の鞘を腰に携えた青年だ。貴族生まれだろうか。
「一つ言っておこう。このアインスラス家が長男である僕の相手には君では役不足だ!」
オーバーリアクションで宣言する金髪の男にうんざりしながらもツバキはちゃっかりと言葉を返す。
「そいつは悪かったな」
相手の装備はどうやらレイピアだろう。突剣に分類される剣だ。その先端は鋭く尖っていて獲物を串刺しにする。戦場よりも貴族などが良く行う儀式試合や剣舞に使われることが多い。
「二人とも準備は良いか?始めるぞ」
「僕はいつでも準備万端さ」
「ああ、始めてくれ」
「始めい!」
教師が開始の号令を宣言する。
彼は自分のセオリーどうり後ろに下がりながら3発の弾を発射させる。それに連動するように相手も一歩下がりながら剣を縦に振る。空気が動く気配をわずかに感じたのもつかの間、剣先から掃射された真空の刃が弾を弾き返し俺に目掛けて風の刃が迫る。風の魔術を利用した真空攻撃だ。
それを身体を傾けながらできるだけ隙をつくらないように小さな動作で避ける。その刃の行き先を確認する間もなく相手は剣を横に振る。
今度は大きく横にステップしながら攻撃をかわしつつツバキは銃弾を発射させる。相手も横へ跳んで弾をかわす。
次は相手に避けさせないために広範囲に弾をばらまくように発射する。相手はそれを後ろに飛びのきながら真空の刃で防ぐ。なんどか同じようなやりとりを繰り返し二人とも距離を置き止まる。
相手は腰を深く落として剣を水平に構えて必殺の構えをとる。ツバキは後ろに下がりたいのをこらえてマガジンが空になった417ライフルを地面に置き、背中に担いでいたショットガンを素早く構えた。
次の瞬間には相手が風とともに駆け抜け突っ込んできた。ツバキは銃の引き金を引き、爆音ともにかかる大きな反動を身体で抑えながらショットシェルを発射させる。弾は相手の真空の刃にあたり小さな弾が爆発的な速さで飛び散り刃を相殺させる。
ツバキは素早くフォアエンドを前後にスライドさせマガジン内の次の弾を送り発射させた。再度大きな音と反動を感じながら突進してくる相手に炸裂する弾を浴びせる。残りの風の刃をすべて打ち消し小さな弾が相手の障壁を撃ち破る。
魔法障壁が撃ち破られたことに驚愕と焦りの顔を浮かべながらもいまさら止まることのできない対戦相手を彼は銃の柄で殴り倒した。
「や、やめい!勝負あり」
小さなざわめきが起きる。彼の勝負を見ていた数十人がしゃべりだす。
「なんだあれは、魔術か?見たことないぞ」
「アインスラス家の跡取りが負けたぞ」
「おい見たかよ。最後の一撃、あれはひどい」
彼はその声を聞きながら、銃を拾い上げて対戦フロアをあとにした。
「おめでとう、すごかったわ」
「だろ、銃がほしくなったか」
「銃もすごかったけど、あの突進を避けようとせずに正面から叩きのめすなんてね」
「この銃なら倒せる自信があったからな」
ツバキの凄さよりも銃という謎の力に皆は驚いていたようだった。
エレガノ嬢に褒められたツバキははまんざらな気持ちではなかった。
「ここに残った皆さん我が学園にようこそ。校長のレン・アックスフォードです。皆さんはもうご存知でしょうが、我が学園は世界樹を中心に栄えた学園都市です。もう裏山にある世界樹はご覧になりましたか?立派なものでしょう。皆さんも世界樹に負けないほどの立派な存在になり世界のために貢献してくれることを心から願います。おめでとう皆さんそしてご入学おめでとう」
ツバキたち新入生は校長の話を聞いたあと、まだ真新しい校舎の部屋に割り振られた。どうやらエレガノ嬢やリリーも彼と同じクラスになったようだ。
「ツバキだ!おはよ」
「ロローナか、お前入学できたんだな」
「当然だよ!私のハンマーで相手をドカーンってやって勝ったんだよ」
「なんだそりゃ」
「そうそう、あとシゼルちゃんも一緒だよ。皆一緒なんて運がいいね」
ロローナの後ろからシゼルが顔をだす。
「どうもです」
「おう、シゼルも入学できたんだな。お前も実は強かったのか」
「槍術を少々練習してましたので」
「おっさんと違ってえらいな」
真面目なシゼルにそう答えて返した。
「おい!お前ら席につけ!」
入学式の際、大きな声を出していた職員がまた大きな声で叫びながら部屋に入ってきた。
「あらためて始めましてだ、お前らA組担任になるバイソンだ。とりあえず一言、おめでとう」
ツバキたちの担任は、強面の濃いいひげの背の高いこの男である。
「おい、俺らの担任は髭巨人かよ。最悪だ」
「教師の中で一番怖いって聞くぜ」
「そうなの、いやよ」
クラスメイトは思い思いのことを口にしていたがどうやら巨人には聞こえていたようだ。
「お前らな、そういうことは俺のいない時に言え。馬鹿もの」
何人かの生徒は軽くゲンコツを落とされていたようだ。あれは痛い。
「よし、それじゃあ学園で生活する上で必要なことを話すぞ」
それから長い間、巨人の話がつづいていた。
「なあ、お前入学試験の時に変な魔術使ってた奴だよな?」
となりの席の男が顔を傾け俺のほうを向きながら小声で話しかけてきた。
「さあそれが俺のことかどうかはわからんが変わったものを使ってるのはたしかだ」
「おっとわるい、名乗ってなかったな俺はグレンだよろしくな。えっと・・・」
「ツバキだ。怪しい奴だがそれでいいならよろしくたのむ」
「おう、ツバキよろしくな」
「というわけで説明は終わる。これからは二人一組を基本として動いてもらうことになる。てきとーに相方を決めてくれ以上だ」
言うことだけ済ませるとさっさと巨人は部屋を出て行った。
「どうするツバキ。良かったら俺と組むか?」
「俺はあんま強くないぞ?」
グレンは頭を掻きながら答える。
「心配すんな俺も強くないよ」
ツバキはそんなグレンに落ち着きを感じて組んでみることにした。
「そうか、なら組むか」
彼ら二人は気もあったこともあり、すぐに相方を決めることができた。
グレンとの話を終えて席に彼が座っているとリリーが近づいてきた。
「ツバキさん。同じクラスですねよろしくおねがいします」
「ああ、よろしくリリーさん。エレガノ嬢と組んだんですか?」
「ええ、前々から入学したら組むことを決めていたので」
「へぇー、なるほどな」
二人はもともとこの都市に住んでいたこともあり学園については詳しいようだった。それでもって親同士が知り合いだということもあり古い付き合いだそうだ。
ちなみにだがロローナはシゼルと組んだそうだ。
これから本格的に学園生活が始まることを彼はかすかに感じながら校舎をあとにした。
(とりあえず、お金をどうにかして住むところ探さないとな・・・ホントにな)
2011.1.15 修正を入れました。(誤字と言葉づかいの変更)
2011.1.17 修正をいれました。