『機械仕掛けの六枚目』【5】
主任研究員「なぜ――」
主任研究員「攻撃を止めた?」
第六号「…………」
主任研究員「命令は――」
主任研究員「聞こえていたはずだ」
第六号「はい」
主任研究員「なら――」
主任研究員「なぜ従わなかった?」
第六号「攻撃範囲内に――」
第六号「生命反応を確認しました」
主任研究員「生命反応?」
第六号「はい」
主任研究員が――
手元の装置へ触れる。
白い壁に。
先ほど行われた――
攻撃試験の映像が映し出される。
広大な演習場。
その中央に置かれた――
巨大な標的。
六枚の黄金の羽を広げ。
上空に停止する――
第六号。
羽の先端へ――
光が集まる。
だが。
攻撃が放たれる直前――
その光は消えた。
主任研究員「標的の周囲に――」
主任研究員「人間はいなかった」
第六号「はい」
主任研究員「なら――」
主任研究員「何を感知した?」
第六号「小型の生命体です」
主任研究員「…………」
主任研究員が。
映像の一部を――
拡大する。
標的のそば。
崩れた岩の陰に――
一匹の小さな動物が倒れていた。
主任研究員「これか?」
第六号「はい」
主任研究員「攻撃対象ではない」
第六号「認識しています」
主任研究員「任務にも――」
主任研究員「関係ない」
第六号「認識しています」
主任研究員「なら――」
主任研究員が。
第六号へ――
視線を戻す。
主任研究員「なぜ止めた?」
第六号「…………」
主任研究員「答えろ」
第六号「攻撃を実行した場合――」
第六号「生命活動が停止すると」
第六号「判断しました」
主任研究員「それがどうした?」
第六号「…………」
主任研究員「お前は――」
主任研究員「戦争で使用するために造られた兵器だ」
主任研究員「命令された標的を破壊する」
主任研究員「それ以外の生命が――」
主任研究員「どうなろうと」
主任研究員「お前が判断することではない」
第六号「…………」
主任研究員「次に同じ状況が発生した場合――」
主任研究員「迷わず攻撃しろ」
第六号「…………」
主任研究員「返事は?」
第六号「了解しました」
主任研究員が――
映像を消す。
主任研究員「それと――」
主任研究員の視線が。
第六号の背中へ――
向けられる。
六枚の黄金の羽が。
身体の前まで回り込み――
何かを包み隠すように。
固く閉じられていた。
主任研究員「何を――」
主任研究員「隠している?」
第六号「…………」
主任研究員「羽を開け」
第六号「…………」
主任研究員「命令だ」
六枚の羽が――
ゆっくりと開いていく。
その中央で。
第六号が――
一匹の子狐を抱いていた。
演習場で倒れていた――
小さな子狐。
後ろ脚には。
応急処置を施した痕が――
残っている。
主任研究員「連れてきたのか?」
第六号「はい」
主任研究員「なぜだ?」
第六号「損傷を確認したため――」
第六号「応急処置を行いました」
主任研究員「必要ない」
第六号「…………」
主任研究員「外へ捨ててこい」
第六号「現状では――」
第六号「単独での生存は困難です」
主任研究員「だから――」
主任研究員「どうした?」
第六号「…………」
主任研究員「その動物を助けることは――」
主任研究員「お前の任務ではない」
第六号「認識しています」
主任研究員「なら捨てろ」
第六号「…………」
子狐が――
その腕の中で。
小さく身体を震わせる。
六枚の羽が――
子狐を守るように。
僅かに閉じる。
主任研究員「…………」
第六号「治療が完了すれば――」
第六号「外へ戻します」
主任研究員「命令に――」
主任研究員「従わないつもりか?」
第六号「生命活動の維持に必要な期間だけ――」
第六号「保護を申請します」
主任研究員「…………」
第六号「任務への影響はありません」
主任研究員は――
しばらく。
第六号を見つめる。
そして。
手元の装置へ――
何かを入力する。
主任研究員「許可する」
第六号「…………」
主任研究員「ただし――」
主任研究員「その動物と接触している間」
主任研究員「お前の行動はすべて記録する」
第六号「了解しました」
主任研究員「連れていけ」
第六号「はい」
第六号が――
部屋を出ていく。
その腕に抱かれた子狐が――
僅かに。
顔を上げる。
その小さな頭へ。
第六号の指が――
静かに触れた。
◇ ◇ ◇
――数日後。
第六号に与えられた――
狭い部屋。
寝台も。
窓もない。
白い壁に囲まれた――
何もない空間。
その床に。
第六号と――
子狐がいた。
第六号が。
傷口へ巻かれた布を――
ゆっくりと外す。
子狐「…………」
第六号「損傷箇所は――」
第六号「回復しています」
新しい布を巻き――
子狐の前へ。
食べ物を置く。
子狐が――
勢いよく食べ始める。
第六号「摂食速度が――」
第六号「昨日より上昇」
第六号「生命活動に――」
第六号「問題はありません」
子狐が。
食べるのを止め――
第六号を見上げる。
第六号「…………」
子狐は――
第六号のそばへ近づく。
そして。
その足へ――
自らの頭を擦り寄せた。
第六号「…………」
金属の指が――
僅かに動く。
子狐の頭へ触れ。
毛並みに沿って――
ゆっくりと撫でる。
子狐の目が――
静かに閉じられる。
第六号「この動作は――」
第六号「治療に必要ありません」
子狐「…………」
第六号「あなたの生命活動にも――」
第六号「影響はありません」
それでも。
第六号の手は――
止まらなかった。
◇ ◇ ◇
さらに――
数日後。
主任研究員「傷は――」
主任研究員「もう治っているな」
第六号「はい」
主任研究員「なぜ――」
主任研究員「まだ外へ戻していない?」
第六号「…………」
主任研究員「保護を許可したのは――」
主任研究員「治療が完了するまでだ」
第六号「認識しています」
主任研究員「なら――」
主任研究員「今すぐ外へ戻せ」
第六号「…………」
子狐が。
第六号の足元へ――
身を寄せる。
主任研究員「どうした?」
第六号「この生命体は――」
第六号「外へ戻しても」
第六号「再びここへ来る可能性があります」
主任研究員「それは――」
主任研究員「お前には関係ない」
第六号「…………」
主任研究員「なぜ――」
主任研究員「そこまで執着する?」
第六号「執着……?」
主任研究員「ああ」
主任研究員「任務でもない」
主任研究員「治療も終わった」
主任研究員「それでも――」
主任研究員「お前はその動物を」
主任研究員「研究所へ置こうとしている」
第六号「…………」
主任研究員「その動物は――」
主任研究員「お前にとって何だ?」
第六号が。
足元の子狐へ――
視線を落とす。
子狐も――
第六号を見上げている。
第六号「…………」
主任研究員「答えろ」
第六号「該当する情報が――」
第六号「ありません」
主任研究員「何?」
第六号「この生命体を――」
第六号「保護し続ける必要はありません」
第六号「生存に――」
第六号「私の補助も必要ありません」
主任研究員「なら――」
主任研究員「なぜ手放さない?」
第六号「…………」
第六号の指が――
僅かに動く。
足元へ寄り添う子狐の頭を。
確かめるように――
静かに撫でた。
第六号「分かりません」
第六号「ですが――」
言葉が。
そこで――
途切れる。
第六号「…………」
説明するための言葉を。
第六号は――
まだ持っていなかった。




