『見えざる五枚目』【7】
ルカ「兄ちゃんに――」
ルカ「渡したかったんだ」
No.5「…………」
チリン――
小さな鈴が、
ルカの手の中で鳴る。
No.5「……鈴?」
ルカ「うん!」
ルカ「お守りなんだって!」
No.5「お守り?」
ルカ「うん」
ルカは――
大切そうに鈴を握る。
ルカ「僕――」
ルカ「兄ちゃんの仕事」
ルカ「よく分かんないけど……」
No.5「…………」
ルカ「すごく危ないって――」
ルカ「聞いたから」
シオン「…………」
その瞬間。
食卓の空気が――
ほんの僅かに、
変わった。
ガルド「…………」
ミレナ「…………」
ほんの一瞬。
それだけだった。
ルカは――
気づいていない。
ルカ「だから――」
ルカは、
鈴を差し出す。
ルカ「これ!」
ルカ「兄ちゃんが――」
ルカ「ちゃんと帰ってこられるように!」
No.5「…………」
チリン――
No.5は、
差し出された鈴へ手を伸ばす。
指先が――
ルカの手に触れる。
そして。
小さな鈴を、
そっと受け取った。
No.5「…………ありがとう」
ルカ「へへっ」
No.5「大事にするよ」
ルカ「絶対だよ!」
No.5「うん」
ルカ「なくしたら駄目だからね!」
No.5「分かった」
セイ「…………」
ルカ「なに?」
セイ「いや」
セイ「必死こいて探した甲斐あったな」
ルカ「うん!」
No.5「探した?」
ルカ「あっ」
セイ「こいつ――」
セイ「なくして泣いてたんだよ」
ルカ「セイ兄ちゃん!!」
セイ「事実だろ」
ルカ「泣いてない!」
セイ「泣いてただろ」
ルカ「ちょっとだけ!」
セイ「泣いてんじゃねぇか」
ルカ「うぅ……」
No.5「ふふっ」
シオン「…………」
その笑い声に――
シオンは、
僅かに目を向けた。
戦う前に見た――
静かな男。
《凶宴-CARD》No.5。
その男が。
弟からもらった小さな鈴を――
大事そうに握っている。
ミレナ「ほらほら」
ミレナ「せっかくの料理が冷めちゃうわよ」
ガルド「そうだ!!」
ガルド「話は食いながらでもできる!!」
ルカ「はーい!」
セイ「いただきます!」
ミレナ「ふふっ」
ミレナ「たくさん食べてね」
ガルド「ヴァン!!」
ヴァン「なんだ」
ガルド「食え!!」
ヴァン「食ってる」
ガルド「もっとだ!!」
ヴァン「…………」
ヴァン「お前は人の話を聞かないのか?」
ガルド「はははははっ!!」
ヴァン「…………」
セイ「お前――」
セイ「完全に気に入られてんじゃん」
ヴァン「笑うな」
セイ「ははっ!」
ガルド「なんだ!」
ガルド「セイも食うか!!」
セイ「食う!!」
ヴァン「即答か」
セイ「うまいもんは食うだろ」
シオン「…………」
いつの間にか――
食卓は、
騒がしくなっていた。
ガルドの大きな声。
それに負けない――
ルカの声。
セイが笑い。
ヴァンが呆れる。
ミレナは――
そんな全員の皿を見ながら、
料理を取り分けている。
そして。
No.5は――
No.5「ルカ」
ルカ「ん?」
No.5「そっちのお皿――」
No.5「取ってくれる?」
ルカ「これ?」
No.5「うん」
ルカ「はい!」
No.5「ありがとう」
何も――
特別ではない。
誰かが必要以上に手を貸すこともない。
No.5も――
出来ることは自分でする。
必要な時だけ。
家族へ――
自然に頼る。
ルカ「兄ちゃん、これ食べる?」
No.5「なに?」
ルカ「肉!」
No.5「食べる」
ルカ「じゃあ半分あげる!」
No.5「半分も?」
ルカ「僕、兄ちゃんだから!」
No.5「僕が兄ちゃんだけど」
ルカ「…………」
セイ「ははっ!」
ルカ「あっ!」
ルカ「間違えた!!」
No.5「ふふっ」
ミレナ「もう、ルカったら」
ガルド「はははははっ!!」
シオン「…………」
また――
笑い声。
どこにでもある。
家族の――
食卓。
だからこそ。
シオンには――
分からなかった。
シオン「…………」
目の前にいる男が。
どうして――
《凶宴-CARD》にいるのか。
国を滅ぼし。
命を奪い。
世界を掻き乱す――
あの組織に。
シオン「…………」
ルカ「シオン兄ちゃん」
シオン「……ん?」
ルカ「食べないの?」
シオン「…………」
気づけば――
シオンの箸は、
止まっていた。
ルカ「母さんのご飯――」
ルカ「美味しいよ?」
ミレナ「もう」
ミレナ「自分で言うのも変だけど――」
ミレナ「冷めないうちに食べてくださいね」
シオン「…………」
シオン「いただきます」
一口。
シオン「…………」
ルカ「どう!?」
シオン「……美味い」
ルカ「でしょ!」
ミレナ「ふふっ」
ガルド「当たり前だ!!」
ガルド「ミレナの飯は世界一だからな!!」
ミレナ「あなたは黙って食べて」
ガルド「…………」
セイ「怒られてんじゃん」
ガルド「うるさい!!」
ルカ「あはははっ!」
No.5「ふふっ」
シオン「…………」
また――
笑い声が響く。
シオンは。
その光景を――
黙って見ていた。
やがて。
ルカ「そうだ、兄ちゃん」
No.5「ん?」
ルカ「今度の休み――」
No.5「うん」
ルカ「また一緒に――」
何でもない――
家族の話。
次の休み。
明日の予定。
今日あった出来事。
そんな話が――
次々と続いていく。
けれど。
一つだけ。
誰も――
触れない話があった。
No.5の――
仕事。
ルカが口にした時。
ほんの一瞬だけ――
静かになった話。
それからは。
ガルドも。
ミレナも。
一度として――
その話題を出さなかった。
シオン「…………」
知らないわけでは――
ない。
そんな気がした。
けれど。
シオンも――
何も聞かなかった。
今は。
この食卓に――
水を差す気にはなれなかった。
――――――――――
やがて――
夕飯が終わる。
ミレナ「ごちそうさまでした」
ルカ「ごちそうさまでした!」
セイ「ごちそうさまでした!」
ガルド「食った食った!!」
ヴァン「…………」
シオン「ごちそうさまでした」
No.5「…………」
No.5は――
静かに立ち上がる。
そして。
壁際に置かれていた刀へ――
手を伸ばした。
シオン「…………」
さっきまで。
家族と笑っていた男。
弟から――
お守りをもらった兄。
母親の料理を食べ。
父親と同じ食卓を囲んでいた――
リオン・レイヴェル。
その手が。
刀を握る。
No.5「シオン」
シオン「…………」
No.5「待たせたね」
No.5「行こうか」
シオン「…………」
その一言で――
食卓にいた男は。
再び――
《凶宴-CARD》No.5へと戻った。
シオン「……ああ」
No.5「父さん」
No.5「母さん」
No.5「少し――」
No.5「出てくるね」
ミレナ「…………」
ガルド「…………」
僅かな――
沈黙。
ミレナ「……気をつけてね」
No.5「うん」
ガルド「…………」
ガルド「リオン」
No.5「?」
ガルド「帰ってこいよ」
No.5「…………」
No.5「うん」
No.5「行ってきます」
チリン――
腰元で。
さっきもらったばかりの――
小さな鈴が鳴った。
シオン「…………」
二人は――
家を出た。




