『二枚目の裏側』【8】
男「昔から――」
男「この土地には、恐れられている子供がいた」
シオン「……子供?」
男「ああ」
男「家族はいない」
男「友達もいない」
男「どこの村にも属さず――」
男「たった一人で、この土地を生きていた」
――――――――――
それは――
ずっと昔の話。
まだ、
No.2が幼かった頃。
親はいなかった。
父の顔も。
母の顔も。
知らない。
兄弟もいない。
友達もいない。
帰る家すら――
なかった。
ただ一つ。
幼いNo.2が、
知っていることがあった。
自分は――
この土地で生まれた。
それだけだった。
No.2「…………」
荒れ果てた大地を――
小さな身体で、
一人歩く。
腹が減れば――
食べ物を探した。
木の実。
草。
虫。
そして――
時には、
獣を捕らえた。
No.2「…………!」
草むらの向こう。
一匹のウサギ。
No.2は、
息を殺す。
ゆっくり。
ゆっくりと――
近づく。
そして――
バッ!!
ウサギが逃げる。
No.2「……!」
幼いNo.2は、
必死に追った。
転んでも。
擦りむいても。
立ち上がり――
追い続けた。
そして。
No.2「…………!」
ようやく――
捕まえた。
No.2「…………」
小さな腕で、
ウサギを抱える。
これで――
今日を生きられる。
明日も、
少しは残せるかもしれない。
その時。
「おい」
No.2「…………?」
振り返る。
そこには――
二人の大人。
旅人「それ、よこせ」
No.2「…………」
No.2は、
ウサギを強く抱き締める。
旅人「聞こえなかったのか?」
男が、
手を伸ばす。
No.2「……やだ」
旅人「あ?」
No.2「俺が……捕まえた」
旅人「…………」
次の瞬間。
ドンッ!!
No.2「――ッ!」
突き飛ばされる。
小さな身体が、
地面へ転がる。
No.2「…………ッ」
旅人「ガキには多すぎるだろ」
ウサギを奪い――
二人は、
そのまま歩いていく。
No.2「…………」
追いかけない。
いや――
追いかけられない。
No.2は、
ただ。
遠ざかっていく二人を――
見ていた。
自分で捕まえた。
自分で手に入れた。
それでも――
弱ければ、
奪われる。
No.2「…………」
その日の夜。
No.2は――
水だけを飲んで眠った。
――――――――――
別の日。
No.2「…………」
雨が、
降り始めていた。
No.2は、
荒野を歩き回り――
ようやく。
雨風を凌げる、
小さな岩穴を見つけた。
枯れ草を集め。
地面へ敷く。
No.2「…………」
小さな寝床。
誰かが、
用意してくれたわけじゃない。
自分で見つけた――
自分だけの場所。
No.2は、
身体を丸める。
その時。
「おい、ガキ」
No.2「…………?」
岩穴の入口に――
一人の男。
流れ者「出ろ」
No.2「…………」
流れ者「聞こえないのか?」
No.2「……ここ」
流れ者「あ?」
No.2「俺が……見つけた」
流れ者「だから何だ」
男は――
No.2の腕を掴む。
No.2「……!」
そのまま――
ドサッ!!
外へ、
放り出した。
流れ者「今日から俺が使う」
No.2「…………」
雨。
冷たい雨が――
小さな身体を濡らしていく。
No.2「…………」
何も言わず――
歩き出す。
その夜。
No.2は、
大きな岩の下で身体を丸めた。
寒い。
身体が震える。
それでも――
眠るしかない。
そして。
朝。
No.2「…………」
目を開ける。
昨日と同じ――
荒れた大地。
何もない。
それでも――
そこにある。
No.2「…………」
人は――
奪った。
人は――
追い出した。
それでも。
この土地だけは――
何も言わず。
いつも――
そこにあった。
――――――――――
また――
別の日。
No.2「…………」
手にしているのは――
一匹のヘビ。
火もない。
料理の仕方も知らない。
それでも。
腹は減る。
生きるため――
食べる。
その時。
「うわっ……」
No.2「…………?」
声。
少し離れた場所に――
同じくらいの歳の、
子供たち。
子供「お前、それ食べるの?」
No.2「…………」
No.2は、
手元のヘビを見る。
No.2「……うん」
子供「気持ち悪っ!」
笑い声。
「ヘビ食ってる!」
「気持ち悪い!」
「行こうぜ!」
No.2「…………」
子供たちは――
笑いながら、
走り去っていく。
No.2「…………?」
何が――
おかしいのか。
分からない。
腹が減った。
食べ物を見つけた。
だから――
食べる。
それだけ。
No.2「…………」
再び――
ヘビへ視線を戻す。
そして。
一人で――
食べ続けた。
――――――――――
そうやって――
No.2は生きていた。
誰にも頼らず。
誰にも守られず。
一人で。
ただ――
今日を生きる。
明日を生きる。
それだけ。
だが――
ある日。
No.2「…………」
いつものように、
荒野を歩いていた。
その時。
「おい」
No.2「…………?」
振り返る。
数人の男たち。
薄汚れた服。
腰には――
武器。
盗賊「こんな所にガキ?」
盗賊「一人か?」
No.2「…………」
No.2は、
ゆっくり後ずさる。
盗賊「待てよ」
No.2「…………!」
逃げる。
だが――
ガシッ!!
No.2「――ッ!」
腕を、
掴まれる。
No.2「離せ!!」
盗賊「暴れんな!」
No.2「離せ!!」
噛みつく。
盗賊「痛ってぇ!!」
No.2「――ッ!」
ドゴッ!!
No.2「ぐっ……!」
殴られる。
地面へ――
倒れる。
盗賊「このクソガキ……!」
No.2「…………ッ」
それでも――
立とうとする。
だが。
別の盗賊が――
No.2の身体を押さえつける。
盗賊「こいつ――」
No.2「…………」
盗賊「売れるんじゃねぇか?」
No.2「…………?」
盗賊「痩せてるが、まだガキだ」
盗賊「連れていくか」
No.2「…………」
意味は――
よく分からない。
ただ。
一つだけ――
分かった。
こいつらは――
自分を。
この土地から――
引き離そうとしている。
No.2「…………!」
暴れる。
No.2「離せ!!」
盗賊「大人しくしろ!」
No.2「離せ!!」
手を――
縛られる。
No.2「…………ッ!」
そのまま。
引きずられる。
一歩。
また一歩。
No.2「…………」
振り返る。
荒れた大地。
いつも歩いた道。
眠った岩場。
食べ物を探した草原。
少しずつ――
遠ざかっていく。
No.2「…………」
食べ物なら――
また探せる。
寝る場所なら――
また見つけられる。
奪われても。
追い出されても。
また――
一から作ればいい。
でも。
この土地だけは――
代わりなんて、ない。
No.2「…………」
生まれた時から――
ずっと。
ここにいた。
何も持っていない自分に――
唯一、
残っていたもの。
それすら――
奪われようとしている。
No.2「……嫌だ」
盗賊「あ?」
No.2「…………」
足が――
止まる。
No.2「……ここから……」
盗賊「何だ?」
No.2「離れたくない……」
盗賊「知るか」
グイッ!!
無理やり――
腕を引かれる。
No.2「……ッ」
一歩。
また一歩。
この土地から――
引き剥がされていく。
No.2「…………ッ」
怖い。
初めて――
そう思った。
No.2「…………」
誰か。
誰でもいい。
No.2「…………ッ」
助けて。
その時――
『……怖いの?』
No.2「…………?」
声。
誰だ。
周りを見る。
盗賊しか――
いない。
『怖いんだね』
No.2「…………」
知らない声。
なのに――
不思議と。
自分の声に――
聞こえた。
No.2「……誰……?」
『大丈夫』
No.2「…………」
『怖いなら――』
その瞬間。
No.2の瞳から――
光が消えた。
そして。
口元が――
僅かに、
歪む。
『俺がやるよ』




