『二枚目の裏側』【6】
シオン「…………ッ」
遠ざかっていく、
No.2の背中。
その姿が――
少しずつ、
霞んでいく。
シオン「……く……そ……」
視界が、
暗くなる。
音が、
遠ざかる。
そして――
シオンの意識は、
完全に途切れた。
――――――――――
暗闇。
何もない。
音も。
光も。
その中で――
シオン「…………」
何度も。
何度も。
同じ光景が、
繰り返されていた。
――見える。
No.2が、
右から来る。
狙いは――
首。
だが――
No.2「アハッ!!」
ガァァァン!!!
剣は、
地面へ。
――見える。
正面。
胸への突き。
だが――
No.2「ヒヒッ!!」
剣は、
岩へ。
――見える。
左からの斬撃。
だが――
ピタッ。
剣が止まる。
No.2「ざぁんねん」
代わりに――
蹴り。
シオン「…………」
何度も。
何度も。
敗北した戦いが、
頭の中で繰り返される。
未来は――
見えていた。
確かに、
見えていた。
なのに。
その未来は、
何度も変わった。
シオン「…………」
なぜだ。
何が――
変わった。
シオン「…………!」
もう一度。
最初から。
静かに、
剣を構えるNo.2。
無駄のない構え。
無駄のない足運び。
そして――
急所だけを狙う、
正確な一撃。
その未来は――
変わらない。
見えた通りに、
剣が来る。
見えた通りに、
身体が動く。
そして――
シオンの剣が、
No.2の頬を斬る。
ズバッ!!
No.2「…………」
頬から、
血が流れる。
No.2は、
指先についた血を見つめる。
No.2「…………血」
そして――
No.2「……ひひっ」
シオン「…………!」
ここだ。
目。
口元。
立ち方。
剣の持ち方。
すべてが――
変わる。
静から――
狂へ。
そして。
その瞬間から――
シオンが見ていた未来も、
変わり始めた。
シオン「…………!」
さらに――
戦いの最後。
倒れたシオン。
No.2が、
剣を振り上げる。
――見える。
首を、
斬られる未来。
だが――
ガァァァン!!!
刃は、
シオンの首の横へ。
No.2「……終わりだ」
シオン「…………!」
まただ。
さっきまでの笑みが、
消えている。
目も。
声も。
立ち方も。
最初に会った時と同じ――
静かなNo.2。
シオン「…………」
静から、
狂へ。
狂から、
静へ。
その瞬間。
未来も――
切り替わっている。
シオン「……そうか」
未来が、
外れたんじゃない。
No.2が切り替わった瞬間――
それまで続いていた未来そのものが、
別の流れへ変わっていた。
シオン「…………」
切り替わる。
流れが――
変わる。
シオン「……流れ……」
その言葉が、
頭の中に残る。
流れが変わる。
未来が切り替わる。
なら――
シオン「…………」
その時。
ふと――
一つの言葉が、
頭をよぎった。
『一度、断ち切ればいい』
シオン「…………!」
懐かしい声。
ずっと昔――
まだ、
シオンが幼かった頃。
――――――――――
アルヴェリア王城。
とある一室。
小さな机を挟み――
幼いシオンと、
一人の老人が向かい合っていた。
アルヴェリア王国宰相――
オルディス・レヴァン。
二人の間には、
一組のトランプ。
幼いシオン「また負けた!」
オルディス「ほっほっほ」
幼いシオン「絶対おかしい!」
オルディス「何がおかしいのですかな?」
幼いシオン「だって!」
幼いシオン「さっきからオルディスばっかり、いいカード引いてる!」
オルディス「それは――」
オルディス「私の日頃の行いが良いのでしょう」
幼いシオン「嘘だ!」
オルディス「ほっほっほ」
幼いシオンは、
頬を膨らませる。
幼いシオン「もう一回!」
オルディス「構いませんよ」
幼いシオン「今度は俺が配る!」
オルディス「おや?」
幼いシオン「オルディスが何かしてるかもしれないから!」
オルディス「…………」
オルディスは、
小さく笑った。
オルディス「シオン様」
幼いシオン「何?」
オルディス「では――」
オルディス「一つ、覚えておいてください」
幼いシオン「?」
オルディスは、
机の上のカードを手に取る。
オルディス「世の中には――」
オルディス「人を騙す者がおります」
幼いシオン「騙す?」
オルディス「ええ」
オルディス「誰もが正々堂々と勝負するとは限りません」
オルディス「勝つために――」
オルディス「イカサマを使う者もいる」
幼いシオン「イカサマ……」
オルディス「例えば――」
トン。
オルディスが、
カードの束を机へ置く。
オルディス「よく見ていてください」
カードの束を、
途中で二つに分ける。
そして――
上下を、
入れ替えた。
幼いシオン「……何したの?」
オルディス「カットです」
幼いシオン「カット?」
オルディス「ええ」
オルディスは、
カードの束を整える。
オルディス「本来は――」
オルディス「カードの束を途中で分け」
オルディス「その順番を変えるものです」
幼いシオン「…………」
オルディス「ですが――」
オルディス「使い方次第では」
オルディス「相手が作った流れを崩すこともできる」
幼いシオン「流れを?」
オルディス「ええ」
オルディスは、
幼いシオンを見る。
オルディス「勝負が相手の思い通りに進んでいる時ほど――」
オルディス「その流れを疑うのです」
幼いシオン「…………」
オルディス「そして――」
オルディス「必要ならば」
トン。
カードの束を、
真ん中から二つに分ける。
オルディス「一度――」
幼いシオン「…………」
オルディス「断ち切ればいい」
――――――――――
シオン「…………!」
その言葉と共に――
No.2との戦いが、
再び浮かぶ。
静。
狂。
静。
狂。
切り替わるたびに――
未来が変わる。
戦いの流れそのものが、
塗り替えられていく。
シオン「…………」
未来を見るだけじゃ――
足りない。
変わった未来を、
そのたびに追いかけるだけじゃ――
また同じだ。
シオン「……断ち切る」
オルディスが教えてくれた――
カードの技。
その名は――
CUT。
バチィィィン!!!
暗闇に――
巨大な亀裂が走った。
シオン「――ッ!!」
――――――――――
シオン「はっ!!」
勢いよく、
目を開ける。
シオン「はぁ……!」
シオン「はぁ……!」
荒い呼吸。
見上げた先には――
崩れかけた、
古い天井。
シオン「…………?」
身体を起こそうとする。
ズキッ!!
シオン「ぐっ……!」
肩。
背中。
腹。
全身に、
激痛が走る。
「動かない方がいい」
シオン「……!」
声の方を見る。
そこにいたのは――
見覚えのある男。
廃村で、
盗賊たちに捕らわれていた男だった。
シオン「……お前……」
男「目が覚めたか」
シオン「……ここは?」
男「村だ」
シオン「…………」
男「お前が戻ってこなかったから――」
男「何人かで探しに行った」
シオン「…………」
男「そしたら、荒野で倒れてた」
シオン「……そうか」
シオンは、
自分の身体を見る。
傷には――
丁寧に、
布が巻かれている。
男「酷い傷だった」
男「しばらく動かない方がいい」
シオン「…………」
シオンは、
再び横になる。
天井を――
見つめる。
No.2。
静。
狂。
切り替わる未来。
そして――
オルディス。
あの日、
教わったトランプ。
シオン「…………」
ゆっくりと――
右手を握る。
まだ――
はっきりとは分からない。
だが。
あの言葉のおかげで――
何かを、
掴めた気がする。
シオン「…………」
脳裏に浮かぶ――
オルディスの顔。
シオン「……ありがとう、オルディス」
一度は――
完全に敗れた。
未来が見えても、
何もできなかった。
だが。
次は――
シオン「…………」
その目には、
もう迷いはない。
シオン「……次こそは」




