第9話 ユニコーンの例の習性について
「——優勝賞品が、逃げたんです」
「賞品が?」「逃げたぁ……?」
はからずも俺とフレアの言葉が良い感じに一文になってしまった。
「逃げたってどういうこと? 賞品ってなんなの?」
「優勝した方は『ユニコーンを1ヶ月間レンタルできる』というものだったんです」
「へえ、ユニコーン! いいわね! ……ユニコーンってあの馬みたいなやつよね?」
「そうだよ……」
「なんで呆れた顔してるわけ? あたし、正解を言ったんだけど」
口を尖らせるフレア。一理あるが、俺からすると、『お湯って水を温めたやつのことよね?』と言われたような気持ちだ。
「でも、ユニコーンがいないなら普通の馬を貸し出せばいいんじゃない? 何か違うの?」
「授業でやっただろうが……」
魔虫のことといい、こいつは魔法生物学を甘く見すぎているな。ていうか全教科を舐めてるんだ。
「ユニコーンさんというのは、要するに防御魔法が使える馬のことです。多少のモンスターの攻撃であれば物理攻撃も魔法攻撃も防御が出来ます。なので、普通の馬と馬車では通れない危険な道も、ユニコーンさんとなら通ることが出来るんです」
ルウリィが教えてくれる。
「ふーん……普通の馬だと通れない道って、たとえば?」
「大陸南の魔境とか大陸北の魔窟とかですね。その先には、リゾート地があったりもするんですよ」
「あとは、ちょうど昨日通ったアオナ湖の東ルートとかな。ユニコーンなら魔虫も避けて走れる」
「魔虫! うーっ……! なるほど、ユニコーンの素晴らしさが分かったわ……!」
フレアが鳥肌を抑えるように肩をすくめる。彼女的にも魔虫の大群に襲われたのはトラウマらしい。
「でも、御者は? ユニコーンを捕まえるだけならまだしも、運転することが出来る人なんて、ほとんどいないだろ」
「一人だけ村にいるんです。それが出来てしまう者が。その者がついていくことになりますね」
「へえ、至れり尽くせりだな……」
「それはぜひとも乗りたかったわね」
「すみません……」
ルウリィが申し訳なさそうにまた少し頭を下げる。
「賞品がないとなると、大会を開いても仕方ないので、大会の開催自体を中止する案が出ていて……。今、村の方々がその対応に追われていらっしゃいます。うちの父も。商工会の会長なんです」
「なるほど、それで娘のルウリィがカウンターに立っているというわけか」
たしかに、今日は週末だから学校も休みだろうしな。
「はい、そういうわけです……」
「でも、じゃあ、とにかく!」
フレアがなぜか胸を張る。
「大会までに、逃げ出したユニコーンを探して、連れ戻して来れればいいってわけね!」
「いや、それはそうですけど……フレアさんがですか?」
「ええ。ま、あたしでもノイクでもいいけど」
「ノイクさんは男性なので不可能です。それに……フレアさんにも出来ないんじゃないんでしょうか?」
「はあ? どうしてよ?」
「だって……えっと……………お二人は……その…………ねえ?」
言いながら段々と赤くなっていくルウリィの言いたいことを察して、俺もいたたまれなくなる。
「そんなわけないだろうが……」
「そうなんですか……? いやあ、でも、昨晩泊まったのはダブルのお部屋ですよね? ということは…………同じベッドで……その……えっと……ねえ?」
「『ねえ?』って言われても……」
「なんなの? あたしに分からない話するのやめてくれない? 寂しくなっちゃうじゃない」
不愉快そうに鼻を鳴らすフレア。
「説明して、ノイク。あたしにはどうしてユニコーンが捕まえられないの?」
「うーん……その前に、その前提のために一つ質問があるんだが……いいか?」
「ええ、構わないわよ」
「怒るなよ?」
「なんで怒るの? 仲間外れにされるより腹立つことなんてないわ」
俺は意を決して尋ねる。
「フレアって……処女か?」
「…………!」
フレアは驚いたような顔をしてから、顔を赤くしながら顔を顰める。
そして、
「…………本気で、興味あるわけ」
と聞いてきた。
「いや、別に興味があるわけじゃないんだけど……」
「はあ?」
彼女の声が怒気をはらむ。怒らないって約束したじゃん。
「ユニコーンの習性の話だ。あいつら……処女にしか捕まってくれないらしい」
「はあ!? 何それ!? 変態馬ってこと!?」
俺もそう思う。"聖"なる馬どころか……いや、これ以上は言うまい。
「じゃあルウリィがごにょごにょ言ってたのって……」
「……思い出すな、思い出させるな」
俺はつい顔を伏せる。
「まったく、ありえないわよね」
フレアはふん、と短くため息をつく。
「もしあんたにそんな気持ちがあったら、あんなにすんなり寝るわけないもの」
「フレアが先に寝たんじゃないのか?」
「知らないわよ、そんなの」
「知るとか知らないとかじゃないんだけど……」
「あ、あのっ!」
俺とフレアのやりとりをルウリィが見かねた様子で止める。
「……お、お二人って『まだ付き合ってないだけ』って感じですか?」
「どういう意味だ?」「どういう意味よ?」
俺たちの重なった返事に、ルウリィはため息をついた。
「……もういいです。とにかく、捕まえられるとしても、時間がありません。商工会で中止が決定次第、すぐに掲示を貼り出しますから」
「それって今から何時間後?」
「さあ、えーっと……」
ルウリィは壁にかかった時計を確認する。
「あと1時間くらいですかね……」
「まだ1時間もあるのね。ルウリィ、とにかくあたしをエントリーしておいてちょうだい! さ、捕まえに行くわよノイク!」
「待て待て、捕まえにって言ったって、どこにいくんだよ」
「うんうん、どこに行けばいいのかしら!?」
「あのな……」
分かんないくせにそんなキラキラした目で俺を見るな……。
「……こういう時は、まず実況見分だろ」
ルウリィを見る。
「ユニコーンの普段いるところまで連れて行ってもらえるか?」




