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第6話 宿場町エボ

「ここがエボね! ちゃんと着いたじゃない!」


「予定よりはだいぶかかったんだからな……!」


 宿場町エボに到着した時には、夜11時を回っていた。


 魔虫をいたあとも、文字通り山あり谷ありの道を進んだ。


 結果的に魔物が出なかったから良かったものの、出てきていたらフレアが魔法を撃つ以外に退治の方法はなく(情けない話だけど)、フレアが魔法を撃てばまた魔虫にたかられることになる。


 音を立てないよう、しかしなるべく速く進まないといけない道程は、精神的にも肉体的にもかなり摩耗まもうした。


「あの時素直に左の道を選んでいれば……」


「終わったことをクヨクヨしても仕方ないわよ。切り替えていきましょう?」


「その前向きなセリフはせめて俺に言わせてくれ……」


 ピンピンしている彼女とヘトヘトの俺。リュックの重みの違いだと信じたい。


「それにしても、なかなか綺麗な町ね!」


「まあ、そうだな」


 夜の闇に、オレンジ色の街灯(ランタン)が映えている。


「ていうか、さすがにお腹が空いたわね。ご飯を食べましょう」


「ああ、そうしよう……」


 大事なところで意見が合って何よりだよ。




 普通のレストランは閉まっている時間なので、ギルドの食堂に入る。ギルドの食堂は酒場を兼ねているために遅くまでやっている上、食堂ではあるので夜でもしっかりとした食事も取れるというわけだ。


「いらっしゃいませー」


 気だるげなウェイトレスさんが伝票を持ってやってくる。


「こんにちは! あたしたちにマンモスの生姜焼きをちょうだい! 2つ!」


「おい、俺の分勝手に頼むなよ」


 それとも2つとも自分で食べるのか?


「え、違うの? いつも食堂で食べてるじゃない」


「違くないし食べてるけど……」


「じゃあなんで口出してきたわけ……? あなた、変よ?」


「いや……すまん」


 たしかにメニューを訂正しないのに口出すのは変か。ん? そうなのか……?


「とりあえずマンモスの生姜焼きを2つでいっすか?」


「は、はい……」


 ウェイトレスさんが俺に向かって聞いてくるので、とりあえず承諾すると、彼女は戻っていく。


「つーか、俺がいつも頼んでるメニューを知ってるんだよ?」


「そりゃ、観察してるからでしょ」


 フレアはからっとした調子でいう。


「いや、観察って——」


「うわ、ノイク! 見て、このポスター!」


 俺の追求を遮って大声をあげたフレアが、テーブル脇の壁に貼ってあるポスターを指差す。そこには……。


『魔法演武コンテスト 開催! 豪華賞品は裏面に!』


「あたしたち、ツいてるわね!」「うわあ、ツいてないな……」


 真逆のことを2人同時に口にする。同じものも違う角度から見れば喜劇にも悲劇にもなるってやつか。いや、そんな哲学的な話はどうでもいいんだ。余計なことしてくれるなよ、宿場町エボ……!


「おれたちはこんなところで油を売ってる暇はないんだよ。学校を空ければ空けるほど、当たり前だけど授業も進んでくんだからな?」


「だからなんだってのよ。あんたは相変わらず生き急いでいるわね……でも、大丈夫!」


「何が?」


「大会の開催日が明日だから! パパッと勝ち抜いてサクッと町を出れば文句ないでしょ?」


「いや、明日って言ったって参加人数によっては1日がかりで……って明日!?」


 バン!とテーブルを叩いて腰を浮かす。


「どうしたのよ、突然立ち上がって」


「すぐに宿に行くぞ、フレア」


「……?」


「部屋が取れないかもしれない!」


 大会の参加者や観客が集まっている可能性がある!


 と、その時。


「マンモスの生姜焼き2つお待たせしました〜」


「……だそうだけど?」


 ウェイトレスさんが持ってきてくれた料理を指差してフレアが首をかしげる。


「…………それは食べるけども!」




 大急ぎで生姜焼きを掻き込んで(めちゃ美味かった)、宿屋に向かう。


 宿場町ではあるものの、この町に宿屋は一つしかない。


 受付には口ヒゲをたくわえたおじさんが立っていた。


「こんばんは! ゼェハァ……!」


「いらっしゃい。大陸一ふかふかなベッドが売りの宿屋・マリィへようこそ。どうしたんだい、血相けっそう変えて。いや元の血相を知らないけども」


「気にしないでおじさん、こいつは普段からだいたいこんな顔してるから」


「がはは、そうかい」


 初対面なくせにやけに軽妙なやりとりを無視して、俺はおじさんに尋ねる。


「部屋ってまだありますか……!?」


「ああ、あるよ」


「よかった…………!!」


 天を仰ぐ。神様、ありがとうございます野宿をまぬかれました……!


 と、涙ぐんでいると。


「今日は明日のコンテストの参加者さんの予約でほぼ満室だったんだが、一室だけ空いている。ギリギリセーフだな」


「……ツインですか?」


「いんや、ダブルだね」


「バリバリアウトっすね……!!」


 一転、項垂うなだれることになる。カウンターの木目を睨んでいると、


「どうしたのよ、ノイク。ツインとかダブルとか、何言ってんの?」


 フレアが質問してくるので、彼女に向き直った。


「相部屋だとよ。しかも……ベッドは大きめのが1つだけだ」


「…………え」


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