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第5話 魔虫、襲来。

 ドドドドドドド……

 しゅるしゅる……


「ねえノイク……! あいつらめちゃくちゃ気持ち悪いわ……!」


 不気味なハーモニーをかなでながら遠くから近づいてくる魔虫まむしの大群を指さして、顔面蒼白になるフレア。


「そもそもどうして魔虫って名前なのに虫じゃなくてヘビなわけ……!?」とかぶつぶつ言ってる。


 こいつもこういう表情かおになることがあるんだな……などと思ってる場合ではなく!


「フレア、逃げるぞ!」


 俺は声をかける。


「……大丈夫よ、安心してノイク。あたしの魔法で追っ払ってあげるわ。自分で選んだ道の責任は自分で取るって決めてるのよ」


 脂汗あぶらあせにじませたフレアが随分と殊勝しゅしょうなことを言いながら銃の形に構えた手を、


「違う違う違う!」


 俺は思わず握っていた。


「何やってんの! 銃口じゅうこう握ったら危ないじゃない!」


「危ないのはそっちだ! 魔力に反応するヘビだって今言っただろうが! フレアの魔力に反応してあいつら群がって来てるんだから、もっと呼び寄せることになるぞ!」


「そうなの!? じゃあどうすれば……あ! あたしひらめいたわ! 魔法をめちゃくちゃ遠くにぶっ放せばいいんじゃない?」


「どこに飛ばそうが一緒だよ! 魔法の発生源自体がここにあるんだから意味ないだろ!」


「じゃあどうすればいいのよ!」


「だからとにかく逃げろってさっきから言ってんだろ!」


 俺はフレアの手を握ったまま、先ほど魔法を撃ち込んだのと逆方向に走り始める。


 どうする、どうする……!


 フレアの魔法は逆効果、かといって俺も近接戦闘が出来るわけでもなく……! 一匹ならまだしも数えられないくらいの大群だ。


 でも、このまま逃げ続けていてもジリ貧だぞ……!


「ねえ、ノイク!」


「なんだよ!? 今、打開策を考えてんだよ!」


「あんたはなんで走ってんの!?」


「追われてるからだろうが!」


「あんたは追われてないじゃない!」


 たしかに俺は魔力を放ってないから、俺は追われていない。俺が立ち止まったって俺に魔虫がたかることはない。しかし。


「フレアが追われてんだろ!」


 この旅は不本意ながらこいつと一蓮托生いちれんたくしょうだ。


「俺が策を思いついた時にフレアの側にいないと、フレアがずっと追われることになるだろうが!」


「……! あんた、すっごく良いやつね!」


 フレアが笑顔を咲かせたのが顔を見なくても分かった。


「そういうこと言ってる場合じゃないだろうがああ!」


「でも、嬉しかったから!!」


 いやだから、そういうのいいから!


 もういい、こいつは無視しよう。


 どうしたらいい? 


 魔虫は魔力に引き寄せられて魔力を喰いにくる魔物だ。


 だとしたら、どこか別のところでフレアよりも強い魔力が発生してくれれば、そっちに行ってくれるんだろうが……いやいや、無限大(フレア)よりも強い魔力なんてありえない。同等でも無理なのに……。


 いや?




「そうだ!!」




「どうしたの!?」


「フレア、あと一回だけ魔法を撃ってもいいぞ!」


「え、ほんと!?」


「ああ。その前に……あのがけの上まで走れるか?」


「いいわよ! 撃って良いならね!」


 よし!


 俺は走りながら、リュックを片方の肩にかけ、その中を探る。


「……あった!」


 ほどなくしてゴツゴツとした感触が指先に触れる。


充魔石じゅうませき!」


 もらっておいて良かった……!というか無理やり押し付けてくれてありがとう道具屋のおじさん……! あとアティックシティの都市長……!


「よし、もうすぐ崖の頂上だ! 着いたらすぐ撃てるな?」


当然とーぜんっ!」


 高い崖の上まで駆け上がり。


「おりゃ!」


 そこからなるべく高く遠くに充魔石を投げる。


「今だ! あの充魔石を撃ち抜け、フレア!」


「任せて!」


 フレアは例のごとく右手を銃の形にして、親指を使って照準を合わせて特大の魔法砲弾を撃つ!


 フレアの魔法を喰らった充魔石に過分な魔力が充填されて……そしてそのまま崖の下に落ちていく。


「ねえねえノイク! 今撃ったのでもっと来ちゃってない!? ほら、後ろからめっちゃ来てる! 崖を這い上がってきてるのもいる! 気持ち悪い!」


 1。


「落ち着け! 俺を揺さぶるな! 酔う! 気持ち悪い!」


 2。


「だってえええええ!!」



 3秒を数えた時。





 ドオオオオオオオオオオオオオン!!





 地面にぶつかった充魔石が、衝撃で発動した魔力を手榴弾しゅりゅうだんさながらに放出し、輝きまくる。


「どうだ……!?」


 音が鳴り、光が輝くと同時、魔虫たちがピタ、と動きを止め、一斉にそちらを向き、そして。


 シュルシュルシュルシュルシュルシュル……

 ドドドドドドドドドドドドド……


 右向け右で進路変更して、我先に充魔石の方に群がっていった。 


「行った……!」


 ドドドドドド……という音が崖の下への集まっていく。


「ふう……なんとかなった……!」


「はあ……死ぬかと思ったわ……!」


 フレアがその場にへたり込んでから。


「ねえ、ノイク。すごいアイデアだったわね!」


 フレアが俺を見上げて瞳を輝かせる。


「すごいのはフレアの魔力だろ……!」


 俺は遠くの光を見やる。


「改めて見るとすげえな。やっぱり」


 たしかに充魔石は特大容量だったらしく、まだ光は止まない。今頃、あの充魔石は魔虫たちの間で争奪戦になっているだろう。


「それにしても」


 フレアは立ち上がり、


「めっっっっちゃ気持ち悪かったわね!」


 バシン!と背中を叩いてきた。つんのめるがギリギリ踏ん張る俺。


「危ないだろ、ここ崖の上だぞ!?」


「ほら! 東ルート(こっち)を通らないと出来ない貴重な経験だったでしょ!?」


「いや、なんでそんなに嬉しそうなんだ、一生しなくていい経験だったよ……」


「そんなことないわよ、良い経験だったわ」


「おい……もう一回撃つとかいうなよ……?」


「あんたあたしをバカだと思ってるでしょ?」


「魔法バカだと思ってるよ」


 ジト目で見られたのでジト目で返した。


「ふふん、それは良い表現ね。でも、大丈夫。一回経験すれば充分。あたし、そもそも爬虫類はちゅうるいってダメなのよね……」


「そうか、それは助かるよ」


 充魔石は町でもらったあれ一個きりだからな。







 そして、また数時間後。


「ここがエボね! ちゃんと着いたじゃない!」


 宿場町エボに到着した時には、夜11時を回っていた。


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