第4話 フレアの理屈
「右ルートを通った結果魔物に襲われでもしたら、なんとしてでも俺を守れよ」
倒木で出来た橋を渡り終え、少し平坦になったあたりで恨み口を叩く。
「何言ってんの。あたしより強いくせに弱気ねえ」
「アティックシティでもさらっとそんなこと言ってたな……。なんでおれがフレアより強いんだよ、そんなわけないだろ」
悲しいことを何回も言わせんな、と心の中で毒づいた。
「そっちこそ、またそんなこと言ってんの?」
ふん、とフレアは鼻を鳴らす。
「あたしはあんたに勝てない。だから、あんたはあたしより強い。それ以外に何かある?」
「フレアより弱いやつの内、俺が勝てるやつは一人もいないんだぞ?」
「じゃあ、あたしはあんたに負けてるにもかかわらず『ノイクに勝てる人に勝てるからあたしの方が強いわ!』って言ってたら満足なの? あんたはパーがグーに勝てて、グーがチョキに勝てるからって理由で、」
フレアは両手でじゃんけんをしながら続けた。
「パーはチョキに勝てるって言うわけ?」
「いや、それは相性の話だろ?」
そんで、なんでいきなりちょっとディベートが上手いんだよ……。
「相性とか環境とかタイミングとか全部含めて、勝ち負けの結果だけがすべてよ。見苦しい言い訳はしないわ」
フレアは肩をすくめて続ける。
「他の人たちにあんたが勝てるとか勝てないとかは、あたしとあんたの間には関係ないことでしょ? あたしはあたしが勝てるかどうかにしか興味ないの。……ていうかこの話そろそろいいかしら? あんまり自分の弱さを認め続けてると悲しくなってきちゃうもん」
「……そうか、すまん」
先ほど俺が胸中で毒付いたことを、フレアも思っているらしい。
フレアが本気で自分が俺よりも弱いと思ってるんだとしたら、俺のしていることは趣味の悪い自虐風自慢でしかない。
「ま、でもね、相性とか環境が関係あるからこそ」
フレアはふふ、と微笑む。
「勝敗だって変わる可能性があるわ。明日のあたしはあんたに勝つかもしれないわよ?」
「……そうだな」
森を歩いていると、少しだけ開けたところに出た。
ちょうど、演武場と同じくらいの円形だな……と思ってると、演武大好きの戦闘狂も同じことを思ったらしく。
「ねえねえ、ここ、誰もいないし、一回戦いましょうよ。明日のあたしはあんたに勝つかもってさっき言ったけど、別に明日を待つ必要なんてないんだったわ。二人きりなんだから戦り放題じゃない」
「いやだよ……余計な体力使ってる場合じゃないんだから」
「あたしもやだ! 我慢できない! 溜まってんのよ!」
言い方。
「溜まってるもなにも際限ないだろ、無限大なんだから。どっちかっていうと今日はもうユリウス先輩と戦ったんだから大丈夫なはずだ」
「朝のことでしょ! もうお昼過ぎてるわよ。何、あんたあたしが他の人と戦ったから嫉妬してんの?」
「してねえよ」
「ふーん? へえ、そうなのね、嫉妬してるのね」
「まじでしてないから……」
否定するほど本当は嫉妬してそうになるのってこういう状況の不利なところだよな。
俺はやや強引に話を切り上げようと天を指さす。
「どうしてもっていうなら、空にでも撃っとけ」
「そうするわ。罪のない木を撃ったりしたらかわいそうだものね」
無駄に博愛精神だけはあるんだな……。
「よしっ」
フレアは空を浮かぶちょうど的みたいな形をした雲に向けて、銃口にした人差し指と中指を向ける。
そして、
「あの雲を撃つわ。中れっ!」
ドン!と砲撃で雲をぶち抜いた。
「おおー……」
俺は魔法が使えないから分からないし、さっき雲に撃ち込むとフレアが言った時はなんじゃそりゃと思ったが、これを自分が出来るとしたら面白そうだ。万物を的にした射的ゲーム。
「いいなあ……」
などと口走ってしまった頬を叩く。
「どうだった!?」
幸い、フレアに今の俺のつぶやきは聞こえていなかったようで、
「……無駄撃ちだな」
と答えるに間に合った。
「無駄撃ち……! なかなかいい表現ね、無駄こそ人生だわ」
などと、またしても悟ったようなことをフレアが言った瞬間。
「ん……?」
ドドドドドド…………と遠くから地響きがする。
「おい、何かこっちに来る……?」
「何なに!? どうしたの?」
「えっと……」
群れになって近づいて来たそれは……。
「魔虫……!?」
ドドドドドドド……の地響きの上にしゅるしゅる……と嫌なハーモニーを奏でながら群れで押し寄せてくる。
「魔虫? 何よそれ」
「魔力に反応するヘビだよ! 魔法生物学の授業でやっただろ!」
これは厄介なやつが出てきてしまった。
魔力に反応するということは、魔法を撃つほどにこちらに群がってきてしまう。
つまり——
「これがあの矢印の本当の理由だったか……!」
——フレアの魔法では退治できないということだ。




