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第2話 魔法学院都市アティックシティ

「門番さんどうも! これ、出立しゅったつ許可状きょかじょう! 療法塔りょうほうとうとかいうとこの魔法医師とやらに会いにいくの!」


「待て待て待て待て」


 門番所にいる屈強なおじさんに嬉々(きき)として話しかけるフレアを呼び止める。


 高等部の校門を出たとたん、迷わずズンズン歩き出したと思ったら、こいつもう学院都市を出るつもりだったのかよ。


「何よ?」


「外には魔物もいるし、療法塔までは片道4日以上かかるんだぞ? 往復1週間以上だ。なのに、さっき旅が決まったばっかで回復薬も水や食糧も何も持ってないんだ。出発の前にまずは、アティックシティの中で準備だよ」


「一週間以上! この旅、そんなに長い間出来るの!?」


 フレアは嬉しそうに大きな瞳を輝かせる。『出来るの!?』って。


「そりゃそうだろ、おれたちはあそこに行くんだから」


 俺は北の山——イジュフ山の上にそびえ立つ療法塔を指差す。


「へえ、あそこ! そっか、あんなに遠いところなのね……!」


「なんでそんなに嬉しそうなんだよ。さては授業サボれて嬉しいとか思ってんだろ……? どうせあとで補習やら何やらやらされることになるんだからな」


「そんなことはどうでもいいわ。じゃあ、とにかく準備を済ませちゃいましょっ!」


 フレアはそう言って、たたっと掛け出す。テンション高いなあ、俺はネガティブな情報しか出してないはずなんだが……。


 呆れていると、彼女は振り返って太陽みたいに笑う。


「楽しみね、ノイク!」





 魔法学院都市アティックはその名の通り、一つの大きな都市である。


 小等部、中等部、高等部、大学(アカデミー)の校舎の中心に、学生とここで働く人のための街——アティックシティが広がっている。



 俺たちはまず、防具を買いに武器・防具屋に向かった。


「こんにちはー!」


「いらっしゃい……って君たち、高等部の学生さんだろう? 授業中に制服着て堂々と出てこられると困るなあ」


 店主のおじさんが言うと、


「そ・れ・が! 違うのよね!」


 と、またしても自慢げに出立許可状を掲げるフレア。


「出立許可状……? なるほど。へえ……二人で療法塔に行くのか」


「ええ、ノイク(こっち)はあたしの付き添いだけどね」


「俺たち初めての旅で……。防具を見せてください」


「防具ね、分かった。これは魔虫まむしに噛まれない用のすね当て、これはボムスライム用の盾で——」


 客だと分かったら、おじさんは丁寧に接客をしてくれた。


 俺は荷物にならない軽めの防具を頼む。


「ところで、見たところ杖を持っていないようだけど、旅に合わせて新調するつもりかい? それなら防具とセットで安くするけど?」


「ごめんね、あたし、杖は使わないの! 杖使うと弱くなっちゃうんだもん」


「杖を使わない……? ああ、とすると、君が無限大の……」


 杖は、魔力の通り道を作り、流れを整えることで、術士の思うように魔法をコントロールするためのもの。フレアの場合は、放つ魔力自体が膨大過ぎて、整えることで威力が弱まってしまうらしい。


「じゃあ、そちらの君はどうだい?」


「ああ、俺も杖は使いません……というか、」


 俺の場合は真逆だ。


「正確にいうと、使えません。杖に流す魔力がないので」


「なるほど。君が魔力値ゼロの……。……悪かったね、変なこと聞いてしまって」


「いえ、こちらこそすみません」


 店主は気まずそうに微笑む。


 この街の人たちは優しい。


 俺が入学前に覚悟していたような、魔力値ゼロの人間へのいじめや迫害や差別、追放なんて、実際はこの街には存在しなかった。


「——なので、防具だけ買えますか」


「ああ、もちろん。……えっと、割引しようか? その、お詫びと言ってはなんだけど」


 しかし、内心どこかで哀れんでいることはどうしたって伝わってくる。


「……いえ、——」


「結構よ! ノイクは筆記が満点だから! お詫びってことなら必要ないわ!」


 俺が低いトーンで申し出を断ろうとしたのをかき消すようにフレアが言う。


「それ関係あるか……?」


「あるわよ!」


 なぜか自分のことのように胸を張っているフレアについ俺も呆れて笑ってしまう。




 次は道具屋だ。


「こんにちはー! これ、出立許可状ね!」


 今度は店主にサボりかと聞かれる前に、許可状を掲げながら店に入っていくフレア。学習してくれるのは助かるが、何でそんなに誇らしげなのか。


 一通り必要なものを買うと、


「ちょっと待っててね」


 店主は奥から、手榴弾しゅりゅうだんみたいな形をしたものを持ってくる。


「最新式の"充魔石じゅうませき"を持っていってくれ。特大容量なのにこのサイズ! すごいだろう。旅立つ学生さんに無償で配るように都市長からお達しがあったんだ」


「充魔石ですか」


 体内にある魔力を使い切ると、基本的には睡眠を取ることでしか回復は出来ない。しかし、魔力の込もった石である"魔力石"があれば、ここから魔力を回復できるのだ。


 従来の使い捨て魔力石とは違い、自分で充填出来るようになったものが"充填式じゅうてんしき魔力石まりょくせき"——略して"充魔石"だ。


 ただし、例によって、


「こいつは魔力値が無限大で、俺は魔力値ゼロなので、充魔石はいりません」


 ……ということを伝えると。


「いや、持っていってくれ。都市長のお達しは絶対だ。君たちが万が一のことがあった時に、渡さなかったなんてことが発覚したら責任問題になる。都市長に逆らうことがこの都市で何を意味するか——分かるだろう?」


「それは、まあ……」


 そこまで言われてしまうと、捨てるのも忍びないのでもらっておくことにした。


 どこかで売れば金に出来るかもしれないしな。





 一通り買い物を終えて北門に向かう道中、充魔石をかざしながら、フレアは尋ねてくる。


「ね、充魔石これって、どうやって充填して、どうやって魔力を吸い出すの?」


「魔力をこの石自体に打ち込めば充填される。吸い出す時には、衝撃を与えてやればいい。地面にあてるとか。そうすると充魔石から魔力が空気中に放出されるからそれを吸い込む」


 それこそ俺は使ったことがないのでよく分からないが。


「ふうん。じゃあ、さっそく充填してみましょう!」


「もしやりたいなら、街を出てからにしてくれ。こんなとこでフレアが魔法を撃ったら魔力石に入りきらない魔力が何かをぶっ壊すだろ」


 充魔石がいくら特大容量だとしても、無限大ってことはないのだから。


「もう、この世界の魔道具は片っ端から軟弱なのよね!」


「フレアの規格に合わせられるものなんてないだろ」


「そうなのよ。あたしが魔法を思う存分撃てるのはノイクだけだわ」


「専用サンドバックみたいに言うな」


「自分より強い人のこと、そんな言い方してないわよ。それにしても……」


 俺の背負ったリュックをみて、フレアが呆れたような顔をする。


「あんた、大荷物ね……心配性なのがよく分かるわ。あたしを見てよ。何も持ってない!」


「なんで自慢げなんだよ、何か持ってろよ。理事長室から一旦寮に準備しに行ったんだろ? あれはなんだったんだ」


「そうそう、あれね! 寮に着いて『あれ、何も要らないわ……』と思ってすぐ引き返したの」


「だからあんなに早かったのか。……あとで要るって言っても分けてやらないからな」


「あ、北門が見えたわ! 早くいきましょう」


 俺の苦言を無視したフレアが駆け出そうとしたその時。


「待ちたまえ、フレアくん!」


「ん?」


 振り返ると、高等部3年生の先輩。あれはたしか、3年生で最も魔法演武が強いと言われている人だ。名前はなんだっけな……。


「どーしたの、ユリウス先輩!」


「お、覚えていてくれたのか……」


 そうだ、ユリウス先輩。フレア、この感じでちゃんと人の名前とかは覚えてるんだよな。いつだったか、『一度戦った相手のことは忘れないわよ!』と豪語してた。


「理事長から伝令だ。『大切なことを確認し忘れていたので試験してきてほしい』とのことで役目をおおせつかった」


「大切なこと? 役目?」


「昨日の魔法震まほうしんても、フレアくんの魔法状態がいつも通りなのかを確認してこい、とのことだ。もし弱体化などしていた場合は、君たちの出立は即刻中止だと」


「いやよそんなの。こんなに楽しみにしてるのに!」


「「楽しみにって……」」


 ユリウス先輩と俺の声がかぶる。そう思いますよね。


「ね、ノイク!」


「俺に振るな……」


「ま、別に弱体化なんてしてないから、それを証明すればいいだけだけど。で、何をすればその確認ってのは出来るわけ?」


「僕と魔法演武で勝負だ」


「勝負っ!! 景気がいいわね!」


 目を見開くフレア。口角が上がる。『景気がいい』って使い方合ってんのか?


「僕に勝てなかったら、すぐに校舎に戻りたまえ。そしてその時——僕は再び学院最強の座に返り咲く、というわけだ」


「……へえ?」


 フレアが目を怪しく光らせて微笑むと、ユリウス先輩もひたいに汗を滲ませながら口角を上げる。


「本気で行かせてもらうよ。……でないと、試験にならないからね」


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