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第17話 旅立ちの季節

「……ルウリィは今度こそアティックに入れると思うかい?」


 振り返って見えた顔は、存外に真剣で。


「……ルウリィがこのままユニコーンでアティックを受験しようとしてること、気付いていたんですね」


「さすがにね。あいつが生まれた頃から、あいつのことばかり考えているんだから」


 と言った直後、彼は苦笑いを浮かべた。


「……なんてな。あんなにすごい防御魔法を使えるようになってることすら知らなかったような父親が言っても説得力ないよな」


「ルウリィもこっそり練習してたんでしょう、仕方ないですよ」


 フォローしつつ、俺は、先ほどの質問に答える。


「たしかなことは言えませんけど……ルウリィが試験で実力さえ発揮できれば、アティックには入れるはずです。なんせあの防御魔法と、ユニコーンの使役と、筆記だって優秀ですし、落ちる理由がありません」


「そうかあ……」


 彼は嬉しそうに微笑む。


「……そしたら、入学後はルウリィを頼むな、ノイクくん」


「いや、俺に頼まれても……」


「ノイクくんに任せられないなら、ルウリィをアティックにやるわけにはいかないな。……ルウリィを頼むな、ノイクくん」


「学年も違いますし」


「ノイクくんに任せられないなら、ルウリィをアティックにやるわけにはいかないな。……ルウリィを頼むな、ノイクくん」


 あ、これ『はい』って言わないと解放してもらえないやつだ……。


「……分かりましたよ」


「いいのかい!」


 なんと白々(しらじら)しい。


「……でも、昨日今日会ったばかりの俺なんかに頼んでいいんですか、そんな大事なことを」


「客商売だからね。人を見る目には自信があるのさ。実際、今朝ギルドで聞いたあの啖呵たんかにはしびれたよ」


「忘れてください……」


『そんなわけねえだろうが!』

『うるせえ! あんたらのためじゃねえよ!』

『一生懸命努力して、それでも足りなくて……だけど諦められないあいつ(・・・)のためだ!』


 俺も思い出してしまい、耳が熱くなる。ひい、黒歴史ぃ……。


「それこそ、昨日今日会った人のためにあんな大きな声を出せるような人だ。あんたになら任せられる。どうか、ルウリィを幸せにしてやってくれ」


「どうやら話が大きくなってますね……?」


「ふはは、冗談だ。分かってるよ」


「……親子ですね」


 ついさっきルウリィも似たようなことを言っていた。


「なあ、ノイクくん。頼まれついでに、もう一つ頼まれてくれないか?」


「ええ……?」








 ルウリィの親父さんとの会話を終えて部屋に戻ると、フレアがむすっとした顔で腕組みして椅子に座ってた。


「……起きてたのか」


「どこに行ってたわけ?」


「別に……ルウリィ……の親父さんとちょっと話を、な」


「ふうん」


 嘘はついていない。いや、別にルウリィの部屋にいたことを隠す意味もないんだけど……。


 心の中で首をかしげていると、フレアがむすっとしたまま続けた。


「あのね、いきなりいなくなったら心配するでしょ? 書き置きくらいしていきなさい」


「母親かよ……」





 そして翌朝。


「おはようございます! 町の外でユニコーンさんに待っていただいています!」


「おはよう、ルウリィ!」


「ああ、ありがとう」


 身支度を済ませたルウリィが俺たちを部屋まで呼びにきてくれる。


 町の門を出たところで、フレアがあたりを見まわした。


「あれ、ルウリィのお父さんは? 見送りにはこないのかしら」


「さあ、二日酔いで起きてこられないんじゃないんですか? 別にいいですよ。どうせ話したって分かるわけじゃないですし」


「ふうん。ま、ルウリィがいいならいいけど」





 ユニコーンに繋いだ馬車に3人とも乗り込む。


 普通の馬と違い、手綱を握っておく必要はないらしい。




 少し進んだ頃。


「ルウリィ」


 俺は一つの封筒を差し出した。


「はい? なんですか、これ」


「親父さんから預かったんだ」


「お父さん……?」


 封筒には、『ルウリィへ』と書いてある。


***


ルウリィへ


直接見送れなくてすまない。


もしも、朝、お前の「いってきます」を聞いたら、お前のことを引き止めてしまうかもしれないから、どうかこの手紙で見送らせてくれ。


お前がアティックに行きたい気持ちの強さと、そのためにしていた努力を分かってやれず、すまなかった。


いや、本当は分かっているのに、いらぬ心配で引き留めてしまって、本当に申し訳ない。



お前は父さんの子だから、不器用で本当は気弱で緊張しいで、なかなか上手にはいかないって思っていたんだ。


でも、お前は母さんの子だから。


いや、ルウリィは、母さんの子じゃなくても、不器用も気弱も緊張しいも、人一倍の努力で全部乗り越えて行く。

止めても聞かないし、最後までやり抜く子だ。


だから、きっと大丈夫。


安心して、いってらっしゃい。




一つだけ、覚えておいてくれ。


その夢が叶っても、叶わなくても、お前の帰る場所はここにある。


ここを守り続けるのが、父さんの仕事だ。


うちは、大陸一あったかいベッドが売りだからな。


だから、いつでも、帰っておいで。


***


「本当に、あのお父さんは……不器用なんですから」


 目尻をぬぐいながら、ルウリィは微笑む。


「良いお父さんじゃないの。よかったわね、認めてもらえて」


 封筒の中には、昨日、親父さんが俺を待たせないように書いた短い手紙ともう一つ、受験にかかるお金が入っていた。


「……よかったな」


「……あ、でも……」




 ルウリィの表情がみるみる微妙なものになっていく。




「今、最悪なことを思い出しました」


「何?」


「わたし、受験を終えたとして、ユニコーンを返しに一回はエボに戻らないといけないんですよ」


「ん? ああ……!」


 そこまで言われて俺も気づく。


「どうせ会うんです、その時に。こんな……今生こんじょうの別れみたいな手紙送っといて。気まずすぎる……!!」


「ありゃ……」


 ていうか、よく考えたら、帰りにも寄るんだよなあ、エボ……。



「その時は、たくさん文句言ってやろ、お父さんに。……朝までたーっぷり」



 そう言って、嬉しそうにルウリィは笑った。


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