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第15話 夜の訪問者

『優勝は——フレア・アークライト!』


『ふふん! どんなもんよ!』


 表彰台の上で、フレアはガッツポーズを掲げる。



 二回戦以降はある意味順当に、フレアは一撃で参加者たちをリングから吹っ飛ばしていき、そのままストレートで優勝へと勝ち上がった。


 他の参加者から不満が出るかとか反則を疑われるかと思ったが、あまりにも規格外な強さに、対戦相手たちは試合後、なぜかフレアにサインを求めていた。まあ、今後有名な魔導士になる可能性はたしかに高い。


『では、商工会会長・宿屋の主人から優勝賞品の贈呈です』


 宿屋の主人——ルウリィの父親が、目録として、『ユニコーンレンタル権 1ヶ月分』と書かれた羊皮紙をフレアに手渡す。


「おめでとうございます」


「どうもありがとう!」


『では、優勝者インタビューです! フレアさん、この優勝をまず誰に伝えたいですか?』


『別に誰にも! 伝えたい人はちゃんとあそこで見てるもの!』


 フレアは俺のいる方を指差した。目立つのでやめてください……。


「じぃー……」


 隣に立ったルウリィがこっちを見てくる。ていうか「じぃー……」って声に出てるんだけど。


『さてさて、ユニコーンとどちらに行く予定ですか? 魔境の先にあると言われる楽園アワニコ? それとも魔窟まくつくぐった先にあると言われるオディアッコー?』


『へえ、そんな場所があるの? そこもいいわね!』


「おい、フレア、変なこと言うなよ……?」

 

 優勝が決まった後、俺がフレアに伝えていたのは、こうだ。



『いいかフレア。ルウリィは受験前の追い込みの時期だから、療法塔りょうほうとうには一旦俺とフレアだけで行くぞ。そのあと帰りにエボに寄って、ユニコーンとルウリィをピックアップして学院(アティック)に戻る』



 だから、ここでアワニコとかオディアッコーとか言わないでしっかり「帰りに寄る」ということを言ってほしいのだが……。


『でも、どっちでもないわ!』


「……よかった」


 ほっと胸を撫で下ろしたのもつか


『あたし、これから療法塔りょうほうとうに行くの! だからそこまで一緒に行ってもらおうかなって思って!』


 と出立許可状を掲げるフレアだった。


「おい、フレア……!!」


 俺の声が聞こえたのか、「あっ、そうだったわ! ごめんごめん」とフレアが気づく。


『そのあとアティックに帰るわ! 療法塔からアティックね! これでいいわよね?』


 いや、付け足すだけじゃダメなんだけど……。


「あの! 違うん——」


 です、とわきから訂正しようとしたところ、


「いいんですノイクさん。ぜひお供させてください」


 とルウリィに遮られる。


「こんな楽しそうな旅についていかなかったら、アティックに入れなかったよりも後悔しちゃいますから」


「そうか?」


「もちろん勉強はちょっと不安ですけど……でも、がんばります」


 まあ、ルウリィがいいならいいけど……。


『ということで優勝者のフレアさんでした! もう一度勝者に大きな拍手を!』


『ありがとう! 来年また来るわねー!』


『それは勘弁してくれ! 参加者がいなくなっちまう!』


 武器屋のおじさんが本音だからかつい普段の口調になってしまっていた。


 舞台の端にいる宿屋の主人の表情はうかがい知ることが出来なかった。




「もう夕方だから、もう一泊していってくれ」


 大会の後、ルウリィの父親に言われる。


「ほら、こうなったじゃん……」


「大会の打ち上げもあるしさ。宿泊代も飲食費も無料でいいから」


 今からすぐに出てもどうせ町を出て早々に野営をすることになるだけだから、ここで一泊させてもらったほうがいいのだが、結果として丸一日ロスしたことになる。あーあ。


「いいじゃない! 優勝者であるあたしが打ち上げに出なかったらみんなも興醒めよ!」


「そうですね……」


 まあいい。今から何を言ったところで、太陽がもう一度のぼってくれるわけではないんだから。


「あの、ちなみに、お部屋って……2部屋取れますか?」


「すまないけど、大会参加者は連泊の方ばかりで、昨日と同じお部屋しか取れなくて……」


「ですよね……」


 また今夜もろくに眠れない夜になるのか……。




 ギルドの食堂で行われた大会の打ち上げは大いに盛り上がった。


 フレアは対戦相手や観客と楽しそうに話してサインを求められていたし、俺はなぜか商工会のおじさんたちにやけに気に入られて「最近の学生さんでは何が流行っているんだ」などと聞かれまくっていた。「俺は流行りとかよくわからなくて……」というと「出た! 思春期!」とか言われた。なんなんだしあいつら、いじんなや。


 そのテーブルの脇でガバガバ呑んでいたのは、ルウリィの父親。


「ちょっと、あまり無理しないでよ」


「オレは商工会の会長だぞ! オレが飲まなくてどうする! ぐはは!」


 ……上機嫌そうで良かったよ。


「そういえば」と、見回しても、ルウリィの姿は、見当たらなかった。




 腹一杯にご飯を食べて、打ち上げを途中で抜けて部屋に戻ると、


「どーん!」


 と口にしてベッドにダイブするフレア。


「どーんじゃねえよ、シャワーとかどうするんだ」


「いーのいーの、試合の後に浴びたんだから」


「じゃあ、顔だけでも洗いなさい」


「んーー……ぐぅ」


「寝たのか!?」


 顔を覗き込むと、そのまま爆睡してしまったらしい。


「疲れてたんだな……」


 その子供みたいな寝顔に呆れて笑ってしまう。声がけじゃ起きなさそうだし、触れられるわけもない。


「……仕方ないな」


 俺は独りちて、床にタオルを敷く。




 ……とその時。


 コンコン、とドアが音を立てる。


「はい? ……って、どうした」


 ドアを開けると、


「夜分お疲れのところすみません……」


 そこにはルウリィが立っていた。


「ノイクさん、戻っていらして良かったです。って、あれ、フレアさんは?」


「打ち上げから戻るなりすぐ寝たよ、ベッドを占領して」


「そうですか……え、洗顔とかは?」


「そう思うよな」


「……でも、ちょうどよかったかも」


 ルウリィが小さく呟く。


「ん?」


「あの……ノイクさん。こんなことお願いしていいのか分からないんですけど……」


 少し小声になって、上目遣いの彼女は言った。


「……わたしの部屋に来てくれませんか」


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