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第14話 ルウリィの理由


「「「おお……!!?」」」


 フレアの爆発的魔法砲弾を受けてそこに無傷で立つルウリィを見て、町民が戸惑いと興奮と驚嘆と喜びとが入り混じった歓声をあげる。


「はあ、はあ……!」


 肩で息をしているルウリィと、


「あなたも人が悪いじゃない、そんな力を隠してたなんて! 面白い、面白いわ!」


 目を見開き口角を大きく上げて舌なめずりしながら笑うフレア。立ち回りがサイコな悪役(ヒール)すぎる。


「なあ、お客さん。ルウリィは何で立ってられるのか分かるか……?」


 リング脇で立ち見していた俺の隣でルウリィの父親が呆然としている。


「……結界魔法です。それも、ユニコーン式の」


「はあ……!? いつそんなこと出来るようになったんだよ?」


「俺が知るわけないでしょう……」


 でもおそらくは、ユニコーンの近くに行ける能力を使って、ユニコーンの結界魔法を見て盗んだんだろう。


 だとしても、それはまったく簡単なことじゃない。


 ルウリィにもそれを理解出来る目と再現出来る腕が必要なはずだ。絵画を模写したところで、元々の絵に近づけるには相応の技術が要るように。


 結界魔法が使えるようになるのはここ数ヶ月でのことだとして、そのいしずえになる技術がここ数ヶ月で身についたとは思えない。


「いつの間に、そんなに……」


 その表情をなんとなく見てはいけない気がして、俺は前を向き続ける。


「あたしの魔法でリングアウトしなかったのは、ノイクとあなただけだわ!」


見様見真似みようみまねですけど……案外うまくいくものですね……」


「じゃあもう一発行くわよ!」


 フレアが右手で作った銃口をルウリィに向けて、またしても特大の砲弾を撃ち込む。


「あはは……無限大って本当なんですね……!」


 ルウリィは八の字眉で笑うと、次の瞬間、吹っ飛んで、リングの外に尻餅をついていた。


『え、えっと……勝者、フレア・アークライト!』


「「「「わああああああ!!」」」」


 俺はルウリィのもとに駆け寄り、手を差し伸べた。


「ど、どうも……!」


 ルウリィは遠慮がちに俺の手を取り、立ち上がる。


「大丈夫か?」


「大丈夫じゃありませんよ、なんですかあれは……。さすがに二発は受け止めきれません」


 お尻をパタパタとはたきながらルウリィは頬を膨らませて、


「でも……」


 そして、笑う。


「あんなに面白い人がいるなんて……やっぱりアティック学院(わたしの志望校)は最高ですねっ!」


「……そうだな」


 すっきりした表情の彼女に俺も口角が上がる。





『準決勝! アティック高等学院のフレア・アークライト vs 旅人・ハディート!』

 フレアの準決勝を観戦するために先ほどのリング脇ではなく、少し離れた観戦席に座っていると、ルウリィが「あ、ノイクさん見つけました」と言って隣に座る。


「こちら、ポップコーンです!」


「おお、ありがとう……」


 町の演武大会だが、案外興行としても成立しているのかもしれない。


「『参加賞……いやいや、努力賞だよ!』って言って道具屋のおじさんがなぜか泣きながらたくさん盛ってくれちゃいました。えへへ……」


 ルウリィは嬉しそうに口に運んで、ニコッと笑った。


「試合の後の暴飲暴食は美味しいですねっ」


 俺もポップコーンを一口もらう。塩気が強いな。


 と思っていると、舞台から声が聞こえる。


『さてさてフレアさん、意気込みはいかがですか?』


『ええ、意気込んでるわ!』


「さっきはあんな試合前のインタビューなんてなかったよな?」


「フレアさんがすぐ勝っちゃうので、を持たせるために武器屋のおじさんがアドリブで入れているみたいですよ」


「だとしたら、フレアの返答は短すぎるな……」


「ですねえ……『意気込んでるわ』って意味不明ですし」


 ルウリィが苦笑いを浮かべる。


「なあ、ルウリィ。ユニコーン式の結界魔法なんて、どうやって会得えとくしたんだ?」


「ああ……ユニコーンさんに教えてもらったんです」


「教えてもらった?」


「はい。ユニコーンさんは喋れませんが、わたしの言う言葉は分かるので、近くで見せてもらったり、結界の種類を変えてみてもらったりして……それを目で見て真似しました。まあ、もちろん真似事なのでユニコーンさんには遠く及びませんが……」


「そんな使役しえきの方法があるとはなあ……」


 乗せてもらう、守ってもらう以外に魔法を教わるなんて、ルウリィみたいに、ユニコーンを使役出来て、しかも魔力の向上を渇望かつぼうしている人にしか思いつきもしないことだろう。


「なあ、こんなこと聞いたら嫌な思いするかもしれないが……どうしてそれだけの実力があってアティックに受かれなかったんだ?」


「そう思いますか!? 受かる実力、ありますか!?」


 ぐっとこちらに身を乗り出すルウリィ。近いな……。


「あ、ああ……! さっきの見せれば文句なしだろ」


「そうですか……!」


「ユニコーン式の防御魔法はまだ出来なかったとしても、そこらへんの中等部の生徒よりはよっぽど筆記も実技も出来るはずだ。何か他に理由があるんだろ?」


「あはは、そうですね……」


 ルウリィは頬をかく。


「実はわたし……極度の緊張しいなんです」


「緊張しい?」


「はい。実技の試験も、筆記の試験もそうなんですが、勝負どきになると、頭が真っ白になっちゃうといいますか。お腹も痛くなって、手も震えて、全身を冷たい真っ白な血が流れて……気づいたら毎回療養室に運ばれているっていう」


 ルウリィの父親の言ってたことを思い出す。


『それに、あいつは身体が弱いんだ。早産そうざんだったからか、生まれた時から病気ばっかりして……。これ以上無理したら、取り返しのつかない病気しちまうかもしれないだろ。そうなったら後悔してもしきれない』


「じゃあ、これまで満足に試験を受けられたことがなかったってことか……?」


「はい……」


 なんてこった。


 俺は勝手にルウリィを勉強も実技も頑張ってもなかなか上手くいかない人なのだと思っていた。しかし、そうじゃなかった。そもそも実力を発揮できてすらいなかったのだ。


「でも、ユニコーンさんが一緒なら大丈夫です。わたしが倒れていてもユニコーンさんの背中にわたしが乗って、面接官さんの前に行けさえすれば、わたしがユニコーンさんを使役出来ることは伝わるはずですので」


「……そうだな」


 ポジティブなのかネガティブなのかはよく分からないが、とにかく本気だってことは伝わる。


「そういえば、さっきのフレアとの戦いは? ずいぶん堂々としてたけど」


「ずるい考え方かもしれませんけど、勝ち負けが結果にあまり関係なかったからかもしれません。どっちにしてもアティックにユニコーンを連れていくことが出来ますから」


「そういうもんかねえ……」


「そういうもんですよ」


 そう言ってルウリィは微笑む。


『勝者、フレア・アークライト!』


 ……あいつ、また一発で勝ったな。





 そしてまた数時間後、表彰台に立っていたのは。


『優勝は——フレア・アークライト!』


『ふふん! どんなもんよ!』


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