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第12話 彼女の夢

「ちょっと待ってよノイク! あたし全然分かんないんだけど!」


 オークの山に走る道中、フレアが後ろからいてくる。


「だから、ユニコーンを逃したのはルウリィなんだよ!」


「なんであの子がそんなことすんのよ!?」


「ルウリィとユニコーンを見つけたら話す」


 オークの山に入り、少し足音を潜めてそのまま周囲を見回していると。


「……いた」


 ルウリィが洞穴ほらあなの近くでユニコーンに話しているのを見つけた。


「ルウリィ!」


 彼女はばっと振り返り、


「フレアさん、ノイクさん……!」


 残念そうに、涙目になって俺たちの名前を呼んだ。


「お二人は湖に行ったんじゃなかったんですか……?」


 ルウリィは下唇を噛みながら首をかしげる。後ろからユニコーンが俺たちを試すようにじっと見つめていた。


「ルウリィがオークの山(こっち)に来るのが見えちゃったからな」


「わたしを犯人だと思ってたから、わたしをつけてきた、ってことですよね……」


「まあ、そうだな」


 はあ……とため息をついて、


「どうして分かったんです?」


 と、案外素直に認めた。ユニコーンと一緒にいるところを見られてはこれ以上の抵抗は無駄だと思ったのだろう。


「そりゃあ、あれだけヒントがあればな……」


「そうですか……」


「ちょっとちょっと!」


 フレアが割って入ってくる。


「『そうですか……』じゃないのよ! あたしにも分かるように話して!」


「そうだな」


 たしかにさっき、そう約束したからな。




「まず、ルウリィはアティックへの入学を目指している。ただ、今のところ中等部の入試から今日までの編入試験はすべて落ちてしまっている。そこまではいいな?」


「ギルドでそんな話が出てたわね、次が最後の試験だって。あ、それがなんのことかくらい、あたしにも分かるわよ? 高等部の入試はもうすぐだもの。それをルウリィが受けるって話でしょ?」


「ああ。だけど、ルウリィの受験が中等部の入試からだとすると、もう6回不合格を食らっている。普通に考えると、今回も合格するのは難しい——」


「そうかしら?」


「別に俺がそう思ってるわけじゃない。とにかく、そう思っていたルウリィが、不意に手にした合格の可能性。それがユニコーンだったんだ」


「ふーん……?」


 俺はルウリィに向き直る。


「3ヶ月くらい前、ルウリィ、親父さんと喧嘩したんだろ?」


「もう、お父さん、そんなことまでノイクさんたちに話してたんですか? 恥ずかしい……」


「俺が勝手に盗み聞きしただけだけどな」


 俺は頬をく。盗み聞きした上に、勝手にキレて啖呵を切って来てしまった。やばいやつだ。


「わたしが最後にもう一度入試を受けさせて欲しいって話をしたら、父がダメだと言ったんです。その流れで『オークを討伐できたら認めてやる』って……それで、わたしオークの山に入ったんです。でも、わたし、討伐はできなくて……」


「そこに、ユニコーンが助けに来た、と」


「……はい。そして、わたしのお願いした通り、オークを遠ざけてくれた(・・・・・・・)んです」


 退治してくれたのではなく、遠ざけてくれた。ユニコーンはオークより圧倒的に強いのに、だ。つまり、ユニコーンはルウリィのお願いを聞いて力を調整してくれたということになる。


「ユニコーンは本当に認めた人間の言うことしか聞かないはずだ。そんな能力、アティック中を探しても一人いるかいないかくらいのもんだろう」


「なるほど、町に一人だけの御者ぎょしゃってルウリィのことだったのね。……あれ、でも、御者は優勝者と旅をしないといけないんでしょう? 入試と被ってるじゃないの」


「だから、そのためにルウリィの親がユニコーンを賞品にしたんだ。ルウリィが受験を出来ないように」


「なんでよ!?」


「それもさっき聞いた通りだ。……無理な夢に敗れるよりは、親のせいに出来た方がいいだろうって」


「でも、特例入学があるんだから、今回は無理じゃないでしょ? ユニコーンを使役できるなんて、合格間違いなしじゃないの」


「特例入学は、あくまでも特例だ。学校がおおやけに認めている制度じゃない。普通、これまで落ち続けている子供がそんなこと言ってきたって、必死すぎてついた嘘だと思うだろ」


 ……俺の親も、そうだった。


 まあ、試験を受ける資格すらないはずの魔力ゼロの息子が『筆記試験で満点取れば入学出来るかもしれない』と言い始めたら、追い詰められた子供の戯言たわごとだと思わない方がおかしいよな。


「そもそもユニコーンはルウリィが飼ってるわけじゃない。あくまでも町の所有物なんだ。そんな疑わしい私用で持ち出すわけにはいかないんだろう」


「まったくもう、ルールとか決まりごとばかりでうんざりするわね!」


「だから今回、ルウリィはユニコーンに『オークの山に隠れて待っていて』とお願いした。今日大会が行われてしまって、優勝者が決まった時点で、もうルウリィは入試を受けることが出来なくなるから」


「……はい、そういうことです」


「なるほど、大会が開かれたら困るから、賞品を逃して大会ごとナシにしようとしたってことね。あなた、見かけによらず大胆なのね!」


「ノイクさんはいつから気づいていたんですか? ユニコーンさんが普通に逃げ出しただけじゃなくて、逃がされたんだって」


「実況見分中にいくつも不審なところがあった。まず、馬小屋の鎖、ユニコーンが自分で脱走したなら鎖止めが多少なりとも壊れていないとおかしい。なのに綺麗に壁にくっついてた。鎖を普通にルウリィが外して、『逃げてください』って指示をしたんだろ? 引きちぎらせれば良かったのに」


「ユニコーンさんが身体を痛めるかもしれませんから……。なんて、甘いですよね」


 甘いと優しいの違いとかは、俺には分からない。


「足跡もだ。逃げ出す時に歩いて逃げ出すか? 馬だろうがユニコーンだろうが、走るはず。で、ユニコーンの走りかたっていうのはジャンプみたいなものだ。前2本の足と後ろ2本の足は同じくらいの位置につくはずなのに、ほぼ等間隔に左前、右後、右前、左後……ってついていただろ?」


「そんなとこまで見てたわけ……?」


「あのな、誰のために見てたと思ってんだよ……」


「誰のためなの?」


「……さあな」


 なんだか言ってやるのもしゃくなので話を戻す。


「……だから。ユニコーンは歩いて湖の方まで何十メートルかだけ進んだ後、足跡の目立たない草原で方向転換してオークの山に向かったんだ。明け方に大きな音を立てると目立つから、抜き足差し足で」


「犯人がわたしだって根拠はあったんでしょうか?」


「アティックの特例受験についての興味が明らかに自分も受験したい人のものだったからな……一つ一つ繋げたら、さっきの結論に達した」


「そうですか……わたし、どこまでも詰めが甘いというか、考えが足りなくて恥ずかしいです……」


 ルウリィは情けなさそうに頭を押さえる。


「ねえ、ルウリィはどうしてそこまでしてアティックに入りたいの?」


「わたし……魔法生物の獣医になりたいんです。その資格を取るには今頃から魔法の基礎を学んでおく必要がありますから」


「ああ、だからさっきオークを『遠ざけてもらった』って……」


「はい。ユニコーンさんに助けてもらった時もそうです。こちらの都合で勝手に向こうの生息地に足を踏み入れて、討伐するということは出来ませんでした。……いや、そもそもわたしは攻撃魔法が使えないので討伐なんて出来ないのですが」


「でも、魔法獣医って大変なのね。高等部からその勉強しないとなれないなんて! なんか大学(アカデミー)からでも間に合いそうとか勝手に思っちゃってたわ」


「いえ、大学(アカデミー)からでも間に合うとは思うんですけど……」


「え、そうなの? なのにこんな大胆なことしてまでアティックに行こうとしたの? あなたもあたしと同じで待てない性分なのね」


「あ、あの、いや、えっと、そうではなくてですね……実はもう一つ理由があるといいますか……」


「もう一つ?」


「はい……。こんなこと言ったら怒られちゃうかもですけど……」


 ルウリィは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら、もう一つの理由を告げた。




「……アティックの制服ってすっごく可愛いじゃないですか」




「ぷはっ」「ふふっ」


 俺たちがつい吹き出してしまうと、ルウリィは慌てて、


「わ、分かってます! そんなことのためにって……でも、」


 そして、ぎゅっと拳を握る。


「わたしのたった一回の人生なんです。アティックの制服を着て、アティックシティで買い食いしたり、寮で同室の女の子と一緒に夜更かしして寮長さんに怒られたり、クラスメイトの魔法演武の試合を応援しに行ったり……そんなことがしたいんです。すみません、不純な動機で……」


「何言ってんの、そういう無駄っぽいことが大切なのよ! ルウリィの言う通りだわ、たった一回の人生だもん」


「そう、ですか……!」


 ルウリィの頬が少しゆるむが、やはりまた目を伏せてしまった。


「もちろん、親の気持ちも分かってるつもりなんです。町の人たちも、わたしが小さい頃から可愛がってくれているんです。『諦めが肝心だ』って……その通りだと思います。ユニコーンさんを使った特例狙いだなんてずるいですし……」


「ずるいからなんだっていうんだよ」


「え?」


 ルウリィが顔をあげる。


「たしかに俺も自分が特例で入学した時、これはズルかもって思ったよ。ただ、俺には他にアティックに入る方法なんてなかった。でもアティックにどうしても入りたかった。だから、持っている能力ものを使い倒して、拝み倒して、入れてもらった」


 俺は滔々(とうとう)と続けていた。


「使えるものを使って何が悪い。それがズルだからって言い訳にして、叶うのを諦められるくらいなら——」


 それなら、最初からこんなに苦しくなんてないはずで。


「——そんなの夢だなんて呼んでないはずだ」


「ノイクさん……!」


「でも、だからこそ、今はユニコーンを町に連れて帰ろう」


「え……?」


「勘違いするなよ。善行を勧めてるとか罪を償えとか言ってるわけじゃない。今なら、大会を開くことで、全部叶えられるから言ってるんだ」


「……どういうことですか?」


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