第11話 優勝賞品の行方
「あと1分もすれば分かるよ」
「1分……? 待つのは性に合わないんだけど?」
俺が門の外を見張りながらそれを待っていると。
「どうしてこんな短期間で二回も! ユニコーンが自分から逃げ出すなんてこと自体、前代未聞なのに!」
寄りかかっている壁の向こう側、ギルドの中から悲痛な叫びが聞こえた。
「なんか叫んでるわね」
ギルドの窓から中を見ると、フレアの言う通り、昨日カウンターで俺たちを接客してくれたルウリィの父親が顔を机を叩いてうなだれていた。その周りには数人のおじさんたち。おそらく、街の商工会が本日の演武大会をどうするか話し合っているのだろう。
「……せっかくだからちょっと話聞くか」
「商工会の喧嘩なんて聞いてどうするのよ」
「しっ」
俺は人差し指を立てる。
「あのねノイク、1時間って案外短いのよ? どれだけあんたが壁によりかかるカッコが様になるからって」
「いやだから静かにしろって」
普通こういうの一回で黙るだろうが。
「そもそも、道具屋もあそこにいるはず。充魔石は今まだ買えないよ」
俺は横目に、町の門の外を見守る。出入りする人々と、門を横切る人影。
「3ヶ月前に脱走したばかりだもんねえ……あれはルウリィがオークの山にオーク討伐に行った時だったか」
ギルドの中では、ルウリィのお父さんじゃなくて、緑の帽子と緑の服を着た、いかにも道具屋の店主といった風貌のおじさんが口にすると、
「あれは脱走というか、結局ルウリィを助けに行っていたわけだけどな。あの一件以来、縄を鎖にしたんだがな……さすがにユニコーンの本気には敵わなかったか」
筋肉隆々のいかにも武器屋の店主といった風貌のおじさんが答える。
「そういえばあの時、なんでルウリィはオークの山になんか行ったんだい?」
「ルウリィの父親が焚き付けたんだ。『オーク討伐でも出来ないとアティックに入学するのなんて無理だ』って」
「なんだいそれは! 自分の娘にそんなこというなんて! 普通は『オークの山には行ってはいけないよ』って脅すところだろう?」
「本気で行くなんて思うか!?」
ダン!と再びルウリィ父が机を叩く。
「あの時は売り言葉に買い言葉っていうか……実際、あいつはアティックの編入試験に何回も連続で落ちているんだ。『もう諦めろ』って言ったのに頑として聞かねえもんだから」
「だからって……」
「あいつな、試験に落ちるたびに、真っ青な顔になって帰ってくるんだ。絞り出すように『旅費を無駄にしてごめんね』って眉毛を八の字にして笑うんだよ。そんで、顔を伏せて涙声で言うんだ。『ねえ、お父さん——』」
ルウリィ父は、自分のことのように——いや、自分のことよりも辛そうな痛切な声で、ルウリィの言葉をそらんじる。
「『——才能がない人には夢を見る資格なんてないのかな?』って」
「っ……!」
その言葉に自分の瞳孔が開くのを感じる。
才能。努力。数値。零。資格。夢。
「あんなでもオレの可愛い一人娘だ。あいつのそんな顔、もう見たくなかったんだ」
「……なるほどねえ」
「あいつは身体が弱い。早産だったからか、生まれた時から病気ばっかりして……。これ以上無理したら、取り返しのつかない病気しちまうかもしれないだろ。そうなったら後悔してもしきれない。……もう、これ以上」
「……だから今回も、ユニコーンを賞品にしたのか。そうすれば、優勝者にルウリィはついていくことになるから。来月なんだろう、最後の試験が」
……なんだ、やっぱりそういうことか。
『一人だけ村にいるんです。それが出来てしまう者が。その者がついていくことになりますね』
『やっぱり、そういう特例って本当にあるんですね……』
「ああ……無理な夢を見て失敗して自分を責めるくらいなら。それで取り返しのつかないことになるくらいなら……親のせいにして生きる方が幾分か楽だろ?」
「まあ、そうかもしれないねえ……」
道具屋がふう……とため息をつく。
「…………んなわけねえだろうが」
俺は小さくつぶやき、下唇を噛む。
「ノイク?」
「そんなわけねえだろうが!」
一度はこらえたのに、堪えきれず、つい大きな声が出てしまった。
「!? お客さん!? いつからそんなところに!?」
ルウリィの父親が窓の外にいる俺たちに目を丸くするが、もうどうでもいい。
「いきなり大きい声出してどうしたのよ!?」
「フレア、ユニコーンをなんとしてでも連れて帰るぞ」
「あたし、さっきからそう言ってるんだけど!?」
フレアにツッコまれるとは、俺も焼きが回ったな。
「もしかして、ユニコーンの行き先にあてがあるのかい? もし本当に連れ戻してくれるなら助かるよ……!」
「うるせえ! あんたらのためじゃねえよ!」
俺は、今朝フロントでのルウリィの木箱の一番上にあった使い込まれた——読み込まれたではなく、使い込まれた本を思い出す。
「ルウリィの……」
あれは、俺も去年まで齧り付いていた、アティックの過去の入試の問題が収録された本だ。
「一生懸命努力して、それでも足りなくて……だけど諦められないあいつのためだ!」
もうそろそろいい頃合いだろう。俺は西門の方へ走り出す。
「ちょっと、どこ行くのよ!? 道具屋は!?」
「オークの山に行く!」
「え、湖じゃないの!?」
フレアは門を走り出た俺についてくる。
「この件の犯人は分かってるんだ」
今さっきのギルドでの会話で確定した。
このユニコーン失踪事件の犯人も、その動機も。
「犯人? そんなのあたしも最初から分かってるわよ? ユニコーンでしょ?」
「全然違うんだけど……!?」
あまりにも違くて驚いた。何言ってんだこいつ。
「え、だってユニコーンが逃げたんでしょ?」
「そうじゃない。ユニコーンを逃した犯人の話だよ」
「逃した? 逃げたんじゃないの?」
「いや、脱走させたんだ」
「はあ? 誰が?」
「——ルウリィが」




