第10話 実況見分
ルウリィに、町の西門の脇にある馬小屋の中へと案内してもらう。
「いつもはここにいるのか?」
「はい、ここに繋いでいます」
ルウリィの指差した先。金属で出来た輪っかが壁に固定されている。
「へえ……縄で?」
「あー……今は縄ではなく、鎖ですね。何ヶ月か前にユニコーンさんが自分で引きちぎっちゃったことがあって」
「……なるほど」
普段はこの輪っかに鎖を通している、というわけか。
「足跡とかは残ってないのか?」
「あ、残ってますよ! こちらです」
ルウリィは嬉しそうに案内してくれた。
馬小屋を出て数メートルの半円は土だが、そこから先は草むらに入る。
ユニコーンの足跡は、南に向かってほぼ等間隔に左前→右後→右前→左後……という風についていたが、そのまま草むらに消えてしまった。
「ねえねえノイク! あたし、分かっちゃった!」
フレアは俺の肩を両手でペチペチと叩きながら言う。
「なにをだよ?」
「あたしの名推理によると、ユニコーンは、この足跡の先に行ったと考えられるわ!」
「……そうか、なるほどな」
まあ、いたって普通かつ一般的で常識的な範囲の推測だけど、わざわざフレアの気を削いでやることもない。
「ふふん! で、ルウリィ、この足跡をまーーっすぐ伸ばした先には何があるの? そこに行ってユニコーンを捕まえちゃえば楽勝よ!」
「しばらくは草原ですが、その先にはアオナ湖があります。あれ、アティックからいらっしゃったってことは、お二人はそちらからいらっしゃったんじゃないんですか?」
「え、あの湖の方なの?」
「ええ、おそらく、東ルートの森の方に行ったのではないでしょうか」
「ねえノイク、東ルートってどっち……?」
フレアが俺を見上げて質問してくる。
「俺らが通った方」
「さっきは聞き間違いかと思ったんですけど、やっぱり東ルートを通ったんですか……? この人たち普通じゃない……」
『たち』は余計だ——と言いたいところだが、まあ通ってきたことは事実なので反論は心の中にとどめた。
「うう……じゃあ、魔虫うじゃうじゃルートね……? 気持ち悪いのよねあいつら……! でも仕方ないわ、行きましょう、ノイク」
「フレア、本当に演武大会に出たいんだな……!」
さっきあんなに魔虫と会うのを嫌がってたのに……その執念は一周回ってちょっと偉いなとか思ってしまう。
「ルウリィ、ちなみに、あっちの山は?」
俺は右斜め前に位置する、遠くに見える山を指差す。
「えっと……山が今関係ありますか?」
「さあ、分からないけど。なんでも情報は知っておきたい」
「そうですか……。あれはオークの山です。名前の通りオークがたくさんいる山でとっても危ないんですよ。エボの子供達は悪いことをするとオークの山に連れて行くぞと脅されたものです」
「あーそういうのあるわよね。あたしも叱られると、屋敷の近くにある魔法巨大蟻の巣に放り込まれたものだわ」
「はい、そんな感じです。……え、放り込まれた? 実際にですか?」
「ええ。魔法を撃てば倒せはするんだけど、巣が壊れると困るから面倒なのよね」
「やっぱりそれくらいしないとアティックには入れないんだ……」
ルウリィは悔しそうに下唇を噛んでいる。リアクション違くないか?
「それにしても、そこのオークたちはよくこの町を襲わないわね? 結構近くにあるけど」
「町結界がありますからね」
「町結界って何?」
「はい?」
聞き間違いですよね?とばかりにルウリィは首を傾げる。
「"町結界"ってのは、文字通り、町に張られてる結界だよ。これのおかげで、町に魔物が侵入することはない。ユニコーンみたいな無害な魔物も入れなくなるんだけどな」
「ああ、だから門の外に馬小屋があるのね」
「あのあの、フレアさんはどうやってアティックに入ったのですか……? 小等部で学ぶことだと思うのですが……」
「実技試験で魔法をぶっ放したら、筆記試験は免除だったのよ。だから勉強はからっきし。だから、そーゆー頭脳的なことはノイクに任せることにしたわ」
「俺に任せてどうする」
俺たちがツーマンセルなのはこの旅の間だけだぞ。
「そういう特例って本当にあるんですね……!」
「まあね。そんなこと言ったらノイクだって特例よ。筆記試験で満点取ることで、実技試験を免除にしてもらったんじゃなかった?」
「まあ、そうだな」
アティックでは公にはされてはいないが、そういった一芸入学枠みたいなものがある。
年間2回ある入学試験・編入試験の際に、自由に自己アピールをする時間があり、そこで何か特筆すべき能力を見せることで、他の点数が低くても大目に見てもらえることがあるのだ。
「ノイクさんはどうして実技を免除してもらったんですか?」
「あー……俺は魔力がゼロなんだ」
流れでこの性質を開示することには慣れっこだ。空気が重くなってしまわないよう、俺はそれをなるべく軽いトーンで伝える。
「あっ……ノイクさんが、あの……! わあ……!」
しかし、存外にルウリィは目を輝かせていた。
「ノイクさん、そっか……筆記試験を満点にすることで……! すごいです……! あのあの、実際にはどのタイミングでその交渉って——」
「——ねえ、たしかにノイクはすごいんだけど、今はそんな話をしてる場合じゃないのよ! とにかく一刻も早く湖に行きましょう! ユニコーンを連れ戻してきたらゆっくり話をしてあげるから」
「ああ、そうだな……。それで、」
俺は、こほん、と咳払いをして続ける。
「見つからなかったらすぐに引き返してオークの山も確認しないとな」
「えっと……でも、湖にいない場合は、きっとそのまま南に抜けてしまってるんじゃないですかね」
ルウリィは伏目がちに言った。
「それに、さっきも言いましたけどオークの山は危険ですよ? オークがいるんですから」
「大丈夫だ、フレアは強いからな」
……『俺は強いからな』と言えないのがなんとも情けないが。
「ねえノイク、そうと決まったならさっさと行くわよ!」
フレアは足踏みをして今にも湖の方へ駆け出してしまいそうだ。
「待て、フレア。あそこに行くなら、充魔石を買ってからじゃないと無理だろ?」
「うっ……それもそうね。ルウリィ、道具屋はどこにあるの?」
「町の東側にありますけど……充魔石?」
「ありがと!」
俺たちはルウリィにお別れを言って、町の中に戻る。
と、数メートル歩いたところにあるギルドの外壁に寄りかかった。
「ちょっとノイク! あんた何してんの? 道具屋に行って湖に行くんでしょ? こんなとこでかっこいい感じに寄りかかって立ってる場合じゃないわよ! こうしてる間にもユニコーンがどんどん離れていってるかもしれないのに!」
「大丈夫だ。ユニコーンはどこかにとどまってる」
「はあ? どこによ?」
顔をしかめるフレアに俺は告げる。
「あと1分もすれば分かるよ」




