第二話
「ホームルームの時間となりましたが、本日から同じ教室で過ごす編入生を紹介します。どうぞ、入ってください」
ガラガラと扉を開けると、奇異の視線に晒される。
中学でこそ転校という形は珍しくないものの、高校生になって編入してくるというのは稀だ。
それが『二人』もいるのだから、気にならない方がおかしいだろう。
「宮本です。宮本浪人。今日からお世話になります。編入の事情は、まあ、なんというか、成り行きだ。よろしく頼みます」
ぶっきらぼうで無難な挨拶を済ませたのは、腰の左右に一振りずつ刀を差した黒髪の男。
ちらりと金髪の少女に視線を向けるも、目が合ったのは一瞬ですぐに逸らされる。
他の生徒からしても、特に気にする様子はなかった。そのままの流れで二人目が自己紹介を始めた。
「巌流島高校から来ました、佐々木剣蔵と申します。こちらの教室でお世話になっております、主君である斎鏡様の膝元にて修行するために編入いたしました。どうぞよしなに」
こちらは恭しく事情を添えての自己紹介をこなしたのは、同じく黒髪だが短い髷で髪を結いあげた、脇差と刀を差した男……そう、俺である。
名前を挙げられて、注目が一気に集まったのを受けて、伶花も立ち上がる。
「私からも紹介します。この時期に編入してくる事情は、彼のプライバシーにも関わるので控えますが……皆様どうか、私の従者をよろしくお願いします」
そうして優雅に一礼をして席に着くと、それを合図として歓迎の拍手に迎えられる。
「では、佐々木さんは斎鏡さんの隣に。宮本さんは……刀臣さんの隣の席に座ってください」
そう先生に促されると、教室にいる生徒の間で、小さく沸き立ち、小声での噂が耳に入る。
「わざわざ刀臣さんの隣を指名したってことは、宮本君も側仕えってことなのかな?」
「成り行きって言ってましたわよ。それに、あまり従者という風には見えませんわ」
「そういえば、少しですがアイコンタクトを交わしていたようにも……」
「も、もしかしたら、許嫁という事情だったり!?」
「まあ! はしたないですわよ!?」
「……」
本人にも聞こえているのだろう。陶器のように白い肌に、少しずつ赤みが差していく。
改めて見ると、本当に人形めいた美しさだ。細い縦ロールという派手な髪形をしていながら、少しも違和感がない。最初からそうであるようにさえ見える。
羞恥に耐えていたが、キッと宮本の方を睨みつけると同時に、剣蔵とも目が合ったことでギュッと目を瞑った。ふるふると長い睫毛が震えている。
同じ編入生という親近感からか、目が合うと宮本は苦笑いを浮かべた。
「これ、もしかして俺が悪いのか?」
「さて、生憎と事情を知らない。不快であるなら否定してはどうか」
しかしそうなると、どんな関係かの説明を続けなくてはならない。
このゲーム『剣心奉仕』における主人公・宮本浪人と、メインヒロイン・刀臣有栖の関係は、言ってしまえば主従関係にある。
しかし有栖の立場が上ではなく、むしろその逆。『刀臣有栖』という刀の担い手として、宮本浪人があるのだから、本当のことを説明する方が混乱のもととなる。
(しまった、先に設定を考えておくんだったな。というか、わざわざ隣の席にしなくてもいいだろうに)
ここまで宮本は考えている。だったはず。いちいち細かい台詞を覚えてられんよ。
たしか、助け舟として俺は問い直すのだ。「貴殿らは主従関係という訳ではないということか」「その反応であれば、認めているようなものだろう」。
あれ、順番どっちだっけ。
「その反応であれば、認めているようなものだろう」
「そ――うだな。そうとってもらって構わない」
「貴殿らは主従関係ではないということか」
「ああ。……え」
「「うん?」」
「「「「「――い、許嫁ぇ!?」」」」」
「ち、ちが――! 違うのにぃ……! 馬鹿ぁ……!」
必死に否定しようとしているが、羞恥で真っ赤に染めながらだと、むしろ説得力が増すんじゃないだろうか。
ていうか、どっちかというと悪ノリが強いのか。普段は話しかけづらい、孤高の立場の美少女が、ここまで大きく動揺している様子は、娯楽に飢えたお嬢様たちにとって嗜好品のようなものなのだろう。
すまん宮本。合掌。順番間違えた。まぁエロゲだし、むしろイベントが増えたとでも思えばいいんじゃないだろうか(プレイヤー目線)。
「ど、どうしてこうなった……」
「うぅ、私の学園生活、もう終わり……」




