第一話
『剣心奉仕』というゲームを一言で表すならエロゲーだが、それは大雑把な判別であることを先に伝えておきたい。
エロゲーにもジャンルがあるのだ。……らしい。ヌキだの泣きだのギャグだの鬱だの。友人からの受け売りなので、正直そこまで詳しくはない。
ただ、エロゲーというものはアダルトゲームと銘打ってはいるものの、そういう要素もあるゲームという解釈の方が正しく、エロを目的に遊んでみるとゲームとして面白いということが往々にしてある。
あとは暴力表現が過剰に入ってると、人によっては気分が悪くなることも少なくない。鈴木宗右衛門が、暴力で誰かを害するということ自体に、強く嫌悪感を抱く人間であったのは、身の回りでその可能性となる火種がいくつかあったからだろうか。
勧めてきた友人に悪意はなく、むしろ善意として嬉々として語ってくれたのだが、理解ができないままに普通に吐いた。以来、関係の修復はできないままに死別してしまうのだから、もう会うことはないにしても苦い思い出となっている。
現実はエロゲーよりも奇なり。鬱ゲーほど派手な死に方ではないにしても、発見されればニュースに乗るような死に方で、鈴木宗右衛門の人生は幕を下ろした。
だが待て、しかし。意識を失い、夢を見るように佐々木剣蔵として意識を取り戻した。それも、再序盤の編入よりも前の出来事である。
話を戻そう。
『剣心奉仕』は、いわゆるキャラゲーの類であり、エロを抜いたゲームジャンルとしてはタクティカルRPGである。主人公だけでなく、周りの仲間を鍛えて戦い、戦闘不能になれば蘇生しない限り脱退という扱いになる。
セーブしてやり直せば問題なく倒せる難易度ではあるものの、難易度調整にそこまで時間をかけていないのか、運によっては鍛えたキャラでもさっくり死ぬ。
そんなこともあって、最強を目指したとて死ぬときは死ぬという覚悟を完了するところから始まった。
確立ゲーの宿命である。即死攻撃や状態異常の対策をしなければならない。
正直、敵役とはいえ名前のあるキャラに憑依転生しただけマシだった。モブ生徒であってもステータス差はさほどないが、名前のあるキャラだとそれに追加して特殊能力が存在する。
あるいは、モブとして生まれても努力次第で特殊能力を得ることで、名前のあるキャラへと変貌するのかもしれない。不意にモブキャラの中から特殊能力持ちが現れませんように……。
佐々木剣蔵は、言ってしまえば前衛キャラだが、魔法職に転職することも可能だ。キャラ差があってないようなシステムで、ステータスは職業によって変化し、若干男性の方が身体能力が高いが誤差である。
特殊能力は『明鏡止水』。効果は二つあり、精神系の状態異常に掛からないことと、低確率で追加攻撃の発生。シンプルだが、攻撃回数が増えるために強い効果だ。
近接は火力に難があるが、剣蔵であれば気にならない。この辺りは、単独で立ちふさがることが多い故か。「正々堂々の真剣勝負――参る!」とか言いながら、主人公は仲間と共闘仕掛けてくるからな。特殊能力と、必殺技を持つことくらいは卑怯とは言うまい。
そんな風に自分を見つめなおすと面映ゆい気持ちとなるのは、佐々木剣蔵としての意識故か。鈴木宗右衛門の意識や、『剣心奉仕』の記憶は、夢幻のように頼りない。
俺は剣蔵だ……。誰が何と言おうと剣蔵なんだ。ヨシ!
伶花から伝え聞く、未来予知や信託、あるいは神卸とはこういう感覚なのだろうか。自身の頭の中を、居心地の悪そうに居座っているような感覚だ。
しかも伝え方がちょけてくるタイプである。精神汚染はしないはずなんだよな。されてるが?
鏡を見ながらぼんやりしていると、勝手に会話を試みてくる時なんか軽くホラーである。残留思念から派生した幽鬼が憑依している方がまだ信じられる。
剣蔵の口がパクパクと動く。
「まあ九尾の狐とか、白い内なる自分とか、誰しもが封印されたイマジナリーは持ってしかるべきじゃないのか?」
そういうものか。俺はありのままを受け入れた。これが精神異常だとして、良くないものであれば結界から弾かれるはずであり、そうでなくても修練の時間を割いてまで解決するほど、自分の強さに未だ満足していない。
剣蔵にとっては、剣の道に生きることが示されていることの方がよほど重要だった。鍛えた力で、この先に振るうべき相手がいることが何よりも嬉しい……こんなに嬉しいことはない。
ふむ、思考を避けるという点では、あの剣術を習得しても面白いかもしれないな。
このアイデアは剣術トレーニングに活かせるかもしれない。




