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第36話 : “優しくなった田辺くん”ブーム、終わらない

「田辺くん、次の小テスト……一緒に勉強しない?」


「えっ……いや、その……私は……」


 千華(秀次ボディ)は女子に囲まれ、完全に詰んでいた。


 その姿は、見慣れているはずなのに――

 今日の俺には、やけに胸に刺さる。


(……何話してんだよ。楽しそうに……)


 いや、楽しそうというより困ってるんだけど、女子には“照れてる”と誤解されている。

 その勘違いがまた女子のテンションを上げるという地獄のループ。


「田辺くんって、なんか柔らかくなったよね〜」


「前より話しやすい感じ!」


「連絡先交換してよ〜」


「ちょっ……やめなさい、近い……!」


 千華の“困ってる声”は、そのまま“照れてる声”に聞こえるらしい。


 教室の男子の何人かが羨ましそうに見ているのも余計にムカつく。


(……なんだよその目。なにを期待してんだよ……!)


 そんなものを見るたび、モヤモヤが胸の中で燃料を投げ込まれるみたいに増えていく。


 そのとき、女子の一人が田辺(千華)にそっと触れた。


「田辺くんって手、大きいよね……」


「ッ!!」


 その瞬間、脳のどこかがブチッと音を立てた。


(は!? 触んなよ!!)


 自分でも驚くほど強い怒りが一瞬で湧き上がった。


 思わず立ち上がったが、すぐ冷静になり座り直す。


(……ちょ、お、落ち着け俺……なんでこんな……)


 自分でも理解できない。

 ただ……“嫌だった”。


「ふふ、田辺くん照れてる〜?」


「ち、違うわよ!」


 千華が必死に否定しているのを見て、またムカムカがリセットされる。


(……なんで俺がこんな気分にならなきゃいけねぇんだよ)


 心の奥で繰り返しそうつぶやく。


「……やっぱり嫉妬してるじゃない」


「っ!!」


 背後から声がして振り向くと、いつの間にか千華(秀次ボディ)が近くに来ていた。


「お、おまっ……盗み見すんなよ!」


「盗み見じゃないわ。あなたの顔があまりにもわかりやすかっただけ」


「わかりやすくねぇよ!」


「わかりやすすぎて笑えるくらいよ」


 千華は腕を組んで俺をじぃっと見つめる。


「アイツらに触られてムッとしたでしょ?」


「してねぇし!」


「声裏返ってるわよ?」


「してねぇ!!」


「……ふーん。ほんとに?」


 千華は悪戯っぽく笑う。


「私、見てたわよ。あなた、立ち上がりかけた」


「なっ……!」


「“触るな”って顔してた」


「し、してねぇ!!」


 言えば言うほど墓穴が深くなる。


 千華は少し黙ってから、小さく笑って言った。


「……でも、嫌じゃなかったわよ。あなたがそんな顔してるの」


「な……っ」


「なんか……かわいかった」


「かっ……!」


 顔が熱くなる。


 千華は、わざとらしく肩をすくめた。


「別にいいのよ? あなたが否定するならそれでも。

 田辺(私)が女子と仲良くしてても、どうでもいいんでしょ?」


「……っ」


 どうでもいい――?


(……いや、どうでもよくねぇよ)


 心の中で、即座に答えが返った。


 でもそれを言葉にする勇気はない。


 俺が黙っていると、千華は少しだけ視線を落とした。


「ほら。やっぱり嫉妬じゃない」


「ち、違う!!」


「じゃあ――」


 千華はわざとゆっくり、こう言った。


「……帰り、あの子たちと行けばいいでしょ?」


(っっ……!!)


 喉が詰まり、声が出なくなる。


 嫌だ。


 それは絶対に嫌だ。


 でもその“嫌だ”がどこから来るのか、自分でも説明できない。


 千華が立ち上がって出口の方を見る。


「田辺くーん、帰ろー!」

 と別の女子が手を振った。


 千華(秀次ボディ)が返事をしようとした瞬間――


 俺はつい、声を出していた。


「待て!!」


 教室中の視線がこっちに向く。


「……え?」


 千華が振り返る。


 俺はしどろもどろになりながら言った。


「いや……その……もし行くなら……」


 一度息を飲む。


「……俺と、一緒に……」


 声が小さすぎる。


 でも千華には聞こえたらしい。


 彼女はそっぽを向き、口元を手で隠した。


「……ふん……勝手にすれば……」


 だけどその頬は、ほんのり、赤かった。

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