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第32話 : 職員室で優等生扱いされて死にかける

 五時間目の終わり、チャイムが鳴り終わるか終わらないかのタイミングで。


「黒川さん、ちょっといい?」


 先生の呼び声が俺の背中を撃ち抜いた。


(……はい来た地獄イベント)


 黒川千華の身体で過ごす以上、避けて通れない“優等生扱い”の圧。

 俺は一度深呼吸し、慎重に振り返る。


「あ、は、はい……?」


 声の高さが自然に上がる。

 千華の身体、扱いにくすぎ。


「職員室まで来てくれる?」


「……っ! は、はい!」


 断れる雰囲気じゃない。

 俺は引きずられるように職員室へ向かった。


 職員室に入った瞬間、複数の先生がこっちを見る。


 いや、見ること自体は別にいいんだが――

 問題は、千華の身体で俺が入っているという事実だ。


「黒川さん、最近ね――」


 担任の先生が柔らかい笑顔を向けてきた。


「表情がすごく良くなった。なんだか柔らかくて、前よりずっとクラスに馴染んでる感じがするよ」


「え……あ……そ、そうですか……?」


(俺だよ!! それ全部俺のせいだよ!!)


 心の中で土下座した。

 千華本人には申し訳なさすぎる。


「黒川さんは元々優秀だけど、最近は委員会でも積極的だって聞いてね」


「えっ!? い、いやその……!」


 そんな事実はない。

 だが“千華の身体の俺”が勝手に評価を上げてしまっているらしい。


 先生はニコニコして続ける。


「明日の資料整理、黒川さんにもお願いしようと思ってるんだ。頼りになるから」


「えっ……え……あ……あの……!」


(ムリムリムリムリムリ!!!)


 千華ならできる。

 千華として期待されている人物像なら完璧だ。


 でも中身俺だぞ?


 資料整理なんて任されたら、千華の優等生イメージが粉々になる未来しか見えない。


「頼りにしてるよ、黒川さん。やっぱり君は安心感があるね」


「ッ……!!??」


 胃が痛い。

 胃が死ぬ。

 鼓膜の奥にまでプレッシャーが染み込んでくる。


「は、はい……検討……しておきます……」


「検討じゃなくてお願いだよ」


「お、……お願い……ですか……」


 終わった。

 この時点で俺の精神は折れた。


 職員室を出た瞬間、廊下にしゃがみ込む。


「……無理だ……死ぬ……」


 完全に魂が抜けていた。


(千華……お前こんな世界で生きてたのか……?)


 優等生という鎧を着て、人から期待され、褒められ、頼られて――

 その全部を受け止め続ける人生。


(俺の人生とは別次元じゃねぇか……)


 胃の痛みがリアルに襲ってくる。


 そのとき。


「……何してんのよ、そこで」


 見上げると、“秀次ボディの千華”がドリンクを片手に立っていた。


「ち、千華ぁぁぁ……!!」


 俺は泣きつくようにしがみついた。


「先生に褒められた……優等生扱いされた……資料整理頼まれた……!」


「落ち着きなさい! 人前よ!! 離れなさい!!」


「ムリ!! 俺はもうダメだ!! 千華の人生ぶっ壊す未来しか見えない!!!」


「だから落ち着きなさいって言ってるでしょ!!」


 千華(秀次ボディ)は俺の頭を軽く叩いた。


「……で、結局どうしたの」


「どうしたもこうしたもねぇよ!! 優等生キャラのハードルが上がりすぎなんだよ!!」


「はぁ……仕方ないわね」


 千華は額に指を当て、ため息をついた。


「言ったでしょ。私の評判下げたら許さないって」


「ひぃ……怖ぇ……!」


「だから――」


 千華は俺の顔を覗き込む。


「黒川千華としての“キャラ維持”を、ちゃんと学びなさい」


「キャラ維持……?」


「そう。あなたが余計な言動するからこうなるのよ」


 そう言って千華はにやりと笑う。


「今から“黒川千華キャラ維持講座”よ」


(嫌な予感しかしねぇ……!!)


 でも――ほんの少しだけ。


 千華が俺の横に座ってくれるその距離が、妙に近くて。

 いたずらっぽい目が、少しだけ柔らかくて。


(……あれ? 意外と悪くないかも……)


 そんなことを思ってしまったのは、誰にも言えない秘密だった。

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