表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/40

第26話 : 千華ボディ、女子人気がなぜか爆発する

 翌朝。

 校門をくぐった瞬間、俺――“千華の身体の中身・秀次”は、この世界の理不尽さを悟った。


「ちょ、ちょっと黒川さん! 今日も可愛い〜〜っ!!」


「髪型いつもと違わない!? 似合ってる〜!」


「昨日の体育祭写真見た? 黒川さんマジ天使だったよね!」


 ……うるさい。

 いや、ありがたいんだけど……いやありがたくない。いやありがたいけど!!!

 どっちなんだ俺。


 ともかく、女子の視線が一点集中してくる破壊力がすごすぎて、背中に変な汗が流れる。


(なんでこうなるんだよ……!)


 俺は逃げるように早歩きで校舎へ向かった。

 しかし千華の足は軽くて速い。

 むしろそれが“さらに注目を集めてしまう”という地獄のループ。


「黒川さん、今日放課後空いてる? みんなで買い物行こうよ〜!」


「駅前で可愛いカフェできたんだよ! 黒川さんと行きたい〜!」


「えっ、あっ、いやその……!」


 女子が半径30cmまで寄ってくる。

 息できない。

 千華の身体は可愛すぎて、みんなのテンションが跳ね上がる。


(これ……千華本人はどうやって生きてきたんだ?)


 逃げ道を探す俺の視界に、廊下の端でこっちを見ている“秀次ボディの千華”が映った。


 眉がピクリと動く。


(あれ……怒ってる?)


 いや、千華は普段からあの顔だ。

 だけど今日のは、少し違う。

 どこかむすっとしてる。

 ……いや、めちゃくちゃむすっとしてる。


 女子たちがさらに畳みかける。


「ねぇ黒川さん、連絡先交換しよ!」


「スマホ出して! アプリは何使ってるの?」


「えっ、えっ、ちょ、ちょっと……!」


 助けて千華ーーー!!!


 心の底から願った瞬間。


「黒川、ちょっと来て」


 低くて冷静な声が後ろからした。


 振り返ると、“秀次ボディの千華”が、女子たちの輪にズカズカ入ってきた。


「え、田辺くん?」


「なに? 黒川さんと知り合い?」


 女子たちが一斉にざわつく。


 千華(秀次ボディ)は眉をひそめ、短く言い放った。


「黒川は今日、委員会。行くわよ」


「えっ? あ、ちょっと!? 委員会って……!」


「ほら」


 千華は俺の手首を掴み、強引に女子たちの輪から引っこ抜く。


「うそ、田辺くんって黒川さんとそんな仲良かったの?」


「てか急にイケメンじゃない!? 田辺くん」


 背後で女子たちのざわめきが聞こえる。


 千華の手はなぜか少し強くて、温かかった。


 階段を降りきったところで、ようやく手を離される。


「っ……助かったぁぁぁ……!!」


 俺はへたり込みそうになりながら息をついた。


「まったく……あなたはすぐ囲まれるんだから」


「いや、俺のせいじゃないだろ! この身体のせいだろ!」


「……まぁ、そうね」


 千華(秀次ボディ)はそっけなく答えたが、目だけはそらしている。


「でも……」


「?」


「……あれはちょっと、見ててイラッとしただけよ」


 イラッ?


 本気で意外すぎる言葉だった。


「イラッとって……女子が寄ってたから?」


「そ、そうよ! なんか……調子に乗ってるみたいで!」


「の、乗ってない! 死ぬほど辛かったわ!」


「……ならいいけど」


 そこで千華はふっとそっぽを向く。


(え、なにその反応)


 どこか、言葉の裏に違う意味がある気がする。

 でもそれが何かはわからない。


「と、とにかく! さっさと教室行きましょ!」


「あ、ああ……」


 歩き始めた千華の背中を見ながら、俺は首をかしげる。


(なんで……女子が寄ってきたくらいで、千華がイラつくんだ?)


 胸の奥にひっかかる疑問。

 でも答えはまだ出ない。


 そして教室に入った瞬間――


「田辺、お前なんか最近雰囲気よくね?」


「前よりかっこよくなった気がする」


「お前、今日テンション高いのか?」


 今度は“秀次ボディの千華”に、男子たちが妙に好意的な視線を向けはじめた。


 千華(秀次ボディ)は困惑しているが……


(な、なんだよ……その空気……)


 俺の胸が妙にムズムズする。


 女子に囲まれた千華ボディに嫉妬する千華。

 男子に褒められる千華(秀次ボディ)にモヤる俺。


 互いに気づいていないけれど――


 これが“嫉妬”という感情の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ