第23話 : 放課後の体育祭反省会で“距離感バグ”発生
放課後の教室には、体育祭の名残りみたいな熱気がまだ少しだけ残っていた。
みんなでワイワイ騒いでいたあの一日は終わったのに、机の上にはまだ赤いハチマキが置かれたままだ。
「はぁ……提出課題って、なんで写真整理なの……」
千華――いや、今は“千華の身体に入ってる俺”、秀次は、机に突っ伏しながら溜息をついた。
そしてスマホの画面に並ぶ写真をスクロールして、さらに悶絶する。
「うっ……これ、誰だよ……マジで美少女すぎるだろ……!」
自分で言ってて虚しくなった。
でも事実なんだから仕方ない。
画面に映るのは、風に揺れる黒髪、スラッと伸びた手脚、汗で少し光る頬――**どう見ても“美少女すぎる黒川千華”**だ。
中身が俺だと知ってるのは千華本人と、神様(?)だけだ。
「ふふ、いいじゃない。私の身体をそこまで絶賛されると悪い気はしないわね」
隣で腕を組む“秀次の身体の千華”が、得意げ……でもどこか複雑な表情でスマホを覗き込む。
「というか……これ、SNSでめちゃくちゃ騒がれてるのよ?」
「えっ?」
「“黒川千華、体育祭で優勝級に可愛い”って。トレンド入りしてたわよ」
「え、トレンド……? 待って、それってつまり……」
「あなたの変顔も世界に公開されてるわね」
「いやそれはやめてぇ!!」
千華(秀次ボディ)はくすっと笑って、俺の後頭部を軽く叩く。
「でもね。複雑なんだけど……嬉しいのよ、これ」
「嬉しい?」
「だって……私の身体が、こんなふうに誰かの目に“素敵”って映るなんて、今まで思ったことなかったから」
ふと、千華の横顔が少し寂しげに見えた。
本当に――彼女のこういうところ、いつも胸を締め付けてくる。
「……千華の身体、元から可愛いだろ」
「っ……!」
しまった。言った瞬間、自分で赤面する。
千華(秀次ボディ)の耳まで赤くなる。
「な、なによ……急に直球じゃない……」
「いや、違っ……その……事実だろ……?」
「……ありがと。変な感じだけど」
そんな微妙に甘い空気の中、俺たちは体育館へ提出物を出しに向かうことになった。
廊下を歩いていると、千華が俺の髪をじっと見てくる。
「……ちょっと、動かないで」
「え?」
彼女はそっと手を伸ばし、俺の髪を指先で整えた。
その手つきがあまりにも優しくて、心臓がバクンと跳ねる。
「前髪、乱れてる。千華の身体、私がちゃんと綺麗にしてあげないと」
「あ、あぁ……」
近い。距離近い。
女の子の手が髪に触れるだけで、こんなに息止まりそうになるのか。
「……ほら、これで」
「…………」
「ど、どうしたの。そんな固まって」
「いや……千華が……その……」
言葉が出ない。
千華も、自分の言動の“恋人っぽさ”に気づいたのか、ぱっと手を離し、真っ赤になる。
「ち、違っ……これはその……っ! 身だしなみよ、身だしなみ!」
「お、おう……」
どっちも顔真っ赤。
距離がおかしい。
完全に“高校生カップルの空気”が流れている。
なのに――中身は逆なんだから余計にややこしい。
そんな俺たちを、廊下の端からじっと見つめる影があった。
影山だ。
腕を組み、何かを考えるような目でこちらを見ていた。
いつもの不機嫌な顔とも違う、底の見えない視線。
「……なんだよ、あれ」
千華(秀次ボディ)が眉をひそめる。
「さぁ。でも……ちょっと嫌な感じ」
影山は俺たちから視線を逸らし、無言で歩き去っていった。
胸に小さなざわめきが残る。
――あいつ、何か考えてる。
そう感じたのは、たぶん俺だけじゃない。




