第21話 : 口調逆流”事件①:千華ボディの秀次に男の魂が滲み出る
朝の HR 前。
教室のざわめきが、どこか柔らかく耳に入ってくる。
昨日の傘帰りの余韻がまだ抜けず、千華ボディの秀次は、気持ちがふわついていた。
(やべぇ……まだ変なスイッチ入ってる……
女子の身体って、油断するとこう……気持ちのガード甘くなるのか?)
そんなとき――
「千華〜! おはよ!」
千華の友達トリオ(ギャル・委員長・お嬢様)が近づいてくる。
「あ、おう……よっす」
「よっ……す???」
空気が一瞬で止まった。
「今、男だったよね?」
「千華って“よっす”言うタイプじゃないよね?」
「千華さん……寝起きの軽音部男子みたいでしたわ……?」
(はい終了したーーーーッ!!)
秀次は慌てて営業スマイル。
「ちょ、ちょっと寝不足で〜♡」
「寝不足で“よっす”は出ない!!」
「完全に別人格だった!!」
(言われた!! もう誤魔化せてない!!)
秀次は逃げるように廊下へ退避した。
更衣室裏でジャージに着替えた瞬間。
ぽろっと本音が漏れた。
「……だりぃ……」
その一言で周囲の空気がまた固まった。
「千華ちゃん、“だりぃ”って言った!?」
「黒川さん……そんなヤンキー語使う?」
「ギャップ萌えというより、ただ違和感……」
男子組までざわつき始める。
「千華ってさ……こんな感じだった?」
「いや田辺寄りじゃね?」
(田辺寄りって……俺だよその田辺だよ!!!
セルフ自己紹介かよ!!!)
心の中で転げまわりながら、表情だけはにっこり。
「な、なんか最近……眠くて……ふふっ♡」
「その笑顔逆に怖いんだけど!!」
(今日二度目の“怖い”いただきました!!)
教室の隅。
自分の身体(千華)が男口調を撒き散らす光景を見て――
「……無理……ほんと無理……」
千華(中身秀次)は机に突っ伏しそうになっていた。
(“だりぃ”? “よっす”?
私の身体でそんなワードが出るなんて……
もう乗っ取られたとしか思えないんだけど……!?)
「秀次……アンタ、ほんとデリカシーない……」
ぐったりと言いながら、
自分の身体を斜め下から恨めしそうに見つめる。
(このまま“男っぽい千華”として定着したら……
私もう学校来られない……)
境内の夕風は冷たいのに、どこか安心した匂いがある。
「……あんたさ」
「なんだよ」
「女子としての意識、もうちょっと持ってよ!!」
「無理だっつってんだろ!!
俺、十七年間男子やってきてんだぞ!?
急に女子の喋り方とか、ファイル形式違うんだよ!!」
「昨日あんなに優しかったのに!
なんで今日は“よっす”なのよ!!」
「知らねぇよ!! 長年の癖が勝手に出んだよ!!」
「魂の管理甘すぎ!!」
二人の言い合いは、本気なんだけどどこか笑える。
昨日までの影山の影を忘れそうになるほど、ほんの少しだけ空気が軽かった。
言い争いのあと、二人はどっと疲れたように息をついた。
「……まあ、その……努力はするけどよ……」
「ほんとに? 信じていい?」
「お、おう……いや、“うん”。……なるべく」
秀次が言い直すと、
千華はふっと笑った。
「……ありがと」
夕日が差し込んで、
その笑顔が思った以上に柔らかく見えた。
(やべ……また胸が変だ……
なんか今日、反省しに来たんだよな……?
なんで嬉しくなってんだ俺)
秀次は視線を逸らし、
千華もまた、そっと目をそらす。
距離は変わっていないはずなのに、
不思議と近い――そんな空気が漂っていた。




