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【短編】ツンデレ男子と小悪魔女子のあまあま疑似恋愛旅!

作者: David

 ──こやつさえ居なければ、我の旅はどれほど自由で楽しく満喫できていたことか。

 我はふと、そんなことを考えていた。


 我の名前はエターナル・ブラック。ある者からは厨二病染みた名前だと言われたが、それに関しては仕方がないと言わざるを得ないだろう。


 と言うよりも我は今、最悪な状況に陥っている。


「よしよし〜」


 ……こやつの名前はエターナル・ホワイト。髪と瞳、リボン、さらにはジャケットやブーツに至るまで、そこら中が白で埋め尽くされた少女だ。

 こやつを少女と呼んでいいのかは、定かではないがな。


 その少女に頭を撫でられている。これこそ、最悪な状況。

 くっ……実に屈辱的である。なぜよりによって、こやつごときに我が撫でられねばならぬのだ。


「んっ……やめ……」


 意に反して声が漏れてしまう。なぜだ……?!


「なんでー?」


「我に、気安く……触れるな……ッ!」


 我は最強の旅人。こんなもの、我のプライドが許さぬのである。

 にしても、こやつは撫でるのが上手(うま)すぎるッ。

 そのせいか、我は拒絶の言葉を絞り出すが、彼女の指先が我を撫でるたびに脳の奥にふわ、と甘いものが落ちる。


「ふふ。ブラック〜、顔真っ赤にしちゃってどうしたの?」


 分かってやっているな、この小悪魔が!

 今の状況を理解しているのか。ベッドの上で女の子座りをしている男が、同い年の女に撫でられているのだぞ?!

 屈辱で顔が染まるに決まっているだろうが。


 それと、そのニヤニヤ顔をやめろ。そう思ったが、撫でられたことによる快感──オホン。なわけない。冗談、嘘、フリだ。……屈辱で声が出なかった。


 なぜ、このような最悪の状況に陥ったのか。少し時は遡る。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


「ねぇねぇ、ブラック。次はどこへ行く?」


 ホワイトが前に出て、実に楽しそうに言った。愉快なやつだ。

 にしても、本当に白で埋め尽くされている。ホワイトは名の通り、白が好きなのだ。


 かく言う我も、黒が好きなゆえ、黒を基調とした服装だが。ある意味では、似た者同士であろう。

 我はホワイトに答えてやる。


「……今の時刻を知っているのか」


「え?十二時半」


「我は空腹なのだが、貴様は大丈夫なのか?」


「うーん。確かに、お腹空いたかも!」


 ホワイトは明るく返す。側から見れば、ただの元気な娘だ。

 しかし、こやつはいつも我をからかい、いじめてくる。我は異世界を旅する旅人であり、戦闘・知能ともに最強を自負している。


 なのだが、我の唯一の弱点──いや、違う。断じて違う。弱点ではなく、少々苦手なのがホワイト、こやつである。


 先ほど言った通り、こやつは我をいつもからかう。はぁ。だからこそ、嫌なのだ。

 名字も、誕生日も一緒。だが、恋人なんかではない。ましてや家族、友達でもない。だからこそ、この関係は歪̀ん̀で̀い̀る̀。


 我はそう思う。こやつのことをなんて思っているのか。そう問われたら、我は一体、何と答えるのが正解なのだろう。


 まぁ、いい。


「なら、近くにホテルがあったはずだ。そこで部屋を取り、食事と寝床を確保しよう」


「分かった〜」


「こっちだ」


 今はまだ大人しいため、側から見れば可愛らしい少女にすぎないのであろう。さまざまな世界を旅してきて、散々、可愛いと言われてきたホワイト。


 全くもって分からん。一体、どこが可愛らしいと言うのか。我にとっては旅の邪魔にしか思えぬ。

 事あるごとに、我にイタズラをするのだ。可愛さの欠片もない。鬱陶しいだけである。


 確かに、こやつの容姿は整っている。逆に言えば、整っているだけだ。皆がこの真の性格を知らないだけで、知ったら興醒めするに違いない。


 そんなことを思いながら、我はホワイトを連れていく。

 大通りに出ると、少し先に巨大な建物があった。あれが、例のホテルである。予約はしてあるのか、だと?当たり前であろう。我を誰だと思っているのだ。

 我は最強の旅人。準備も完璧だ。ホワイトがどうせ何も考えずに旅をすると思って、予約を取っておいた。フン。さすがは我。


「あれ?」


 ホワイトが指差して、ホテルを見上げる。


「そうだ。貴様は何も考えずに、旅をするなどと阿保(あほう)なことを言うから我が予約を取っておいた。感謝しろ」


「むぅ。失礼だなぁ。僕は君が居たのと、君̀の̀旅だから任せたんだよ?でも、ふふ。ありがとう、ブラック」


「……フン。邪魔者が。感謝の意が足りぬ」


「あはは!照れてる」


「は?照れておらぬわ!!」


 勘違いも甚だしい。すぐにそうやって、嘘をつくのだ。我が貴様ごときに感謝されて、照れるわけがないだろう!

 そう、するわけがないのだ。だというのに、なぜこやつはニヤニヤ笑っている。思わず、視線を逸らしてしまった。


「ふふっ。お腹空いたし、早く行こ!」


 そう言うや否や、ホワイトは躊躇なく我の手を掴んで駆け出してゆく。


「──ふざけるなッ!……おい!」


 この我の手を当然のように掴むとは!しかも、指まで絡めているッ?!


 ──ドクン、ドクン。


 ッチ。ドクンじゃないッ。不快なほどに、鼓動がうるさい。理由は分からない。だが、そんな音が我から出るとは到底思えぬ。

 ……きっと、勘違いだ。我は疲れているのだな。そうに決まっている。


 まるで自己暗示をかけるのが如く、そう心で呟く。

 そのまま我はホワイトに手を引っ張られながら、ホテルに向かっていった。全く、少しは落ち着け。はしゃぐ必要はないというのに。

 子どもか?本当に身勝手だな。……それにしても、身体が熱い。こやつに手を握られているからに違いない。


 今すぐ手を離せと言いたいが、この状況じゃ言えん。まさか、これを狙っていたのか?(こす)いやつめ。

 周りを見てみろ。我たちに注目しているではないか!


「着いたね!」


 こやつが羨ましく思えてきた。この我の苦労も知らず、呑気に楽しそうにしやがって。


 ホテルの玄関前に到着した瞬間、我はホワイトに向かって叫んだ。


「いい加減にしろ!!」


「どうして?急がないと、ご飯なくなっちゃうかもよ?」


「そんなわけないだろうッ!ホテルに限らず、ビュッフェは料理がなくなったらまた追加するんだ」


「うーん。確かにそうだけど、食材には限りがあるでしょ?ブラックが好きなスイーツがなくなっちゃうかもよ?」


「ッ。……まぁ、貴様がどうしても急いで食べたいのなら、仕方ない。我はどうでもいいが、急いで行くぞ。さっきのは、この我の優しさに免じて許してやろう」


 別に、我は特段スイーツが好きだとかそういうわけではない。が、口直しとして食後には食べる。必ず、欠かさずにな。

 もう一度言うが、好きではないぞ。


 我が言うと、何を思ったのか、ホワイトは笑い出した。


「ふふ。ブラックは本当に甘党だねぇ〜」


「はぁ?」


 何をどう勘違いしたらそうなるんだ。我がスイーツを食べたいがゆえに、貴様のことを許したとでも思ったのか。

 その勘違い癖のせいで、我は今まで勝手な偏見を抱かれてきた。ツンデレだの、甘党だの、あまつさえ──ホワイトのことがす…………とにかく、酷く我は苦労してきたのだ。

 今こうして、こやつに甘党と呼ばれているように。


 というよりも、さっさと手を離せ!


「我は別に甘党ではない。それより、さっさと手を離せッ」


「ブラック、僕のこと嫌いになったの……?そんなに、手を繋がれるの嫌だったんだ。ごめんね……グスッ」


 は、はぁ?!いやいやいや、なぜ急に泣き出しそうになる?!我が悪いのか……?


「別にそんなつもりは……」


「じゃあ、僕のこと好きってこと?本当は手を繋がれて嬉しいんだ」


 ──こやつッッ!!!


「な……っ」


「へへっ。そうかーそうかー。ブラックは僕のことが好きなのかぁ」


「ぐぬぬッ……!なわけないだろッ!!!」


 我が怒りのこもった睨みをホワイトの瞳に突き刺してやると、イタズラっぽく笑い、「てへっ」と言った。

 舐めているな、こやつ。我がいつまでも大人しくやられていると思ったら大間違いだぞ。今に見ていろ。きっと後悔するからな。


「ブラック、そろそろ入ろうよ」


「貴様のせいで、遅れているんだ!」


「ほらほらー、早くー」


 だから、手を離せって!

 こやつ、耳が腐っているんじゃないのか?耳はアクセサリーじゃないぞ。二日置いたチーズよりも酷い。いや、もはやチーズに謝ってほしい。


「はぁ……」


 いまだに身体が熱い。今は春だぞ?異常気象か?まぁ、いい。ホテルに入ったら、空調が効いている。少しは涼めるだろう。

 我はホワイトにまたもや引っ張られながら、魔法自動ドアをくぐり、受付へと向かった。

 カウンターの内側に立つ受付の者に声をかける。


「いらっしゃいませ。ご宿泊のご予約でございますか?」


「いや、予約はしてある」


「失礼いたしました。ご予約のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「ブラックだ。エターナル・ブラック」


 名を告げると、受付は手元のリストに目を落とした。どうやら名前を見つけたらしい。ペンでスラッシュを引き、こちらに顔を上げて言う。


「確認が取れました。お部屋は015号室です」


「感謝しよう」


 鍵を受け取り、部屋に行こうとしたそのとき、再び受付から声をかけられ、思わぬことを聞かれる。


「申し訳ございません。ご説明が漏れておりました。当方の手違いにより2部屋ご用意しておりましたが、すでに1部屋にさせていただいております。どうぞ、ごゆっくりお(くつろ)ぎくださいませ」


「は、は??」


 いや、何を言っているのだ?2部屋で合っているぞ?!


「いや、あのな。2部屋で問題ないぞ?」


「え……。あの、恐れ入りますが、恋人同士(カップル)ですよね……?」


 ん???え?は?

 というか、こやつ。急に素を出してきやがったな。


「当ホテルは、恋人さん(カップル)は1部屋でのご予約が原則でして。お2人様は付き合っておられるのですよね?」


「違うわ!」


「ですが、お手をずっと……」


「うっ……これは違くてな」


 ほら見ろ。言った通り、ホワイトのせいで、我はいつも勘違いされる。

 全くもって図々しい。本当に離せ。ホワイトは満足げに満面の笑みを浮かべていた。一回、滅ぼしてやりたい……っ。


「いえ、違わないです。015号室ですね。分かりました〜」


「頑張ってください!応援してますよ!」


 ボソッと何を言っている。


「ありがとうございます!」


 ホワイトは受付に手を振り、部屋へと向かっていく。我は、繋いでいる手を振り払った。その瞬間に、ホワイトは不機嫌そうな顔をする。


「ねぇーぇー」


「フン。我に気安く触れるなど、本来なら万死に値するのだ。長時間触れれたことに感謝するのだな」


「……一緒にお風呂入るの強制ね」


 ぷい、とそっぽを向いて力強く、まるで確定事項かのように彼女は言った。絶対的な意志の硬さを感じる。

 ……まずいことになった。ホワイトがそれをやると決めたら、絶対にやってしまうのだ。つまり、今回の場合は我と一緒に風呂に入ろうとしている。

 絶対に嫌である。こやつと風呂に入るなら、死んだ方がマシだッ。


「絶対に嫌だッ!」


「……」


 こやつ、無視だと?!まさか、何を言っても聞く気はないのか?!終わった……

 ホワイトがこの状況であれば、温泉には入らせてもらえず、自室の風呂に入れと言うだろう。

 しかし、その風呂に入ってしまえば、ホワイトが入ってくる。詰みだ。


 なら、1日ぐらい風呂に入らなければいい、だと?ふざけるな。体や髪の毛の汚れや皮脂が蓄積して、不快な臭いやかゆみ、肌荒れの原因になる可能性がある。

 それに、頭皮の毛穴詰まりやフケ、薄毛のリスクも高まるのだ。


 我は自身が中性的な顔立ちをしているのを自覚している。少々コンプレックスなのだが、どんな容姿であれ、美容に気を使うのは実に大切である。


 とにかく、何としても風呂に入りたい。無論、ホワイトとは別にな。


「分かった!我が貴様の言うことを聞いてやる。その代わりに、風呂に一緒に入るのはやめてくれ」


「じゃあ──」


「女装もダメだ」


「むぅ」


 やはりか。こやつの言いたいことは全部分かる。分かりたくなくてもな!

 にしても、言ってはいけないことを口ずさんだ気がするな……。条件付きとはいえ、ホワイトの言うことを聞くなど、恐ろしいこの上ないであろう。


 まぁ、風呂に一緒に入るよりかはマシなはずだ。きっとな。


「それ以外ならいいんだね?」


「持続系なら、1日いや、半日だけだぞ?」


「んー、しょうがないなぁ。それで我慢してあげる」


「なぜ、上から目線なんだ……」


 我の言葉に答えず、歩るいていく。

 やがて、015という数字の付いた扉が見えた。中に入ると、広く白を基調とした豪華なデザインが広がっていた。

 うむ。実に()いな。我は黒が最も好きな色であるが、白は2番目に好きだ。

 無論、ホワイトのことではないぞ。ホワイトのファッション力や服装、意識の高さはまぁ、別に嫌いではない。


 だからと言って、ホワイトに好感を持つことは絶対にないがな。性格が壊滅的だ。我とは相容れない。


 はぁ。疲れた。今日やったことと言えば、ホワイトと共に観光地を巡った程度か。

 あとはからかわれること。本当に癪に障るやつだ。


「さっそく、食べに行こー」


「……そうだな」


 そう答えて、食事をするためにダイニングへ向かった。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 ダイニングに到着すると同時に、ホワイトは目を輝かせていた。

 確かに、この広さと料理の多さには驚かせられることもない──こともない。

 最も驚いたのは、スイーツの多さだ。ざっと50種類はある。別に好きというわけではないが、素晴らしい。賞賛に値するぞ。


「ニコニコして、どうしたの?」


「べ、別に笑ってなどおらぬ」


「ふっ。可愛い」


「うるっさい!!」


 可愛いだと?我は最強の旅人であるぞ。それを言うなら、カッコいいだろうが。我のこのカッコ良さに気がつかぬとは、貴様の目は節穴か?


「ほら、食べようよ」


「……分かっている」


 気怠(だる)いな。こやつと居ると、本当に疲れる。


 我たちは、それぞれ好きな料理を取って、空いている席に座った。

 何やら、ホワイトが驚き呆れた表情でこちらを見ている。何だ?


「ブラック……スイーツ多くない?カルボナーラとスイーツしかないよ?」


「気のせいだ。別に普通だぞ」


「それに、スイーツもガトーショコラばっかだし……」


「口直しにすぎん。本命はカルボナーラである」


 当たり前のことを言わせるな。スイーツはあくまでデザートである。真に楽しむべきものは、カルボナーラであろう?

 パスタは全般好きだが、カルボナーラは別格だ。ここまで美味い食べ物など、どこを探してもあるまい。

 まぁ、我の料理には劣るがな。


「甘党って、そんな恥ずかしいことなの?スイーツ好きって別に変じゃないし、むしろ可愛くない?」


 そのイメージが嫌いなのだ。我は甘党というわけではないが、そのイメージのせいで、余計に食べずらい。

 口直しのために食べるのも、必死である。


「その可愛いって言うのやめろ。仮に、我に何らかのイメージを付けたいなら、カッコいいにしろ。我は最強の旅人であるぞ」


「もう。それが可愛いんだよ〜?」


「……話にならん」


「素直じゃないなぁ。さっきの提案で、言うことを聞くって言ったけど、素直になれって言ったら、正直に話してくれるのかな?」


 な、ななな何を言っているんだ。我は我の思ったことを素直に言っているだろう?!

 瞳を輝かせて言うなよ!思わず、むせてしまったではないか。


「そんな焦ることないじゃん」


 ホワイトはニヤニヤしながら呟く。うざいな、こやつ。


「焦っておらぬわ!ちょっと、詰まってな……」


「ま、いいや。僕のお願いはもう決まってるしね〜」


「……一応、聞いてもいいか?」


「えぇー」


 くすりと笑って、少し考える仕草をしたあと、人差し指を唇に当てて言う。


「ひ・み・つ」


 ──ドキ、ドキ。


 違う!違う違う違う!!クソ、鼓動がうるさい。

 ッチ。何が「ひ・み・つ」だ。


 思わず舌打ちを心の中で鳴らし、視線を逸らす。だが、なぜか耳の奥が熱い。

 不覚にも可愛いなどと思ってしまいそうになった自分に嫌悪した。


 いや、違う!思ってない。そんなこと、思うわけないだろ?!


「あ、ドキってしたぁー。ふふふ。分かりやすいな〜、ブラックは〜」


「し、してないわ!!!勝手に決めつけるなッ!」


 声が震えてしまう。

 ──我は最強の旅人、我は最強の旅人ッ。落ち着け……落ち着くんだ、我。


 まずは、ガトーショコラをゆっくり食べよう。そうだ、糖分を摂取すれば落ち着くはずだ。

 我は、なぜだか震えてしまう手を無理矢理動かして、フォークを手に取った。が、それ以上動かすことはできなかった。

 思うように動かん。これでは、食えないじゃないか。


 そう思っていると、ホワイトがまたもや口を開く。もう、やめてくれ……


「どうしたの?手が震えてるけど。1人で食べれないなら、あ〜んしてあげよっか?」


「ケホッケホッ……は?」


 ガトーショコラを食べるのを諦めて、ホワイトの言葉を聞く前に、急いで気合いで紅茶を飲んだ。

 こぼしそうになりながらも、やっとの思いで飲めたのだが、再度、むせてしまう。

 せっかく、これで落ち着けると思ったというのに。


 はぁー。紅茶をこぼしてしまった。我のお気に入りの服が…………

 怒りのまま、我はホワイトに言う。


「子どもでもあるまいし、するわけないだろう!!」


「そっかー、残念。ていうか、服大丈夫?」


「貴様のせいで、汚れたのだ」


「僕があ〜んって言ったから?」


「ッ……」


 否定できぬのが悔しい。今すぐ否定してやりたいのに。


「すぐに洗った方がいいね。部屋に戻ろっか」


「……そうだな」


 それは肯定しよう。ホワイトのくせに、まともなことを言う。

 口̀直̀し̀の̀ガトーショコラを食べれないのは残念であるが、仕方ない。


 我たちは後処理をして、自室に戻った。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 015号室にて。

 我は部屋に戻ったあと、すぐに風呂に入った。服が肌にまとわり付く気持ち悪さから解放され、実に心地いい。

 もはや、ずっとこのままでいたいと思うほどである。


 30分経ったな。そろそろのぼせてしまう。上がるか。

 風呂場を出て、洗面所でスキンケアをする。終わると、持ってきた服に着替えて扉を開ける。すると、ホワイトが立っていた。


「な、何だ?」


「ふふふっ。僕の言うことを聞いてもらう時間」


「あ、ああ。……約束は約束だしな」


 ホワイトも無理矢理、風呂に入ってこなかったわけだし、ここはきちんと約束を守るのが道理だ。

 最強の旅人は、約束もしっかり守るのである。


 ……まぁ、嫌な予感しかしないがな。


「それで、我に求めるものは?」


「ベッドの上で、女の子座りしてよ」


「なっ、そんな恥ずかしいポーズをしろと?」


「何でも聞くんでしょ?」


 うっ。何とも言えん。確かにそうである。1日中、手を繋ぐだったり、恋人ごっこさせられるよりかはマシか。少なくとも、それらよりは穏便なはずである。

 ……穏便なはず。そうであってくれ。


「はぁ、分かった」


 仕方ない。ここは大人しく聞くとしよう。我はスリッパを脱ぎ、ベッドに向かった。そして、ホワイトが言うように「女の子座り」で、ベッドの上に座る。

 早く終わってくれ。恥ずかしすぎるッ。


「よーし、じっとしててね」


 ホワイトがそう言うと、彼女も我の背後に座って、我の頭に手を伸ばす。何をする気なんだ?


 ──ここで、今に至るわけだ。まさか、撫でられるとは思わなかった……!

 は?少しどころではなく、結構遡っていただと?知るか。今はそれどころではないのだ!!

 いつまでやるッ。もう満足だろう?!そう言いたいのに、言葉を上手く紡げない。


「あ、う……」


「ふふん」


 ダメだ。まずい。感覚がおかしくなってきた。その証拠に、普段なら絶対にあり得ないが、我の口からわずかによだれが垂れている。うぅ……殺してくれ……


 背後でホワイトの笑い声が聞こえる。そして、段々と耳の横まで近づいてきた。何もできない。抵抗も、拒絶の言葉もッ。


「耳、甘噛みしてあげよっか?」


 吐息が混じった声のせいか、小さな息の風が我の肩にかかる。それがくすぐったくて、思わず身体が震えてしまったのである。

 やめろ、やめろやめろやめろぉッ!!!

 その心の声が外に出ることはなかった。彼女の口が、ゆっくりと、我の耳を噛もうとしてさらに近づく。


「あー──」


 「あーむっ」と言って、噛まれそうになった刹那、我でもホワイトでもない、3̀人̀目̀の声が響いた。


「ブラック様、ご報告に…………大変申し訳ございませんでした。お取り込み中だとは知らず、失礼しました。では」


 あ、アテルッ!!!

 良かった。これで助かった──って、は?いや、おい。帰るなってッ!!


「次は、扉から入ってね!ちゃんとノックするんだよぉ?」


「はい、申し訳ございません──とはなりませんよ、ホワイト様。本当に、このまま素直に帰るとお思いでしたか?どう見たってブラック様、嫌がってますよね」


 さすがだ、アテル!我のことを良く分かっている。頼れるのはお前だけだ。本当に。後で、褒美をやろう。


 突如として現れたこやつの名は、アテルと言う。簡潔に言えば、我の部下である。我は最強の旅人として世界間各地を旅しているが、どうも心配なやつや、我から離れたくないと泣きじゃくる者も居てな。

 そういうやつのために、〝ノクス〟という組織を作ってやった。その組織で、我が団長として君臨し、アテルに副団長の地位を与えてたのだ。

 こやつぐらいであろう。我の苦労を真に知る者は。


「嫌がってないって。めちゃくちゃ嬉しそうじゃん〜」


 そんなわけないだろうが。というか、アテルの目の前で続けるなよッ!


「ブラック様は今、こう思ってますよ。『アテルの目の前で撫でられて、しかもよだれも垂れている。恥ずかしすぎて、死にたい……こっちを見るな……』って」


 解像度高すぎるだろう?!もはや、エスパーだなこやつ。しかし、否定はできぬ……。ホワイトも一向にやめてくれぬしな。ふざけるな、と言いたい。

 そう思っていると、アテルは言葉を続けた。


「ホワイト様。ふざけている場合ではないんです。───〝世変者(よへんしゃ)〟が生まれました」


「別にふざけてないよっ!…………って、世変者?!本当なの?!」


 ホワイトは非常に驚いて、我の頭を撫でる手を止めた。やっと、終わった……

 というより、世変者だと?ついにこの時が来たか!どれほど待ち望んでいたことか。

 ん?世変者とは何か、だと?それはまた別の時が来たら、伝えよう。


 とにかくだ。世変者が生まれたとなると、ここを早く離れなければならない。旅も、次のステージへと移るわけである。

 この世界も、中々に良かったがな。


「はい。それで、ブラック様にご報告をしようと。例̀の̀計̀画̀を̀実̀行̀す̀べ̀き̀、と愚考いたしました」


「……はぁ……はぁ。感謝しよう、アテル。本当に良くやった。貴様が報告に来なかったら、我はどうなっていたことか」


「気持ち良さそうでしたよ」


「はッ??!」


「ご冗談ですよ。あまりにも可愛らしいお顔をされていましたので、つい。おっと、これもご冗談です」


 前言撤回をしよう。こやつも悪魔だ。


「とにかく、世変者が生まれたのだな?それなら、一刻も早くここを離れねば」


「そうですね。それがよろしいかと。ホワイト様も、異論はありませんか?」


「うーん。惜しい気もするけど、そうだね。そろそろ行かなくちゃ」


「では、ご準備ができましたら、世界樹の元へ。10分後にお迎えに参ります」


「「分かった/分かったよ」」


 我とホワイトが頷いて答えると、アテルは刹那に姿を消した。空間移動と呼ばれるものであるが、瞬間移動の方が聞き馴染みがあるのであろうな。この世界に限らず、多くの世界では珍しい力なのだろう。

 まぁ、それよりも早く支度を済まさねば。我が降りようと身体を横に向けると、ホワイトと目が合ってしまう。彼女はニッコリと笑った。何だ、この気まずさは……


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 我たちは支度を済ませ、アテルより先に世界樹にやってきた。我たちも、空間移動を使えるのである。

 準備が終わったあと、ここに空間移動してきたのだ。最後に、ホワイトと話すために。


 理由は──さて、なぜだろうな。


「ホワイト。世変者が生まれたということは、我らは〝地球〟に、いや、〝クロノフィア〟に向かわなければならない」


「そうだね」


 彼女は世界樹の下から、天を見上げた。晴天だ。美しく、天国のような雲が漂っている。……そよ風が、我たちの髪の毛を(なび)かせた。


「いちいち言わずとも、分かっているであろう?我たちはあの計画を実行せねばならぬ。すなわち──」


「僕たちは別々で行動する。そう言いたいだね?」


「……ああ」


 そうでなければ、達成は不可能だろう。つまり、ホワイトとは離れてしまう。別に嫌だとか、寂しいだとかいう感情はない。

 だが、何なのだろうか。この心のもやもやは。


「また会う日が来る。そう遠くない日だ」


「寂しい?」


「そういうのではない!ただ、これまで忌々しいほどに一緒に旅をしてきた。何年、何十年と。それが突然と終わる。……まぁ、何だ。釈然(しゃくぜん)としなくてな」


「そっか。でも、僕たちはいつも一緒だよ。離れていても、ね?この意味分かるでしょ?」


「ああ」


 我は目をつむる。風が草と木の葉を揺らす音が聞こえた。

 ホワイトのやつめ。何が、離れていても一緒だ。心で繋がっているとでも言うつもりか?全く、幼稚なことを言う。


「あ、ブラック、笑ってる〜!」


「は、はッ?!別に笑ってなどおらぬわ!」


 何を言っているんだ。


「あははっ」


「フン」


「……こんな会話も、しばらくはお預けかぁ」


「そうだな。だが、さっきも言ったように、また会える」


「うん。また会おうね。そのときは、抱きしめてあげるからさ!」


 やめろって。


「必要ない!……そろそろ、アテルが迎えに来る」


「時間だね」


 それを合図にしたかのように、目の前にアテルが立っていた。世界樹を待ち合わせの場所にして正解であったな。周りに人が居たら、驚かれる。


 アテルが口を開いた。


「お早いですね」


「知っているだろうに」


「すみません。では、行きましょうか」


「ああ」


 首を縦に振り、我は世界樹にもたれていた背を起こす。そして、アテルの方へ歩み出した途端、ホワイトが声をかけてきた。


「僕、ブラックのこと大好きだよ!!」


「はぁぁ???!!」


 なな、何を言っているんだ……?!


「はいはい。ブラック様、ホワイト様。行きますよー」


「うん!」


「おい!」


 先ほどの静けさが嘘のように消え去り、一気に騒がしくなった。我とホワイトが言い合っている中、アテルは少し面倒くさそうに呼びかける。

 だが、良く見ると口角が少し上がっている。滑稽だとでも思っているのかッ?あとで注意せねば……




 やがて、世界樹周辺から聞こえてくる騒がしさは、消えていたのであった。

 我たち3人が空間移動をして、旅立ったのだ。己だけ残されたかのような表情を、世界樹はしている。風は止むことなく、木の葉と草を揺らす。


 我たちのこ̀の̀世̀界̀での旅は終わった。しかし、これからも続いていくのだ。名字も、誕生日も一緒。だが、恋人なんかではない。ましてや家族、友達でもない。

 そんな少女との旅。歪で実に狂っている旅だ。我はこの旅が嫌いである。心底嫌いだ。なのにどうしてだろうな。どこか暖かく微笑んでしまいそうなのだ。


 ……ホワイト。我をいつもからかって遊んでいる、忌々しいやつめ。我は貴様のことが───



お読みいただき、ありがとうございました!

この作品は私の代表作(名称略)のスピンオフ作品となっております。

本編に登場する最強の旅人 ブラックと、その相方であるブラック大好き少女(?)のホワイトに焦点を当てたものです。

面白いと思ってくださいましたら、ブクマや評価、感想をお願いします!好評でしたら、連載版を出すつもりでいます。

また、本編もお読みいただけると、幸いです。


本編はこちら

https://ncode.syosetu.com/n0831km/

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― 新着の感想 ―
タイトルの通りの甘々なストーリーが凄くいいです!!!ブラックくんがかわいすぎる笑
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