SideB テンプレ嫌いの組織ども13
まるで自分が自分じゃない感覚……いや、まあおそらく俺の元の世界でのクロスの力なのだろう。とにかく、体が動く。敵の動きや印野さん、響の動きは相変わらず早すぎて見えているとは言わないが、それでも体が勝手に反応してくれている感じだ。
「はは、自動戦闘みたいな感じがするな……おっと」
トライドの尻尾が俺目掛け突き刺すように伸びる。それを手にしたバールのようなものでいなしつつ、俺はちょっとこの戦闘に楽しさを覚えてきた自分を嗜めるよう小さく咳を打つ。
「どうした十字。急に戦闘に参加すると聞いて驚いたが、ずいぶんと動けるじゃないか」
「はは、ついてくのがやっとですよ」
トライドと剣を交えながらに、印野さんがにやりと微笑む。その一撃はトライドが手にした剣を砕かんと随分と重みのある一撃だが、それをトライドは刃から衝撃を逃すように滑らせ、そのまま受けた刃とは逆の刃で斬りかかる。
「油断しすぎだぞ、摩子」
トライドの斬撃をはじき返す重々しい刀身。それを軽々と振り回す響。まさかのパワーファイターなのか?
「ふふ、あれくらいお前がはじくと読んでの余裕だ。本当におせっかいな奴だ、見えていたぞ、私の後ろからくるのがな」
「まったく、あまり人を当てにするな」
「人ではなく天人族だろう。まして、天魔族と対をなす境界を分かつもの。その実力だけは買ってやろう」
どこかじゃれあうような会話に見えるが、本当に印野さんはハンドルとかでなく武器を手に取ると性格変わるタイプのようだな。
「ふふ、楽しそうだな。私も混ぜてもらおうか」
トライドが手にした双刃剣と尻尾を唸らせ二人めがけて突っ込む。それを互いに真逆の方向に飛ぶことで回避し、着地と同時にすぐさまトライドへと反撃に向かう。
挟み込む形での二人からの攻撃にトライドは双刃剣と尻尾を振り回す。その不規則な動きに攻めあぐね、いったん二人は距離をとる。
「ふふ、死にたいという割にはしぶといじゃないか」
「ああ、楽に倒されてはくれないみたいだな」
印野さんと響が離れたのを見て剣と尻尾による牽制を止め、すっと空いた左手を地面に向かいかざす。あれは……まさか!
「"アースプロテクト"」
トライドの足場が地響きの音を鳴らしたかと思うと勢いよく俺の身長ほどの岩が隆起する。その勢いに乗り、あの三つ足の巨体が宙へと舞う。だがそれだけじゃあない、俺たちの足場もまたぼこぼこと音を立て、ところどころ隆起する。
「ちっ、足止めか」
舌を打ちながら上へと視線を向けるとトライドは双刃剣を高らかに上げ回転する。そして地面が近づくとその勢いのままに双刃剣を大地に目掛け振り下ろす。
「"アースブレイク"!」
双刃剣の刃がピキピキと音を立てたかと思うと堅牢な岩がその刃を包み込む。そして地面へとたたきつけられると同時にその岩の刃は地面を巻き込み爆散する。その破片が俺たちへと襲い掛かる。
「二人とも俺の後ろに! "シールドフレーズ"!」
響の号令に印野さんは即座に響の背後へと転がり込む。俺は……気が付いたら走り出していた、有栖の方へと。
「あ、あわわ、じゅ、十字さん!?」
離れてはいたが有栖も身の危険を察知したようだ。あの勢いじゃ生半可な距離じゃ当たりかねない。俺が考えるより先に体が反応し、気が付けば有栖の前に立ちはだかるように身を構えていた。
「"ハウリング"!」
俺は飛来する岩々に向かい大口を開く。それと同時にぐにゃりと目の前の空間が歪み、眼前へと向かい飛散する。それはまるで暴風が枯れ葉を蹂躙するかのように、岩を蹴散らし、その勢いのままにその先、着地で身動きがとれぬトライドへと突き進む。
「ちっ……」
ハウリングではトライドにダメージは無い。だが、それでも態勢を崩させるぐらいはできた。そして弱点である双刃剣がある今、それは見逃せないチャンス。
「響! 摩子!」
俺の叫びに二人はすっと親指を立て合図し、トライドへと疾走する。
一太刀目は響。両手で構えたグレイブを前に突き出し、強烈な刺突の一撃を繰り出す。トライドはそれを尻尾で全力で薙ぎ払う。だが響もただはじかれるだけでなく、その強烈な尻尾の一撃をグレイブで押し返す。
二太刀目は印野さん。衝突し互いにはじかれるように離れるグレイブとしっぽの間から飛び掛かり、トライドが手にする双刃剣目掛け剣を振り下ろす。刃と刃が触れると同時にトライドはその刃を傾け、印野さんの一撃を地面へと流す。だが、それを読んでいた印野さんはなんと剣を捨て、トライドが持つ双刃剣の柄をその手の上から両手で握り、落下の勢いを利用し地面へとその刀身を突き刺す。
三太刀目……というか三番バッターは俺。地面に突き刺さり垂直に立つ双刃剣。その天に向かい伸びるむき出しの刀身目掛け、俺は手にしたバールのようなもので思い切りフルスイングする。
激しい衝突の最中、その突き立つ剣越しに体勢を崩したトライドの兜が……いや、その下に潜む少女の笑顔が見えた気がした。
「……ふふ、我が渾身の一撃へのカウンターか。見事だ……門番重兵」
パキンッ!
砕けた刀身は高らかに宙へと昇り、月の明かりに照らされる。その儚くも美しい刀身にどこかトライドの、いや、トゥーレの気高さを感じ、刹那目を奪われる。そして……俺が慌てて視線を目の前へと戻すと、そこにトライドの姿はなかった。
印野さんが握る壊れた双刃剣。彼女はそのまま双刃剣をゆっくりと地面から抜き、すっと目の前へと両の手で持ち上げる。握りしめた剣を見上げる様は神官が杖を天に掲げ、祈るかのような光景に見えた。
「終わったんだな……これで」
「そうですね、お二人の協力のおかげです」
「ふふ、どら子から聞いたが、美味しいとこを持っていくんだな、十字」
どら子から? ああ、もしかしてアンティのときのことか? 気が付けば"レッドグレア"と言われた赤い月の光は消え、ただ見下ろすような月を背にした印野さんがどこか意地悪な笑みを浮かべている。
「い、いやいや、今回のはあくまで三人そろっての一撃でしょう」
「ふっ、謙遜するな十字。お前の"ハウリング"がなければこの一撃は生まれなかった」
「そうだな、あの状況で"守る"と"攻める"を同時にした判断は見事だったぞ」
やめて、多分俺いまめっちゃ顔にやけてる。俺は両手で顔を隠し二人に背を向ける。だがその先に立つ残りもう一名。
「ふふ、照れなくてもいいじゃないですか十字さん。最後の一撃もかっこよかったですけど……私を守ってくれたんですよね……嬉しかったですよ」
あーもう、どこを見ればいいんだ俺は。その場でくるくる回るようにあちこち向き直る俺に三人分の笑い声が聞こえた。
* * * * * *
「"リターン"」
手にした"ディペン"を再度地面に突き刺された片刃の双刃剣へと向ける。剣はまるで蛍の群れが飛散するかのように、光の粒子となって夜の闇へと溶けていった。
「これで奴は……トライドは元の世界か。ふふ、私たちはいつになったら元に戻れるのやら」
印野さんは胸の前で両腕を組み、天に上るように消えゆく双刃剣の光を見上げている。
「まあ、すべての希源種を倒すまでは帰るわけにはいくまい」
「ふん、それまでまた貴様と同じ建物で過ごすと思うとため息しか出ないな」
「なんだ? それなら別の宿をとればいいだろう」
「馬鹿を言うな。なぜ私が出ていかねばならない。貴様が別の宿……トライドが使っていたあの小屋でも使えばいいだろう」
はは、完全燃焼よろしく燃え尽きてるけどな、あの小屋。いや、というよりも跡形もなく燃え尽き、残骸すらない……もしかしてあの小屋は元の世界からの影響で存在していたのか? ランビレオンの時のように?
以前のランビレオンとの戦いで訪れた神社。そこで見た不釣り合いな石造りの祭壇のようなものだが……あの神社へと続く鬱蒼とした道含め、戦いが終わり全員が車に乗り込み振り返った時には最初に行った時のようなただの階段、そして神社に戻っていた。
察するに、世界は変化しているのだと思う……現れた希源種に関連した形でな。そして倒すと元に戻るというわけだ。はは、なんだかボス部屋というかボスエリアみたいだ。
「あいにく俺はあの共会荘での生活が気に入っている。出ていく気はないぞ」
「ふん、じゃあ勝手に居ろ」
印野さんは大きくため息をつくとすっと俺のほうへと歩み寄り、顔を近づける。突然の急接近に俺の心臓も急稼働状態なんだが……。
「そういえば十字。あの戦いの中で私のことを"摩子"と呼んでいたな」
「え? あ、あー、そういえばそうですね、はい……響に釣られたというかなんといいますか」
「ふふ、その呼び方で構わないぞ」
「ほんとすいま……はい?」
「お前は共会荘の連中をすべて苗字ではなく名前で呼んでいるのだろう。私だけ"さん"付で苗字じゃ仲間外れにされているみたいでな」
「え、ええと……」
俺はなおも詰めよるように少し不貞腐れた顔を浮かべる印野さんにどうしたものかと後ろにいた有栖へと救いを求める。
「ふふ、いいんじゃないですか。確かに摩子さんだけ名前で呼んであげないのはかえって可哀そうですよ」
「うーん、じゃあさすがに年上の女性を呼び捨てはなんか気が引けるので……その、"摩子さん"で勘弁して下さい」
「まあ、それでいい。これからもよろしく頼む」
少し照れた様子で顔をそむけた摩子さん。俺の方からはその表情が読み取れないが、それに対峙する響が笑顔を我慢できず口の端を緩ませ俺を見てくることから察するに、喜んでくれているのだろう。
「さて、帰るとするか。明日は私も仕事だからな」
「そうだな、希源種の前にまずは現状の生活の維持がある。俺も怪我で今日休んだ分、また働かねばカバーしてくれた他の同僚たちに申し訳が立たない」
「そうですね、帰りましょう、共会荘へ」
俺と有栖はまた来た時同様摩子さんの車に乗り込み、帰路へと就いた。その帰り道の車内にて、ポケットに入れたままの小さな盾の紋章、そして件の傷つけたらダメージが持ち主に帰ってくるという恐ろしい条件の懐中時計を有栖にいったん返した……のだが。
「そういやこの懐中時計、まだ動いてるんだな」
「そうですね、時間もこちらの世界とあってますし、案外志亜さんが普段から使ってるのかもしれませんね」
「そうなのか? はは、どれどれ今は……もう日を跨ぐ寸前じゃないか、はは、は……はっ!?」
「ど、どうしたんですか?」
「どうした十字?」
「俺明日っていうか……このあとバイトじゃねぇか」
「あ……うわぁ……」
有栖と摩子さんの驚きとも哀れみともいえる声が漏れる。だがそれ以上に泣きたいのは俺だ。
「俺……もうバイトある日は絶対に家から出ないからな……ましてや希源種と戦うなんて二度としないからな」
「そ、そんなこといわずに。ほら、今日いけなかった図書館とかまた行きましょうよ」
「そ、そうだぞ十字。なんだかんだ私も本を読めなかったし。また行こう、な?」
「うぅ……もういいです……何もないときはうちでごろごろしてたい」
力なく後部座席のシートにもたれかかり、俺は窓の外へと目を向けた。ああ、いっそ門番重兵って仕事があれば俺就職したい。少なくとも、この世界じゃそんなに仕事もないだろうしなと。
邪で怠惰な願望むなしく、その後何かと女性との付き合い方を模索し仕事に集中しない山崎とシフトに入った俺。朝のお前の勤勉さはほんとどこに行った……山崎ぃ!
拙作をお読みいただきありがとうございました^^




