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SideA 不透明に澄んだ心11

 地面を穿つような激しく打ち付ける雨。天を覆う黒い雨雲は空の星を全て飲み込んでいる。だが、欠けなき月はその雨雲を貫くほどにどこか神々しい。そして狂気じみた異様な赤い光を放ち、地上に立つものにその存在感を示している。


 黒雲に浮かぶ月は……呼応していたのかもしれない。瞳を金色こんじきに輝かせ、雨と血に濡れる剣を手にした少女に。


「き、貴様! 巡回騎兵クルーラーである我らと事を構えようというのか! ひっ! や、やめ……!」


 驚愕よりも恐怖に染まる表情のまま、男性の首が地面へと転がる。同様に首を失い横たわる死体は10体近く。鎧を着込んだもの。革製の鎧や身軽さを重視した布の服をまとった旅人をほうふつとさせるもの。それらが等しく首を失い、降り注ぐ雨に晒されている。


「なんだ、あと五"匹"しかいないのか……」


 青白く光る剣を手に、少女は口の端を吊り上げ、嘲るように"まだ"立っている者たちへとその金色の瞳を向ける。


「お、俺たちはただ雇われただけだ! あんたのことも……ここで起こったことも口にしない! だ、だから助けてくれ!」

「そ、そうだ! なんならこいつらからもらった報酬もあんたに渡す……だから……」


 もはや戦意もなく、力なく手にしていた武器を捨て、腰に下がっていたジャラジャラと鳴る袋を手に、祈るように差し出す。そして……その2人の男の首がごろりと地面に転がる。


 残る三名は鎧に身を包む巡回騎兵クルーラー。そのうちの一人はこの部隊を率いる代表格の男……クリスだ。日中に見せた落ち着いた面立ちとは打って変わり、その表情は命の危機にさらされ恐怖で凍り付いている。


「仮にも王国セントガルド、そして聖教イドルイマージュの主戦力でもある巡回騎兵クルーラーがこの体たらくはやばいんじゃないのか?」

「な、なめるな小娘が!」


 水滴を纏った銀の剣先が眼前に立つ少女へと向けられる。だが、両脇に立っていた残り二人の男たちの剣を握る手はがくがくと大きく震えている。もはや剣も力なく下がり、地面に着いては浮いてを繰り返す。


「む、無理だ……こんな化け物の相手は!」

「お、おい! 待ってくれ!」


 もはや剣を持つ者の矜持などそこには存在しない。守るべきは己の命。剣を構えるクリスを残し、眼前の脅威に背を向けて走り出す男たち。それを制止しようと振り返るクリス。だが、彼が目にした光景はまさに狂気そのもの。


 まるで罠にかかり吊り上げられた野兎のように宙に浮かぶ男たち。だが、それはまるで見えざる手に首をつかまれているかのようで、その証拠に男たちも自身の首をつかみ何かを振りほどこうと足?いている。だが、その行為に意味などない。


「ぐ……あ……た、たすけ……て……」


 ベキッ!


 耳障りな鈍い何かの折れる音。その音を境に宙に浮かぶ男たちの手はだらんと力なく垂れる。クリスの顔はいよいよ青ざめ、恐る恐るその視線を前に戻す。それはまるでそこに何かをつかんでいるかのように両手を上げる女の姿。


「臆したな……?」

「な、何をした貴様!」

「なんだ知らないのか? はは、知るはずもないか……見た奴は全部殺してるからな……私の"ルナシィ"の力は」

「ま、まさかそれは……あの三幻眼の魔女(トライアイウィッチ)支配眼ドミネート・アイ!?」

「はは、そうだな。一番近いのはあれだな……だが、私のそれは月の光だけでなく、"恐怖"によって力を増す」

「な……ぐ、な、なんだ!?」


 剣を手にしていた腕がまるで吊られるかのように持ち上げられる。無論、糸のようなものなどもなく、そのままクリスは右腕を吊り上げられる形で宙へと浮かぶ。その表情は苦悶に満ちていく。


「や、止めろ! 止めてくれ!」


 女の剣を持つ手の周りに不思議な紋章が浮かび上がり、その紋章が剣をスキャンするかのように動き出す。そして……紋章が通り過ぎた部分から青白く光る剣はどす黒く赤い大鎌へと変化していく。


「わ、わかった! 精霊国での私たちの行為が気に食わなかったのだろう。謝る! 我らが受けためいも包み隠さず公開する! だから、だから……」

「死体が何を語れるんだ?」


 ぶんと降られた大鎌は伸び切った男の腕の根本、肩から真逆の腰にかけてを通りすぎる。口をパクパクとさせ、足元に力なく崩れ落ちた自身の元一部を目にし、瞳が大きく開かれる。だが、その両眼をなぞるように振られた追撃の一閃が繰り出され、べちゃっという不快な音とともにぬかるむ地面に落ちる何か。


「約束は守ったぞ、"アリス"……はは、私のことは誰もわからない。あの国での出来事を知る馬鹿はいない……その馬鹿は……全部殺したから」


 なおも降り注ぐ豪雨をものともせず、少女は天を仰ぎ、狂気の笑い声をあげる。その声すらも雨音がかき消し、その凶行を知る者は誰一人とていない。


 雨の中、"シーア"はただ一人(たたず)み……わらっていた。

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