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SideB 隠し要素は早めに教えて下さい01

空は快晴、雲一つない。そして平日の昼間。今いるこの公園には小さな子供を連れたママさん方が数多くお越しになっている。そうだな、浮いてるよな、俺たち……。


 言い方は悪いがこの真っ昼間からいい年こいた男女がぞろぞろと来るとなんだかママさんたちからの視線が痛い。俺たちはそそくさと公園の人気のない場所へと移動する。


「おし、恥ずかしいからさっさとやってさっさと帰るぞ」

「それがいい。我も昼休みが終わったらまた仕事に戻らないといかんしな」


 俺の横で仁王立ちでふんぞり返っているタンクトップと作業着ズボンがとにかく似合うガタイの良い男性。ガテン系の典型的のような格好をしているが……これで異世界から来たとか。まあこいつ、もとい、百田力也ももたりきや以外の連中もそうなるわけで、真昼の公園に異世界人大集合の構図になっている。


「私は今日はお休みをいただいているのでゆっくりとできましてよ」

「ふん、昨日は保育会だか何だかで何の役にも立たなかったくせに」

「あなたや百田さん、鐘谷さんの三人もいれば十分でしたでしょ? まあ、私がいればもっと楽だったでしょうけどね」

「ああん? お前がいたらもっと時間がかかってただろうよ、零華」


 俺の目の前でバチバチと火花を散らしてる2人の女性。五代零華ごだいれいかとどら子だ。ちなみに昨日というのは希源種オリジンワンとかいう化け物を初めて倒した日のことで、零華は職場の保育園で保護者を交えた保育会とかいう会議があって不参加だった。


「まあ、今日はあなたとじゃれあうために来たわけではなくてよどら子さん。ねえ、十字さん」


 どこか妖艶な笑みを浮かべる零華。話し方からしてなんかこの人も貴族とか王族といった雰囲気があるが……。


「あ、ちなみに本当にゆっくりする気はありませんので……その……今日は

この後スーパーの特売日という用事がありまして」

「あはは、零華さんのところは大変ですね。育ち盛りのお子さんが5人もいますからね」

「お、お子さんって! 弟や妹みたいなものですからねあの子たちは!」


 これまた俺の横で絶賛育ち盛りの……おっと睨まれた。俺の横にいる有栖が零華につっこまれている。いい加減俺を警戒するような目で睨むのはもうやめなさい。てか本当にこいつ感がいいな……。


「はいはい、せっかくの休日の方もいるので手短に終わらせるぞ」


 俺達は今日鬼ごっこやかくれんぼをしに公園に来たわけではない。そう、俺の能力、"トライアル"の検証のために来たのだ。


 なんでもこっちの世界でいう人間のことを異世界では人族ヒューマンレイスというらしく、その種族が使える固有の術式が"媒体術式"という。他種族と心を通わせ"共鳴"したならば装備品などを媒体としてその種族の術式を一部使えるのだとか。


 そして本来は1種族としか共鳴できないらしいのだが……俺はその制限がなく、ただ媒体を身にまとい対象の種族に触れて念じればその種族の固有術式を使えるのだとか。なんだかオールラウンダーとか万能者っぽくて燃えるな。


「リングは2つだから同時に2種類しかセットできないんだよな。今は昨日の戦闘前にひびきの"詠唱術式"をセットさせてもらった状態だな」

「ちっ、十字のはじめてを響に盗られたか」

「おいどら子。その言い方やめろマジやめろほんとやめろ。あとお前と力也は道中散々どっちの能力をセットするかで言い争いしてたのに、目的地につくと突っ込んでいったからな」

「あらあらそれじゃあ3人でついていった意味がないんじゃなくて?」


 零華が口元を手で隠し少々意地悪な笑みを浮かべている。言葉には出していないが絶対頭の中では嘲りワードが溢れてるんだろうな。そしてその様子を力也とどら子に睨まれ、コホンと小さくわざとらしく咳をし無表情に戻す。


トントンッ


 少々リズミカルに板状のものを小突く音。そうか、この人も来てたんだな。


『早く始めよう。早く帰りたい』


 ホワイトボードを顔の前に突き出し顔を隠す女性。印野摩子しるしのまこさんだ。あいかわらずしゃべらないんだなこの人。あと、なんだか昨日と違って今日はどこか雰囲気が穏やかだ。


 昨日の食堂では少し無理やり自分を強く見せようとしていた感じがするが……今日は仲の悪い響がいないからかな。


 俺はこの場にいる全員を順に見回す。本当は全員の能力を試したかったが、力也んとこの妹の飛鳥ちゃんは学校だしF子は相変わらずのさぼり……。響も仕事でいないがまあすでに先日の戦闘で試して"ハウリング"という力が使えるのがわかっているから問題はない。


「ふ、まずは我が行こう……というか昼休みが終わるではないか」

「そうだな、ぱっぱといこうぜぱっぱとな」


 俺は力也に向けて拳を突き出す。その拳に力也がこつりと自分の拳をぶつける。おお、セットされたようだ……獣人族ビーズレイスである力也の"変異術式"とやらが使えそうだが……。


「"完全変異キングスタイム"ってのが使えるみたいだな……」

「ほう、それはいい。完全変異は全身を変異させる術だ。何の姿になるかはそやつ次第だが……さて十字は何になるのか見ものだな」

「ふむふむ。ちなみに力也は何の獣になるんだ?」

「我か? 我は剣獅子けんじしだ。この世界ではライオンとかいう獣がいるがあれに近いともいえるな。まあ、ライオンなぞ我の完全変異の前では猫のようなものだがな。特に牙や爪の鋭さは段違いで、どの獣よりも強いと自負しておるぞ」

「へぇ、獅子か。じゃあ俺は何になるんだろうな」


 少しわくわくしながら俺はちょっと意味もなくポーズを決めてしまう。変身とポージングはセット。異論は認めないぞ。


「"完全変異キングスタイム"」


 俺の詠唱とともにすっと俺の全身を光が包み込む。そして次の瞬間……あれ? 俺縮んだ? なんかみんながすんごい大きく見えるんだが?


「か、かわいい!」

「あ、ね、猫……」


 有栖と印野さんがすっと俺の前でかがみのぞき込んでくる。ね、猫? え? 俺今猫になってるのか? てか印野さん喋ってるよ? そっちのほうが俺的には驚きなんだけど? いや俺のほうが驚くべき状態なのか?


「あ、摩子さんずるい!」

「え、えへへ、猫だ……」


 印野さんが俺に手を伸ばしたかと思ったら次の瞬間には顔面にすごく柔らかい感触がする。


「次私にも抱っこさせて下さいよ」

「も、もう少し……あ……」


 この感触はなんだか俺をダメにしそうなので俺は体をねじるようにして抱擁から離脱した。


「す、すごい力だった……」

「ふむ……小さくとも力はあるということか。やるではないか十字」


 なんだかよくわからないがただの猫よりは力が強いということだろうか。ふむ、使いものにならないってわけではなさそうだな。


「おい摩子」

「ん?」

「一応わかってるだろうけどその猫、十字だからな」

「え、あ……ひゃあ!」


 どら子の言葉ではっと我に返ったようで印野さんは胸を隠すようにして俺に背を向ける。


 いや、「えっち!」って台詞がなんか見えそうだけど俺は被害者だからな。まあ、お礼は言いたいぐらいだが……あれ? てかこれ俺しゃべれるのか? 向こうの言葉はわかるけど……どれどれ。


「ちょっと皆さん、十字さんが何かをおっしゃってますよ……猫語で」

「にゃーにゃーうるさいな。これどうやって戻すんだよ力也」

「ふ……我ら獣人族ビーズレイスの"変異術式"は時限式。まあ……しばらくたてば戻ると思う……ぞ?」


 おい、疑問形の返事はやめろ。あとちらちら腕時計を見ているがまさかこいつ……。


「さて、我はそろそろ次の戦場へ行かねばならぬ。あとは任せるぞ」


 おいこら力也マジでふざけんなよ。ただ職場に戻るだけだろうが。むしろ戦が起きるのはこの場だろうが。あ、あいつマジで行きやがった! くそう、文句も言えない歯がゆさ。


「んで……どうすんだこいつ?」


 どら子があくびをしながら近くの芝生に腰掛ける。有栖はおろおろしてるし零華はやれやれとため息をついて呆れている。印野さんは……。


『こちらの言葉はわかるのか?』


 お、こういう時に便利だなホワイトボード。俺はこくこくと頷く。それを見て印野さんは顔を赤らめて泣きそうな顔を浮かべ、ホワイトボードにまた文字を慌てて書いている。ああ……察した。


『抱っこしたのは忘れて。お願い!』


 猫にホワイトボードを向けてぺこぺこと頭を下げる成人女性……どんなプレイだよ。


* * * * * *


「えー、次は誰の能力を試しますか? できれば使用者を半ば行動不能に陥れ皆様の貴重な時間を割きそうなのは後にして下さい。あと力也は今晩の飯の時にでも小一時間程問い詰めようと思いますので皆さまその際はご支援の程よろしくお願いします」

「フライドチキン10本奢りの刑だな」

「いいですわね、私もそれを要求するとしましょう」

『忘れたか十字? さっきのは忘れたか?』


 印野さんがものすごく必死なのは置いといて、力也の変異術式についてはいろいろ『身をもって』わかった。


 まず変異したら最後1時間は元の姿に戻れない。しかもその間は他の術式も使えず他の術式で上書きすることもできない。というか猫の姿になったときはどうやら俺の体が猫に化けたというよりは俺の体がどこからともなく召喚された猫に乗り移ったというのが正しそうだ。実際猫の間は身に着けていたものは消え、効果が切れたら元の衣服に戻っていたからな。


 ちなみに、一度使用した後は10分ほど間を置かないと再度使えないようだ。猫から戻ってすぐは"完全変異キングスタイム"を使用できるイメージが浮かばなかった。まあ、もう好き好んで猫になりたいとは思わないがな。


トントンッ


 リズミカルに鳴った音が俺の思考を遮る。なんだかその合図に慣れてしまっている自分が怖い。


『次は私でいいか? 恥ずかしいから早く終わらせてもう帰りたい』


 どうやら我を忘れ"猫の俺"を抱擁したのがよほどトラウマになっているようだ。そこまで嫌がられると正直なんかへこむんだが……。


「ああ、じゃあお願いできますか印野さん」


 俺は印野さんに向け拳を突き出す。その拳を包み込むように印野さんは恐る恐る手を伸ばし、重ねた。


「ふむ……"ライトライト"ってのが使えるみたいだけど」

『ああそれは……』


 ホワイトボードに書く手を止め、印野さんは手元のホワイトボードから俺へと視線を移す。依然その瞳は涙目で頬も紅潮している。そういえばこの人いつも俯いててまともに顔をまじまじと見たことがないが……うん、これは美人といっても差し支えないレベルだ。


 目元まで伸びる青みがかった黒髪の狭間からのぞき見える瞳はこの世界でいう悪魔の邪悪さなど微塵もなく、むしろその悪魔に囚われて震える姫君のようなか弱さがある。


「は、話を聞いているか? 十字?」


 蚊の鳴くような声に俺ははっと顔を上げる。いかんいかん、よからぬ妄想をしてたら顔がうつむいて……って、なんだそれ?


「これが"ライトライト"……空中に書いた線を具現化させる術式だ」


 印野さんの人差し指の指先がまばゆい光を放っている。そしてその光が空をなぞるとそこに光の線が残る。そう、空中に線を描いているのだ。おまけに何やら手の甲に星のような紋章状の光が浮かんでてかっこいい。


「触ってみるといい……」

「え、触る? な、なんともないんですか?」

「大丈夫。具現化するだけでこの線自体触れてもダメージはない。それに……」


 俺は恐る恐る線に手を触れ、そしてこの術式の利便性を感じた。


「この線、押しても引いてもこの位置からびくともしない……」

「そうだ……私はこの場に"動かないよう"に描いた。うまく使えば防御にも……相手へのカウンターにも使える」

「なるほど……あ、消えた」


 それまで俺が触れていた光の線はすっと煙のようにそれまで存在していた空間に溶けて消えてしまった。


「まあ好きに使ってくれればいい。ああでも"天恵ブレージング"には気を付けて。じゃあ……私はこれで……うぅ……」

「"天恵ブレージング"? それって……ってもういないし」


 もう少し活用事例などを聞きたかったがそれもはばかられる悲壮な後ろ姿に俺は見送るしかできなかった。いや、ほんとなんか俺までへこむんだけど? 一応あの時は猫だしいいじゃん? ねえ?


「十字さん、帰ったらちゃんと摩子さんに謝ったほうがいいですよ」

「え? 悪いの俺なの? あの状況で!?」


 有栖が過去最高に理不尽なことを言っている気がするが……まあ謝っておくか。何に謝ればいいのかよくわからないけども。


 ふとスマホを手に時間を確認する。時刻は14時を回っていた。そうだな、1時間の無駄な時間を力也のせいでとられたもんな……。


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