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学生編


入学してからしばらく、極力関わらないようにしていたはずなのに。

ワクワクしていた気持ちはユーリーによってなくなっていた。


「メラニー、気のせいかなと思ったんだけどさぁ。」


「・・・なによ。」


共通授業である歴史学を受講していると、隣に座っているアブーがこっそり話しかけてくる。

アブーはある方向を指さす。


「北部の坊ちゃん、共通授業全部俺たちと同じじゃないか?こんなことあるのか・・・?」


「・・・何人も生徒がいれば偶然同じこともあるわよ。」


私がそう答えると、アブーは納得していない顔をしながらも、そうなのかな、と言うと体を離す。

あまり周りを見ない鈍感なアブーでさえ気づくのだから、やっぱり不自然なのだ。

私は前方の方に座るユーリーの後頭部を見つめ、ため息をつく。


関わらないようにしようと思ったのに、まさかの共通授業がすべて同じで驚いた。

偶然にしては出来すぎているとは思う。

こんなに同じだと数人での課題で一緒になって話すことになってしまいそうだ。

私は再度ため息をつき、机に顔をくっつけた。



授業が終わり昼休み、食堂で昼食をとるとアブーをおいて日課の散歩で中庭に赴く。

アブーは昼休みは昼寝をするためついてこない。


中庭につくと声が聞こえてくる。


「お前、妾の、しかも奴隷の子なんだってなぁ。」


「公爵家なのに汚い血を継いでるなんて最悪だな。」


「北部は兄弟で結婚するらしいぞ。穢れてるな!」


3人のヘルミニオ=クラスの少年たちが、地面に倒れている少年に対して罵倒しているようだった。

少年たちが嘲笑っていると倒れていた少年が身を起こす。

青みがかった黒い髪に青い瞳が見え、私は息をのむ。


(ユーリー!)


少年たちを鋭い目でにらみつけると、それが気に障ったのか卵を投げつける。


「生意気な態度とるんじゃねえ!」


そんな怒鳴る声にも怯まずにらみ続ける。


「こいつっ!!」


少年たちは杖を取り出しユーリーに先を向ける。


(危ない!!!!)


小説の内容を大きく変化させるようなことはしてはいけない。

そう思っていたが、目の前で生きている人間がひどく理不尽ないじめを受けている。

これを止めないのは人として最低だ。


私は物陰から飛び出ると、いじめっ子の足元にある土が膨らむよう魔法をかけた。


「うわっ!!!!」


少年たちは転び尻もちをつく。

そのすきにユーリーの目の前に立ち、腕を組んで仁王立ちする。


「多数でいじめるなんて卑怯者ね!魔法士の風上にも置けないわ!」


いじめっ子は私を認識すると、お前!!とつかみかかろうとする。

つかみかかられる前に顔の前に手を出す。


「私は西部公爵家のメラニー。私に手を出すのであれば、公爵家への宣戦布告ととらえるわよ。」


私がそういうと、公爵家という言葉にいじめっ子たちは顔を青ざめ後ずさる。

そのまま舌打ちをすると尻尾を巻いて逃げていった。


嵐が過ぎ去り、中庭に沈黙が落ちる。


思わず助けてしまった。

関りを持たないようにしていたのに!


後悔しても遅い。

これ以上かかわりを持たないよう後ろにいるユーリーに声をかけず走って中庭を離れた。


急いで次の授業の教室に入る。

専門授業である占いだ。

ユーリーはクラスが違うため、専門授業は別である。

顔を見なくて済むことに胸をなでおろす。


「顔色悪いな。」


「・・・ちょっとね。」


遅れてやってきたアブーにそういわれたが、はぐらかした。



それから数日、共通授業以外でもユーリーが目に入るようになった。

さすがの高頻度に鈍いアブーも怪訝な顔だ。

アブーはちらりと後ろを見る。


「最近ユーリーをよく見るんだけど、さすがに気のせいじゃないよな。」


その言葉に何も返さず、急ぎ足で廊下の歩みを進める。

私たちの少し後ろにはユーリーがおり、私たちについてきている。

最近は共通授業の移動以外で、昼休みも私たちの後ろをついてくるのだ。

さすがに気味が悪い。


「汚い汚い北部のユーリーじゃないか。」


するとユーリーの前にヘルミニオ=クラスの2年生が立ちふさがり、彼の小さな体を押す。

ユーリーは尻もちをつき、押してきた上級生を見上げてにらみつける。


「そんなお前にはこれがお似合いだ。」


上級生はそういうと、バケツを頭の上でひっくり返し、泥水を浴びせた。

泥水、正確には魔物の排せつ物を溜めた水だ。

ひどい臭いと汚れたユーリー。

あまりのひどさに怒りがこみあげてくる。


(彼は何もしていないのに。)


わなわなと震え、拳を握りしめる。


「行くわよ、アブー!」


「え、お、わかった!」


いじめっ子を懲らしめるべく、戸惑うアブーを引き連れいじめっ子の背後に立つ。

床が排せつ物などで水浸しになっている場所に向けて背中を押す。

おわっと間抜けな声を上級生は出すと、そこに頭から突っ込み全身が汚れる。

手が汚れるのも構わず、上級生の髪をわしづかむ。


「次、彼をいじめたら西部と南部の公爵家が黙っていないわよ。」


そういうと、上級生は私を押しのけ走って逃げた。


「情けないなあ。自分より上の身分の奴が来るとああなんだから。」


アブーはそういうと清潔魔法を私の手とユーリーにかける。


「臭いは取れないけど、見た目はきれいになったな。」


「ありがとう、アブー。」


「良いけどさぁ、メラニー一応女の子なんだから汚いものに触るなよな。」


私はアブーの注意にバツが悪くなり、顔をそらす。

アブーは尻もちをついたユーリーに手を差し伸べ起き上がらせる。


「こういうこと、よくあるのか?」


アブーの言葉にユーリーはこくりとうなずく。

授業中でもいじめられたときでもそうだが、彼が言葉を発しているところを見たことがない。


「俺もメラニーも君と同じ公爵家の人間だ。今後の国のためにも仲よくしよう。」


アブーの言葉に驚き私は顔を向ける。

何てこと言っちゃってるの!?

極力関わらないようにしているのに!

今いじめからまた救った手前、関わらないようになんて無理があるかもしれないが。


「俺たちと行動すれば、いじめられることはないと思う。」


アブーがそういうと、なぜかユーリーは私の顔を見つめうなずいた。





私たちと共に行動するようになってから、いじめを受けることは減ったようだ。

それに、公爵家の人間がまとめて一緒にいるからか、ウィージェニーも気軽にユーリーに話しかけてこなくなった。

彼女の将来を考えるともしかしたらこれでよかったのかもしれない。

私はユーリーと関わらないという方針を変え、仲良くすることにした。

彼は小説の中では公爵となっていたし、国のためにも良いだろう。

それに私と一族の存亡も彼にかかっているので、仲良くした方が良い。


いつものように、3人で昼ご飯を食べ、アブーは昼寝、私とユーリーは中庭で散歩をする。


「そういえば、ユーリーはどうして声を出さないの?」


ずっと気になっていた。

共に行動するようになってからも彼が声を出すことはなかった。

声を出さないと魔法を出せないのだが、さすが悪役なのか、声を発さなくても魔法を使えるらしい。

普通の魔法士は杖を通して魔法を使わないとうまくコントロールできないのだが、彼は杖がなくても魔法が使える。


私の問いかけにユーリーは紙とペンをだすとサラサラと文字を書く。

彼と会話をする際は筆談がメインだ。


『気持ち悪い声をしているから』


「どうして?誰かに言われたの?」


彼の答えに疑問を持つ。

小説内では普通に話していたし、そもそも100歳越えの年寄りだったからきれいな声でもない。

特に描写はなかったはず。


『家の人に、声をだすなって。』


彼の答えに眉を下げる。

きっと家でも迫害されているであろうユーリーは、魔法が使えないように声を出さないよう暗示をかけられたのだ。


「ここには家の人もいないし、私はあなたの声を聴きたい。聴いて会話をしたいわ。」


私は彼の16歳の男の子にしては小さな手をとる。

食事もまともに取れなかったのか、同年代にしては小さく、女性の私と同じ目線。

彼はなりたくて悪役になったわけじゃない。

環境のせいなのだ。


私の言葉にユーリーは目をぱちくりと瞬くと口を開いた。


「・・・気持ち悪くない?」


久々に声を出したのかかすれているが、比較的高い声であるアブーよりも高い、幼い少年の声。

私は笑みを浮かべる。


「全然。あなたの声が聴けてうれしいわ。」


私の言葉にユーリーは白い頬を赤く染め、私の手を握った。


チャイムが鳴って、アブーが迎えに来るまで手をつないだまま彼と話をした。

私を初めてみたときのこと、助けてくれたこと、それから仲良くなりたくて後をつけたこと。

彼は愛を知らず、不器用であり人とのかかわり方を知らないがために、後をつけるようなことをしていたらしい。


「ユーリー、話せるようになったんだな。」


アブーがユーリーの肩を組み揺らす。


「うん。メラニーのおかげ・・・。」


彼はそういうと蕩けたような目でこちらを見つめる。

そんな彼にアブーは目をぱちぱちとすると、片側の口角をにやりとあげ、「へえ~。」と意味ありげに言った。

私にはよくわからなかったが、少しむかついたからアブーを小突いておいた。

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