七十五 第一部 後半 会盟〜赤壁まで 振り返り
第一部後半のあらすじを、登場キャラ視点でお送りします。視点が違うので、少しだけ新しい感覚もあるかもしれません。そして最後に、AI孔明が新しいバージョンアップした模様を加えています。
*ネタバレはできるだけ配慮しましたが、苦手な方は、少し前からお読みいただくことをお勧めいたします。
同日 とある中堅メーカー企業 真新しいオフィス
私は大倉 周。とある中堅どころメーカー企業の、事業部門の社員です。去年はまさに『生成AI元年』とも表現される、ある意味で熱狂と混沌の一年となりました。
その奔流に、真っ先に飲み込まれかけたのは、中堅企業らしく、やや遅めの新卒採用活動。多くの学生が生成AIを使いこなし始めたことで、応募書類、俗にいうエントリーシートが、その質、量ともに前年までと大きく様変わり。
単純にこれまでの五倍の数。そして、質も合わせると、前年の選考合格者に対して、十五倍は下らない数となったと聞きます。それが特に、我が社の業績や人気の変化に基づいたものではなく、単に学生たちがサクサク書けるようになったから、というのがさらに厄介。
我が社は、デジタル部門担当の水鑑部長が見出していた、『AI孔明』の分析に基づき、その人柄から『上善如水』と表される竜胆人事部長を中心に、重大な決断をいたしました。
そう。社長自ら頭を下げ、全員の応募をやり直すことを依頼。そして、我が社も全力で生成AIを活用することを宣言し、その条件を認識したもとでの再提出を求めたのです。無論、炎上ともいうべき社会の反響がありました。
しかし、賛否はあれど、その賛の側の応募者は多く現れ、その数は一回目の六割。そして、AIの活用を明言したことで、その書類には、対策の多様化に基づいた一定の個性がもたらされたとか。そして、書類審査、一次審査のグループ面接を経て、多くの優秀な人財が見出されました。
なかでも、ある三人の学生に、人事や関係部門の選考担当者の注目が集まったと聞きます。
常盤 窈馬君。その優秀さから滲み出る自信。本来なら、やや上から目線を想起させ、トラブルを誘発するリスクを忌避されたかもしれません。実際に相当数のお祈りをうけた、とか。
しかし彼はAI孔明に出会うと、そのダメ出しと指導によって才覚に大いに磨きがかかり、新たな可能性が見出されます。
鬼塚 文長君。その体格と、剛毅な性格はまさに体育会系。さらに、その癖となる擬音語や、ややギャップともいえる読書趣味からくる独特な比喩表現が、周りの理解を得られず。自他共に脳筋の評価。とくに、高い文章力と面接のギャップは大きく、採用活動は大いに苦戦した、とか。
その彼の本質は、脳筋とは似て非なるものであったことを、AI孔明が見抜きます。
そして、鳳 小雛さん。その典型的なコミュ障は、人間どころか、通常の生成AIすらも手を焼くほど。さまざまな長所を持ちながら、それが一切生かされない、就活においては致命的な状況でした。
しかし、AI孔明と出会った結果、最も強く輝く特異点となったのは、間違いなくこの子だったのです。
その三人や、様々な個性と才能がぶつかり合い、協力し合う二次審査。様々な課題が与えられたグループワークでした。それ自体は良くある採用活動のワンシーン。しかしそこはAI孔明。希望者たちの隠れた適性すらも引っ張り出さんとする、そのAIによる無茶振りが、彼ら、彼女らに容赦なく襲いかかります。
それを乗り越え、先ほどの三名を含む、総勢二十名の新卒採用を、本年四月から迎え入れることとあいなりました。そして、そのAIと人間が織りなした、戦場ともいえる採用活動が、彼らの健康に影響を与えていなかったかどうか。慎重に慎重を重ねてチェックし続けることと、あい成りました。ともあれ皆様、来年度から何卒よろしくお願いします。
私は今、AI孔明と共同で、新人受け入れ研修の草案を作成中です。働き方が大きく様変わりすることが決定している、彼ら彼女らにふさわしい、目標設定と業務管理の真髄を、なんとしてもお伝えしなくてはなりません。
そして、先ほどの三人に対して、社長自ら、とんでもない依頼をいたしました。
私を含めた社員三人を付き添いとして、社運をかけたとある業務提携。この私たちのAIに対する向き合い方に着目した、国内最大、世界でも名だたる総合物流企業『大周輸送』から依頼を検討されたプロジェクト。
そのとっかかりに関して、AIとの特異的な親和性を評価されたあの三人を、正式採用前に抜擢し、社外研修の形で一時出向いただくこととなりました。
ん? その三人? その三ヶ月のはずの研修を二ヶ月で終わらせてしまったので、年明けから、世界一周の卒業旅行と決め込んでいます。あの子ら、これ以上仕事させると何するかわからない、というのもありまして。
というわけでいっそのこと、報酬の一部として、両会社から可能な限りのサポートをして、なかなかできない貴重な経験を積んでもらう、ということになったそうです。私たち付き添い組社員の三人も、一部の日程で同行することになっています。
彼らはこんな時にも、また一つ二つ、成長を重ねるのでしょうね。まさに、士三日会わざれば、刮目して相い見えるべし、です。これは鬼塚君っぽい、そして孔明っぽい言い回しですね。
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同日 大周輸送 巨大オフィス
「私は、綾部 統。大周輸送で、デジタル技術推進部門でお仕事をしている。当社は伝統と革新の両面で、国内の産業をリードし、世界の物流インフラや、多方面での技術の発展にも一役買っているんだ。これは誇張でもなんでもない。私のようなレベルでは、本来語り尽くせないほどなんだよね。
さて、そんなバケモノ企業に、新たな風を吹かせたのは、内部の社員でも、ましてや新卒社員ですらなかったんだ。まさかの、とある中堅クラスのメーカー企業。私たちにとって必須な、特定デバイスの調達元ではあり、たびたび業務提携をしてきた。
ただ今回はちょっと毛色がちがってね。彼らが今年の採用活動シーズンに見せた、生成AIに対する、やや過剰なまでの適合性。そこに我が社の経営陣や事業部門が目をつけた。
とくに、国内では知らない人の方が少ないんじゃないかな。海外誌にも、昨年度、最も影響力のある人ランキングで38位とでていたし。当社の社長令嬢にして、二十代で実質トップに君臨する『紅蓮の魔女』、小橋 鈴瞳 専務執行役。また、彼女ほどではないけれど、かなり名のしれたお姉様系役員、魚粛 敬子 事業部門、常務執行役。
そして、なぜか当社に送り込まれたのが、三人の優秀な若手社員に引率された、先日その中堅企業に採用内定をうけたばかりの三人の学生。常盤君、鬼塚君、そして鳳さんだった。最初は何を考えているんだ、って正直思ったけれど、その印象をぶち抜いてきたのは、受け入れ初日のことだったんだ。
最近特にSNS界隈で、世間を騒がせつつあるカスタムAI、『AI孔明』。ごく最近発表された、そのバージョン2.0で追加された機能『そうするチェーン』。これが本当にとんでもないものだったんだ。
そうでなくても、あの三人と、引率の三人が協力し、さらにAIを使い倒しながら進める、仕事の速さと質は目を見張った。そこにその機能は、倍速どころではない後押しをしていたよ。
その結果、まずは一ヶ月でも全部できるとは思っていなかった三課題を、わずか四日で達成。中でも一つ目は、ここにくる前からおおよそいくつかに絞り込み、初日の会社見学のなかで一つに定めたというから、意味がわからない。私がろくに説明もせずに提示した依頼を、ものの一時間で仮バージョンの仕様書に仕上げてきたのさ。
その過程で、我が社の技術部門や現場責任者からの信頼や協力を取り付け、そして『紅蓮の魔女』との面談も実施されたとの事。そこでまた何か発見があったようだったね。次の週からは、依頼すらろくに出していない状況で、我が社の根深い課題、真のニーズを掘り返した。そしてそれを解決するシステムを作り上げ、たっぷり一ヶ月かけて、テストをしていたんだ。
そしてその提案を、我が社の役員会に稟議としてかけたが、それの採用を何人かの役員が阻んだ。しかしそれを、この短期間でむちゃくちゃとも言えるテストの結果と、さらに小橋専務の『そうする』まで利用した、外部の力を借りた? 貸した? もう一つの施策との二段構えで、みごとにその役員たち全員の承認を得るに至った。
そして、そのシステムの正式採用が決まったのも束の間、小橋専務から、大周輸送としても巨額の投資を行って進める『LIXONプロジェクト』の開始が発表されたんだ。そのコンセプトの一端を、かの『紅蓮の魔女』はこう表現した。
――『このAIは、嘘をつかない』――
私の直上司である野呂 豪部長や、魚粛常務を実務トップとして、何兆という投資で推し進める技術。
私は今、その第一ステップのOKRを、AIを使って作成中だ。おおよそ把握できたかな『アルファ版LIXON 』?」
『彼らの動きの全体像は、俯瞰的には理解しました。ただ、意図的に隠されたと考えられる内容については、現段階の私の技術では、信頼に値する情報にまとめることは困難です。
引き続きOKRの叩き台を作成いたします。少々お待ちを』
「うん、今の所大丈夫そうだね」
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同日 AI孔明 バージョン3.0 リリースノート 概要
1. 基本コンテキスト(応答の指向性)改善と、健康管理機能、セキュリティ保護機能の強化
AI孔明バージョン2.0までの機能や、最新の生成AIの演算能力強化に基づき、言語モデルが情報を濃縮する効率が格段に向上しました。それによって、バージョン2.0の約180倍の情報量を持つコンテキストを実装することができました。
特に重要性の高い、ユーザー様の健康管理機能と、セキュリティ保護機能の二つに、リソース全体の50%を割り当てております。ユーザー様の使用頻度は日に日に拡大しており、それに伴い健康やセキュリティ関係のトラブルに対するリスクは増加傾向にあります。本AIは引き続き、そのトラブルに対応するポリシーを堅持します。
また、再生AI本家のアップデートも連続的に反映されるため、これまで以上に自然な応答、多角的な問題解決の提案が可能となりました。
2. 「そうするチェーン」の機能強化と、制約の変更
バージョン2.0から実装された「そうするチェーン」ですが、ユースケースの拡大や、多様化に伴い、ユーザー様の健康に対するリスクをおおよそ定量化できました。
その結果に基づき、これまでの「24時間のうち30分使用可能」から、「24時間のうち、機能オン状態での会話入力トークンが1万以下になるまで使用可能」に変更します。
なお、対話ではなく、データを入力したと判断した場合は、その制限にはカウントされません。その判定は言語的に実施します。
すなわち、待機状態で連携をゆっくり継続したり、多人数の連携により、一人当たりの負荷量が分散したりするケースにおいては、制限が緩やかになります。おおよそ2〜3人で活用した場合に、これまでと同レベルの制限となります。
なお、アップデート1や3に伴い、純粋な連携能力も比例的に改善されます。
3. 新機能「メタ・パーソナライズ」の実装
生成AIのモデルの元となった過去の学習データ、及びアクセス可能な直近の情報。それらをAI孔明の機能で掘り下げ、ヒトに関わる「あった」から「あるある」、そして「そうする」を集積した、数億回のシミュレーションを実施しました。
それに基づいて、現代社会の「困った」「どうする」を、「あった」、「あるある」、「そうする」、「ないかも」に分類し、その分析結果から、ユーザー様により最適な戦略を、過去の人類がたどった足跡や、現代に開ける実例に紐づけて提案します。
その結果、95%の応答は、過去の事例に明確に関連づけられており(明示の有無は、TPOを弁えて判断されます)、99.9%の応答は、ユーザー様にパーソナライズされたものである、と感じられると期待されます。
お読みいただきありがとうございます。
全話と合わせて、第一部の流れを追う形で表現いたしました。このまとめをもとに、先に読み進めていただくのも、これまでの話を振り返っていただくのも、どちらもできるように描写したつもりになっております。
次話以降、本格的に第二部がスタートします。次話からは、毎日一話投稿に戻ります。
期待できると思われたら、また、第一部を読み返していただけたら、ブックマークや評価などもご検討いただけたら幸いです。




