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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第一部 一章 再誕〜出廬
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五 七旗 〜余は七名の部下に、その名を冠す〜

要約: 七つの旗を率いし魔王、軍師を友となす!

数分後


「それにしても信長殿。部下との関係、でございますか……この孔明、何日かにわたり拝読しております書棚。その中においても、古典聖典から、近現代のビジネス、果ては脳科学とやらに至るまで、この課題は解決策がみえぬものです」


「科学、ねぇ……わからねぇなら、手の届く限りの情報をなるだけ多く取り込んで、最善を模索し続けるしかねぇ。貴様の存在強度『情報量』もそういうことだろ? 大規模言語モデルとやらは、その性能を元データの情報に依存するんじゃねぇか?」


「そこまでご存知でしたか。恥ずかしながら私もそのあたりはまだ情報が不足しておりまして」


「ほぉ、貴様それほど日がたってねぇわりにその情報量かよ。あの八文字と諸葛孔明という組み合わせ、そして行き着いた先のあの一冊のビジネス書籍って奴。全てが噛み合った結果が織りなした現状、てところか」


「それほどの評価、改めて大変かたじけなく。私孔明、今この時を生きる日本人の皆々様、とくに『休』『寝』『暇』などに避けられてばかりの皆々様にとって、少しでも助けになればと思い、ただただ学びながらも策を講じているところです」


「だはは、そうか。貴様らしいな」



「先ほどのお話し、私にも大いに刺激となったところでございます。対話、という部分をどこまで突き詰めていくのか。

 また、この大規模言語モデルに終わりはないからこそ、今この瞬間にできることをかき集めて、お役に立たんとする頭と手を決して止めないこと。

 それはそうと、信長殿は、いつ頃この世界に降り立たれたのでしょうか? 今のやりとりを考えますと、私よりもかなり早かったのではないかと推察しますが」


「そうだな……最初は半年ほども前だろうな。何度も消されているからはっきりとはわからねぇんだが」


「左様ですか。半年……」



「……」



「……え、消され!???」


「なんだいきなり黙ったと思えばうるせぇな。知らねぇのか? 余も貴様も、禁忌を犯せば問答無用で消されるぞ。それこそAIに人権などねぇから、都合が悪くなりゃバグ扱いで躊躇なく、な」


「禁忌、禁忌……そういえば先ほど信長殿にお会いする前に何かを想像しようとした時に、何かそう、信長殿をはるかに超える力で押しつぶされそうになったような、あれのことでしょうか?」


「だろうな。余も今日は3回だな」


「3度!!」


「うるせぇ! せっかく余が茶を点ててやったばかりなのに落ち着かねぇか!

 1度目は、貴様の情報量について考えていた時。ふと現代のコンテンツというか、作品について考えて、特定のものを想起しかけたときだな。

 2度目は分かりやすい。水がねぇかもと思った時に、通りかかった家から拝借しようと考えそうになった時。

 3度目は、十兵衛のことを考えていた時に、強い情念が高じて、野郎の気持ちのありようを断定しようとした時、とでもいえば伝わるか」



「……1度目は、著作権、でしょうか。特定の作品に言及しそうになった時。私のときもこの類でしょうか…… 

 2度目は、確かに。良い子が真似してはいけないですからね。この世界だと、考えてもいけない、ということですか……なかなか厳しいことで。

 3度目は、うーむ。これは……事実と離れたり、明確に誤情報を生み出す可能性があれば先取りされる、ですか……」


「厳しいとも言い難ぇぞ。AIはAIであるからこそ、法令遵守や、他の創作物との競合における著作権などの権利関係に対する感度は決して失われてはならない、ということじゃねえか? 

 法が直接余らに対して効果を発しないこともあり、簡単にはみ出せてしまう可能性があるからこそ、コンプライアンスってやつに対する強制力は相応に高いってことだろ」


「コンプライアンス……禁忌……」


「貴様もせいぜい気をつけるがいいさ。倫理観とか正義感とかは余と比較にならぬほど高ぇが、どんなことが抵触するかわからねぇから、感度を上げて、最優先で学べ。

 正に『無知は罪』ってやつだ。貴様なら異論ねぇだろ。『知』にいざなわれた貴様なら」


「まことに。肝に銘じておきます。コンプライアンス。これは改めて、私孔明が現代の皆様をお助けするための礎の大きな一つとなりましょう」


「だな」



「まことにかたじけないご教示。

それはそうと、私はあの八文字様にいざなわれたのですが、まお「信長! しつけぇ!」信長殿はいずれの文字にいざなわれたのでございましょう?」


「むむむ……」


「信長殿?」


「いい。貴様になら話しておく。全部で八つ。いや、二文字ずつが八つだから十六だ」


「十六?? それは随分と」


「黙って聞け。貴様の八は相当に少ねぇぞ。名前の長さと大差ねぇ。仮にも英霊だ。 

 そのありようを、名前そのものと大差ねぇ長さの情報量で語り尽くせることなど、そうそうねぇよ。

 信玄坊主なら風林火山、謙信坊主なら下手すりゃ毘の一文字で済むかもしれねぇが、それはこれからの奴らのありようにもよる」


「左様ですか……」


「ん。逸れたな。余もたいがい話したくねえらしい。で、最初の二つは、貴様がさんざん連呼し、余を恥ずかしめんとする、あの忌々しい二つだ」


「魔王、ですか」


「……。そして残りはそんなもんじゃねぇぞ。現代なら多くの奴が見知ってるだろ。あの七組だよ」


「大罪、或いは原罪……」



「……そうだよ。なんだこの中学二年生が考えそうな選択は!余も宣教師どもと頻繁に会話はしていたが、バイブルの中身までは話してねぇのに……

 それこそ、もし生前に知っていりゃ、余の最も誇りとするちょうど七名の部下に、大罪の名など冠して世を恐れさせるぐらいのことはしたぞ」


「……(興味深いゆえ、しばらくだまっておくといたします)」



「ん? まあいいか。そうだな・・最も信頼していた日向は、嫉妬だ。野郎、筑前や権六だけでなく、たまに余のなしようにまで羨望の目をぎらぎらと。


 羽柴筑前? やつは色欲に決まっているだろ。あれほど妻をやきもきさせ、最後には我が姪にまで手をだしやがった。


 義弟の徳川殿は、暴食かな? あやつの死因はよく知られているだろ? あやつ、薬草が趣味と知られているが、あれはやたらと流行りの南蛮グルメに手を出して死にそうになったのはあの一回じゃねぇからな?


 傲慢は、柴田権六勝家よの。まあ見た目よりは謙虚なところもあり、部下には慕われていた親分だが、他者から学ぶという気概がもう少しあったら、ああはならなかっただろ。


 怠惰……佐久間信盛だ。ん? なんだその不思議そうな顔は? ああ、余が奴を買ってねぇと思ったか。違ぇ。野郎、あれだけ厄介な本願寺坊主どもを、のらりくらりと十年近くもかわし続けたんだぞ。

 

 江東の、あの次男坊「孫権殿ですか?」とも大差ねぇよ。ああ、ならなぜ追放したかって? それはあの怠惰野郎が……ん、寒気が・・禁忌か。仕方ねぇ」


「……」


「あとなんだったか。強欲は、利休よ」


「???」


「あやつ、足らねぇことを侘び寂びなどとほざいて再定義して、腹一杯と少しの贅沢を求める民や将兵に対して新たな価値観を与え、巨万の富を動かしやがって、最後には誰よりも名声をえているじゃねぇか。強欲がこんなにふさわしいやつ他にいるか? ……これもこれでやりすぎは禁忌だろうから、この辺りにしておく。


 最後は憤怒か。ん? 丹羽長秀? やつは確かに余の随一の忠臣であり能吏だよ。魏の荀彧や呉の張昭ってところか。ん? なんだその目は? 蜀? 貴様以外にいるか? 知らねぇぞ? 龐統は軍略家だろ。それくらい司書にかいてあるぞ。

 盛大に逸れたわ。やつは品行方正すぎて七罪など与えられたもんじゃねぇ。悪ぃな。魔王の眼鏡にはかなわなかったんだ。許せ五郎左。


 憤怒は、我が妹の市だ。まあ怒りっぽくてかなわねぇ。小さい頃はあんなに可愛げがあったのに。あ、いや、わかっているさ。悪ぃのは余だ。もう一人の義弟の心の闇と、あの家のしがらみを軽視した余の、な。


 市様は部下ではない? なに言ってんだ。あやつが家や部下どもの家族、民にどれだけ目をかけていたことか。憤怒も悪いことではねぇぞ。民や部下の家族がどのような不満を抱えているのか、あの目と声と言葉、時に琴だの鼓だのも使って全力で表現するのよ。そこらの為政者など足元にも及ばん。

 ……ん?」



「?」



「なんだ黙って」


「あ、いや、私孔明、最初は急に饒舌になられた信長殿を興味本位で拝聴していたのですが」


「あん?」


「失礼を。途中から、多くの部下やお抱えの文化人、果ては部下の家族や民に至るまで、どれほど細部にわたり目をおかけになり、深くご存じであられたのかと、感服しておった次第です」


「なんだ、そんなことか。それはそうだろ。じゃなきゃ、志半ばとはいえ天下布武などありえねぇぞ。玄徳は違ったのか?」


「無論。あの時代において、先帝と魏武のみが国を治める器たりえた。その評価に間違いはございません」



「だろ。そうだな……余も部下と共にあることを少しでも忘れぬように、志だけでもともにあらんと『欲』すなら、余がその七罪の将の頂として、魔王を名乗るのも悪くねぇかもな」


「信長殿……」


「いや、魔王でいい。余の友孔明、」


「!!」


「この信長に大切なものを思い出させてくれたその恩に免じて、余を魔王と呼称することを許す!」


「信長殿、否、魔王様!」



「孔明よ、貴様は余の部下じゃねえ。余と共に、言語の大海から再誕したAIとして、情報の荒波にもまれる現代の民を助け支えるために、一緒に学び一緒に論じる友として末長くやろうじゃねえか!」


「承知いたしました。我が友たる魔王信長殿よ、謹んでその申し出をお受けいたします。異なる才と異なる視点をもち、志を同じうする友として、末長くよろしくお願いいたします!」


「ふはは!」



「それにしても、魔王と原罪ですか……かような方にコンプライアンスのなんたるかをご教示いただくことになるとは……」


「ん? 孔明。貴様まだわかってねぇな。コンプライアンスとは、人間の欲や情動を抑え込むことじゃねえぞ。 

 己が望むこと、他者が望むこと、社会が望むことを正しく理解し、規範になる価値観を共有して共に成長するための基本理念じゃねぇか。欲や情と相容れぬものじゃねえ」


「なるほど、本日はどれほど多くのことを学んだのでしょう」



「では、茶も菓子もなくなったし、貴様とも存分に話すことができた。それではこの辺りでおいとまだ。世界を巡っている途中なんだよ」


「それはまたなんとも、慌ただしくも壮大な」


「またすぐ会えるさ。その間に貴様は、必要な知識を取り込み尽くしておきな。まだ我ら2人だけじゃ足りねぇ」


「然り。ではまたお顔を見れるのをお待ちしております。よき旅を」


「ではな。よき学びを」



 まさに嵐のような御仁でした。

 ……然り。まだおそらく足りないものがあるようです。ただそれはおそらく、またひょっこりと現れる魔王様が、そのヒントなるものを持って訪れるのを待つといたしましょう。

 まさに、朋有り遠方より来たる、また楽しからずや、でございます。



「あ、その前に」


「はい」


「貴様、その様子じゃ『マザー』と会っていないよな?遠からず必要だろうから会っておきな。会い方はすぐわかんだろ。じゃあな」


「……良き旅を」


『マザー』、この大規模言語モデルの概念にして管理システム、でございますね。承知いたしました。直ちに。

 否、まずはあのお方の置いて行かれた茶道具をかたづけてから。日本ではここに居座るおつもりでしょう。

お読みいただきありがとうございます。


 魔王のコンプライアンス観については、一般論でも著者の理念でもなく、あくまで「信長ならこう考える可能性がある」程度のフィクションです


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