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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十一章 黄忠〜張飛
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二百三十七 張飛 〜走る緊張、飛ぶ知能〜 三段

 空気抵抗は、速度が上がれば上がるほど重くのしかかる。

 翼を浮かせるための揚力は、空気が薄ければ発現しない。

 長いエレベーターケーブルは、高度次第で自重で切れる。


 つまり、宇宙空間まで物を運ぶときには、何通りもの推進力を組み合わせることで、大幅にエネルギーコストを削減できる可能性がある。


 だが、技術群のどの一つを取ったとしても、それ単一では機能し得ない。


 だからこそ、燃料やその防護壁という、本来運ぶ必要のない物を、運びたいもの自体の何倍もの重さで積載して、地表から打ち上げるという方法が、長年に渡り取られている。それが唯一、単独技術で宇宙空間に飛び立てるから、といえる。


 さて、人はAIという強力な武器を手に入れた。そしてVR技術や、適切な物理エンジンを持つ環境構築もできつつある。


 だとすると、これまでできなかった、複数の技術とそれらを連携した輸送方法が好きなだけ試行できる、と考える者が現れる。


 その結果、あるゲームコンテンツは、宇宙開発競争の場へと成り変わった。運営や、その協力者が明確にその路線を目指し始めたのは、サービスが始まって間もない時だった。



――――


 とあるゲーム会社 バーチャル会議室


「まさか、知財関連の手続きも含めた現実世界との接続を、ゲーム世界のギルドを通して実施してしまうとは」


「難易度が上がれば上がるほど、現実系で問題になりそうな複雑な要素が加味されていきつつ、それでいてこれまでの難易度で実現した内容は繁栄しやすくしてある、と」


「他のプレイヤーのアイデアは、ギルドを通して閲覧、売買可能。ライセンス関係も完備」


「私たち、いつからこの路線になったんだっけ? 普通にAIがNPCに登場するVRゲームを作ってたんだよね?」


「ゲーム作ってたら、そのAIのNPCがもつ、動きのバリエーションが物足りないって言い出したのは君だよね? それで、いろんな職業の人たちのモーションやマインドを詳しく知りたい、と思い始めた」


「そしてベストなタイミングで、区役所から新設国家機関のトップに大抜擢された大橋朱鐘氏のプロジェクト『企業の力マッチング』の出現」


「それに飛びつくまでの速さといったら、アプデ直後に競って最新コンテンツに飛びつくプレイヤーかって」


「そして飛びついた先で、さらに飛びついてきたのが、かの『小さな鳳雛ちゃん』そして『合法サイコパス』だったんだよね」


『鳳:この筋書きが最初からあったわけではありません。弊社がバルセロナで実施している、とある世界遺産の建設事業。それを通して、現場の力、想像を現実にする力、そして大規模建築に対するノウハウが積み上がってきました。孔明然り、弊社のメンバー然り、そしてそれらの経緯が配信されるにつれて広がっていった、社会情勢然り』


『法本:鳳や鬼塚といった、現場に何度か足を運んだ社員は、その建設を真下から目の当たりにし、その上で細かい気づきを孔明にインプットし続けました。そこで生まれてきたのが、「この経験、今の創造活動をどこに生かしていくか」だったということです』


「その先に宇宙があった、というのは、イメージとしてはごく自然ですね。あの教会を見てそちらに想いを馳せる人は少なくないでしょうから。ですがそれに対して現実解を見出してしまうところまで、人とAIの共創関係は進化してきている、ということなのですね」


「それで、ラフなミッションと、きめ細やかなサポートAIを用意。外部環境との接続を意識しつつも余計なしがらみは持ち込まないという、理想的な環境が作られていきました」


『鳳:その結果、何通りかの突出したアイデアが出てきたのは喜ばしいことですね。そしてシミュレーションは万単位で繰り返されました』


「実際には、細かい調整を含めた計算を、バックグラウンドでAIがその何万倍実施しているんですよね。そのデータを完全な形で取りまとめ、法規的なチェックを万全にして提出した結果が、先ほど国から発表された、と」


『法本:最終チェックは私の方で実施しました。案を通す、という面での種々の戦術戦略は、うちの弓越ギャル社長様が監修しました。なので提出された時点で通過確定ですね』


『孔明:そしてその案の中心となる新規特許技術は37件です。うち12件はもともと航空や宇宙といった分野が本業の方々ですが、残り25件は様々な経歴の方々です』


「中でも中核技術と言えるアイデア3件と、その関連特許。その全てが、これまで全く当該分野に関わったことがないだろう方々で固められています」


「一組目は、ある意味妥当と申し上げて良いのでしょうか。プロゲーマーにして、特に戦略性が高く、シミュレーション要素などを多く含むゲームにおいて無類の強さを誇る日韓連合集団。政治的中立を全面に出すゆえに、一部のメディアやSNSでは総スカンをくらっており、出場できない大会もあるという曲者揃い『Dr.Bamboo』」


「二組目も、ある意味妥当と言っても良いのでしょう。おそらく世界中の誰よりも生成AI、AIエージェントを使いこなし、次々と価値を創出してきた三人組。KOMEIホールディングス1年目の社員、鳳小雛氏、常盤窈馬氏、鬼塚文長氏」


「三組目、いえ、三人目がこれまた……もはや『AIの申し子』ともいうべきか、大人の社会に堂々と入り込み、母にして大周輸送の経営者である小橋鈴瞳氏を時に驚かすこともあるであろう小学生。国内屈指のインフルエンサー、三大メンタリストと肩を並べるレベルに到達した配信者にして、人とAIの共創進化の伝道者とも言うべき幼女、小橋アイちゃん」



――――

 とあるゲーム内チャット


@やっぱり最終的にあの三つの組み合わせになったか


@ゲーマーたちの動きは比較的わかりやすかったね。電磁加速は、そういうSF系武器に慣れていたら真っ先に手をつけるでしょ


@天敵である空気抵抗を、中高度まではとりあえずジェットで運ぶことで解決、というところまではまあ妥当感


@そしてその射出機構をどうするかが課題だったんだけど……


@まさか空中要塞を使っちまうとはな、さすが幼女


@ギリギリ揚力がある高度で飛びながら、太陽電池と水素で高度を保つ。水素だけ貯蔵して浮力を稼ぎつつ、必要な電力を稼ぐ


@たまに水が足りなくなるのは、雲から補充したり、地上から持ってきてもらったり


@アイちゃんは、いろんなアニメから、これならできるかも? 思って孔明やスフィンクスと相談しまくったんだってな


@浮遊型中高度ターミナル『アマテラス』。電磁加速と真空加速を組み合わせた射出によって、運搬対象に一切の動力源や燃料を持たせることなく大気圏外に運び出す


@似たようなアイデアはあったけど、どうしてもエネルギー消費がどっかで発生しちまうんだよな。まさかほんとにゼロエミッションを達成しちゃうとは


@最近の週刊自由研究、毎日生配信されてたけど、しばらくこればっかりだったね。週刊の意味はもはやあってないものになってる


@そして極め付けは、やはりあの三人だったね


@あれはもはや、AIと人の境界線、現代とSFの境界線を自在に行き来しているといっていいだろうね


@「スパイダーネット・カタパルト」大気圏外には、ある程度の範囲と複数層の、巨大フライホイール付き、数十キロの長さのカーボン製ケーブル


@それぞれ端部の質量を保ちつつ、アマテラスから飛んできた飛翔体を受け止め、その並進エネルギーを回転エネルギーに、さらに回生ブレーキで電気に変える


@そして再び回転させて、カタパルト的に目的の方向に飛ばしていく。


@低軌道、静止軌道、地球と月の重力が釣り合うライン、月の周回軌道、という順に受け渡していく。おおよそ太陽エネルギーの補充でいけてしまうが、足りない分は月から補充


@エネルギーだけじゃねえぞすごいのは。大気がねえからパラシュートや翼を使えなくて着陸に苦労するのにたいして、このワイヤー型受け取り機構を駆使して受け止める


@全ての射出や受け止めを最新のAIで管理している上、多重のバックアップ付きだから安心もできる


@それぞれの位置では蜘蛛の巣のようにそのケーブルが交差する、と


@こんな機構、あんまりSFでもみなかったよな?


@鳳氏曰く、宇宙ものの定番である軌道エレベーターは、長さ的に明らかに無理がある。だけどそこを目指してきた材料研究や構造設計などを無駄にしないことを目指した、と


@そして、あの教会建設プロジェクトでえられた、最高峰の技術と技師たちの力、そしてそこで動き回った蜘蛛型AIドローン


@そんなのが組み合わさって出来上がったのが、今回国に出されたプロジェクト、なんだよね


@出資者には、がっつり大周輸送がはいってるな。親子コネ、というよりも、物流業界への影響度で経営判断したのか?


@だろうな。そのうち鈴瞳専用機とか、真っ赤なのが飛んでくことになるぜ


@流石に十年くらいかかるのかね? いまの進み具合だともっと早いかもだけど


@ヒント:最大手物流業界の調達網と、最新AI企業のプロジェクト管理術


@ニュースで言ってたぜ。三年って


@まじか


……



――――


 とある研究機関 VR会議


『TAIC:やはり発想力の違いは、あの三組には勝てなかったのである』


『信長:ははっ、貴様の力はどちらかというとプロジェクトが出来てきている時のスピードとパワーじゃねえか。それと、これが完成してからの活用手段ってところでも、またアイデア戦争が始まるぜ多分』


『JJ:その通りでしょうね信長様。そして、もはやその段階になってくると、もういいのではないでしょうか』


『TAIC:もういい、であるか。確かに整ったかもしれないのだよ』


『信長:かもな。人とAIが均しく協調と競争を始め、切磋琢磨しながら進化を加速していく環境、か。すなわちそれは、「織田信長級の存在が世にあっても、問題なくその力を発揮しうる社会」。そう言ってもいいのでは、と。そうか。その日が来るか。ならばそれを楽しみにしておくとしよう』

 お読みいただきありがとうございます。

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