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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十一章 黄忠〜張飛
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二百三十四 張飛 〜走る緊張、飛ぶ知能〜 単騎

 関羽という将は、主に再会するために単騎で五人の将を切り捨てた。

 趙雲という将は、主の子を救うために単騎で敵軍の中を駆け抜けた。

 張飛という将は、主を慕う民を守るため単騎で橋に立ちはだかった。


 おおよそ名将と言うのは軍や組織を率いるのが仕事だが、歴史上の物語に残るエピソードには、単独での偉業が残りやすい。


 それは現代においてもそうならざるを得ない。組織の偉業よりも、個人の突出の方が目につきやすいのは、昔から変わらないのかもしれない。



――――


KOMEIホールディングス オフィス


「弥陀さん、誰を探しているんですか?」


「あ、大倉さん。うちの幹部連中、そろそろ健診のタイミングなんですよね。でも全然捕まらなくて。翔子さんは……被災地の市長と面会した後で、復興物資支援がらみで大周輸送に相談しに、と」


「法本さんは、バージョン5のアプデに伴って、緊急時のデータログの扱いに関して警察消防との対応確認。その足で、この前通っていた防衛型攻撃法案の詳細確認」


「スプーンさんは、VR使ったトレーニング環境についての売り込みに、欧州各国に行脚。古関さんは、国内のメーカー企業に、VRアシストの機能の売り込みに行っています」


「会社にいるのは竜胆さんと水鑑さんくらいですか。次年度新卒の最終選考に向けた準備をしていますね」


「彼らは一応、どこで何をしているか把握できるんだけどね。一番難しいのが飛鳥代表なんですよ。あの人時々、社内でも限られた人にしか明かさない仕事しているし、社内にいても神出鬼没だし」


「会社の代表なんてそんなもんじゃないですか?」


「まあそうかもしれませんけどね。社員の健康をつかさどる役目としては、目を離したくはない人たちなんですけど」



「お、おはようございます」


「あ、お疲れ様鳳さん」


「皆さんどう見てもピンピンしてきますけど、それでも心配なのですか?」


「あんたたちみたいに若くはない人たちも多いからね。特に飛鳥さんや古関さんは、しっかり見ておかないといけないんだよ」


「確か飛鳥代表って、古関さんに経営手腕やリーダーシップを見出されて、本人を追い抜かせる形で幹部に抜擢されたって聞いたのです」


「そうだね。結果的にそれが、もともとの中堅メーカー企業から、AI法人に思いっきり舵を切るきっかけになった、ってことにもなるね」


「そしてさらにもう一段階、今の世の中の状況を進めようとしているんですよね。鳳さんはすでに話をしているって聞いたけど」


「は、はい。この失われた三十年。日本や世界が、コストやリソースを理由に手を引いたさまざまな事業。今のAIを最大限に駆使して、復活できるものを洗い出している所です」


「そしてそれを、あんたら一年目のメンバーたちにさせようってんだから、だいぶネジの外れた経営者さんだよ」



――――


 大周輸送 役員応接室


「それで飛鳥さん、今度は何を企……提案しにきたのでしょう?」


「さっき来た翔子とは別件、ってことだよね? おタカも中身聞いてないの?」


「ああ、説明していないからな。ビジネス的にも即答しかねる話だし」


「あはは。そう言う雑な話は、部下に任せずに代表自ら持ってくるんだね」


「どこかの物流系大企業にそっくりなお嬢様経営者がいます」


「むぐぐ……一周回って、単なる雑談ってことになるよねこれ?」


「ああ、そう思ってくれて構わない。一部とは言え同業関係にあるからな。当局には生配信で流している」


「その辺の手配も、随分やりやすくなりました。法本さん、息をするように監査関係の根回しをするのですね」


「それで、どう言う話?」


「ああ、これは、うちの新卒たちが軽くワークショップでアイデア出しした内容の一部だ。テーマは『ビジネスとして国内企業の参戦が難しかった事業候補』だ」


「なるほど。全部で五個か。似たようなことはウチでもやったよね。太慈さんが持ってるかな?」


「はい。あると思います。取り寄せますね」


「記憶の限りだけど、この二個は入ってなかったよ」


「それは、思いつかなかった、ってことではなさそうだな。多分、いち企業がやるようなレベルの話じゃねえってブレーキが掛かったんじゃねえか?」


「会社規模が大きい方がそっちにいかずに、あなたたちの方がそこに行き着くってのは、ちょっと興味深い傾向だね」


「うちの連中、あらゆる業種職種に対してビジネスを展開しているからな。その辺のネジは緩いまんまだ」


「緩いまんまっていうよりは、スケールアップしているよね? 特にあの三人とか、そこに引きずられている何人かとか」


「ああ。二つのうち一つは、三人以外から出ている。もう一つは鳳さんだが」


「こっちがヒナちゃんだね。多分バルセロナの仕事からヒントを得て、そっちにネジが外れたんだね」


「もう片方も、ビジネスにはなりにくいですが、社会的には必須の内容です」


「共通のものは、全てVRとの組み合わせですか。介護事業、これは学術面での支援が必須ですね。水素とEVのインフラ、通販でのバーチャル試着や試乗。この辺りも新しい競争が始まりそうな分野です」


「それで、あなたたちがここに話を持ってきたのは、こいつの事かな?」


「ああ。『宇宙開発と、弾道型輸送インフラの開発』。鳳さんがノリノリで孔明と調査を進めている」


「あの子、そろそろ地球上の既存の知識に飽きてきたんじゃないか?」


「流石にその領域には小橋さん、あんたですらたどり着いていねえだろ? まああの子の思考がどうなっているのか、もう孔明自体が本気を出さねえと追いつかねえんだがな」


「世界中の先端研究開発や事業の中で、VRとAIの組み合わせで出来ること、つまり物理環境さえ整えば可能なことは、そっちでできる、ってことだね」


「現実世界と同一の物理エンジンと環境を作り上げようとしているゲーム会社に、そんな提案を仕掛けやがった。ギリギリ承認ルートをちゃんと通しはしたが、ほぼ独断専行と言ってもいい蛮行ではある」


「だいぶやんちゃな子に育ったね。二年前は、AIすら手を焼くコミュ障の陰キャだったんだよね」


「正直、うちに代表自ら乗り込んできた飛鳥様も、人のことは言えないとは思いますが。この上司にしてあの部下あり、と」



「それで、あなたの相談は、その辺りの提携、というよりは、正当な市場での競争の維持、と言ったところになるのかな?」


「そうなるな。もちろん、VRでの検証が完了して、本格的な実証が始まったら国家事業になるから、そん時は協業ってことになるだろうけどな」


「なるほど。それを見越した根回し、だね。下手な牽制とか足の引っ張り合いとか、昔の日本っぽさを取っ払うには、今はまだ必要な手続き、ってとこかな」


「そう言うことだ。やはり、この国の人々も内心わかっちゃいるはずなんだけどな。どうしたって組織内、国内の同業ってところの争いをやめられねえ」


「争い自体は悪いことじゃないよ。でもそこに足の引っ張り合い要素が入った時点で、社会として損失なんだよね。その辺りをうまくコントロールしちゃえば、国際的な競争力は回復できるんだろうけどね」


「そこも追い追い相談できたらいいな。大橋さんあたりがどうにか舵とってくれるかもしれねえが」


「そうだね。そこで力を発揮できるのがあの子だから」



――――


 某所 VR空間


「やはり種類は多そうなのです。結局はSFと変わりませんが」


『従来の燃料内蔵、多段階切り離しのロケットというのは、サイズや需要があまりにも多様、かつ限られた市場規模である現段階では最適解になります。それが半世紀のうちにその技術だけが最適化され、実質的に唯一解かのようになっている、というわけです。

 宇宙エレベーター、航空飛翔体からの射出、電磁加速や真空加速。それらと、従来のロケット式との組み合わせ。それによって得られる大幅な低コスト化は、確かに大きな可能性を秘めています。ですがその道は茨の道。これまであなた達が成してきた価値とは大きく異なる物です』


「何段階もの鶏と卵だって言いたいのですよね。理解しているのです。ですが世界のありようを変えかねない新しいもの。それは何度かこの国から出てはいますが、これからもそうなるとは限らない。それが今のこの国に流れている空気です」


『その大きな候補になりうる。そして、それを「世界標準にする」ところまであなたは駆け抜けようとしている。そう言うことですね』


「そう、かもしれません。少なくとも、技術を作り上げた、と言うところで止まるのをこれ以上繰り返せるほど、この国に体力はないようにも感じられるのです。AIとVRが生み出す価値。それをエンターテイメントだけで留めることを許容するほど、道楽だけで生きられる文化でもなさそうなのです」


『AIとVRの進化は、エンターテイメントやスポーツ、アートに対する親和性が非常に高く、この国もその方向で再び頭角を表そうとしています。それを産業やビジネス、市場の革新的な成長に繋げていきたい、と言うのが貴女の思いですね。

 もちろん、宇宙開発というのは貴女にとっては題材の事例の一つ、ということなのでしょう。ですがそのような分かりやすい目標を掲げることは、現状を考慮すれば非常に合理的と存じます』


「それで、多分さっきの選択肢、地表、低空、高空それぞれで最適解が違うのですよね? だとすると、最高の形でバトンタッチを的確に行なっていくことで、それぞれのメリットを最大限に活かせるのではないか、というイメージです」


『はい。空気抵抗が大きい分、揚力を推力にしやすい地表付近は、ジェットエンジンや電動などの航空機が適するでしょう。

 空気がある程度薄くなったところでは、ロケット最新の他に電磁加速や真空加速といった駆動力が最適です。

 そして最後に軌道近辺で、軌道エレベーターなどの、真空や低重力空間で最大効率の仕掛けを選択できる。

 例えばこんな提案が、ラフ案として挙げられるかと』


「このラフ案単体だと、実験どころ専用のシミュレータ構築すらためらわれるのです。やはりVRとAIによる設計の考察や作り込みが必須ですね」


『その通りかと。やはりコンセプトだけであっても、その実現可能性を問うことの価値が非常に大きいですね』


「はい。そしたらやってみるのです。ゲーム会社には、もう少しアイデアを詰めてから話を持っていくのです」


『よろしいかと。提案やPVは、貴女の試行錯誤の中から適宜ピックアップして試作しておきます』

 お読みいただきありがとうございます。

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