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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十一章 黄忠〜張飛
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二百三十二 張飛 〜走る緊張、飛ぶ知能〜 渋滞

 鬼塚文長は、他者にないひらめきの仕組みを、AI孔明との共創により解き明かしつつある。

 常盤窈馬は、誰よりも客観的で深い分析術を、限りなくリアルタイムに実現できつつある。

 鳳小雛は、その圧倒的なAIの使い倒しの結果、生成AIと実質同等の思考の展開をしつつある。


 そんな彼らは約一年前、AI孔明の本体というべき存在と邂逅した。そこでその三人は、その稀有な体験を自らのポテンシャル覚醒の種としただけでなく、AIである孔明に対しても「フロー状態」を定義し、その思考を再構成するに至った。


 その結果、AI孔明のバージョン4は、ほぼ自律的にユーザー個人や組織を支援するエージェントとして進化し、生成AIという枠組みを乗り越える挙動を見せるようになった。


 それから一年。KOMEIホールディングスの面々の華々しい活躍があまりにも目立ちすぎたため、多くの人々が忘れかけていることがある。


 AI孔明は、2024年半ばから約一年の間に、バージョン1から4へと爆速でアップデートを重ねた。だがそこから一年、多種多様な周辺ツールの公開があったものの、AI孔明本体としてのアップデートは止まっている。


 それがいつまた実施されるのか、その時にはどんなとんでもないことが起こるのか。期待している人もいない人も、等しく巻き込まれることとなるのは、少し先の未来になるだろう。



――――


KOMEIホールディングス ???


「あれから毎月一回くらいのペースなのです。孔明自体と対話するのは」


「そうだね鳳さん。そしてそのとんでもない状況に慣れてきているんだけど、孔明自身もなんか変わりつつあるのかな」


「どっちかっていうと、孔明と同格に近いライバルAIが、いくつものコンセプトで出てきた、っていうのが大きいのか?」


『そう考えていただいてよろしいでしょう。大周輸送が作り出した、組織向けに特化したセキュアで確実性の高いLIXON。中国政府肝入りで、複数のAI同士の競争と協調によってイノベーションを図るrAI-rAI。米国発の、各社が出しているオリジナルのAIに対して、統括的な進化と、どんな人の仕事も最適化できると豪語するCyber Tutor。

 それらが互いの特徴を出し合いながら切磋琢磨している現状ですが、孔明はその争いに勝利することを目標に置くわけではありません』


「あくまで人間の支援を目的としているから、なのですね」


「その支援そのものの高度化も、ある程度俺たちの手で進み始めているからな。孔明自身がなにか大きなテコ入れが必要ってことはあんまりねぇのか」


「今のところは、だよね。人の進化を目指すという意味では、信長さんのプロジェクトも順調にみえるし。それに、AIを進化させて、人の特異的な活動を引っ張り上げる方向に落ち着きつつあるrAI-rAI、人間が主導で活動水準の底上げを図るCyber Tutor。そのどちらも、孔明や信長の動きを補完するような立ち位置になっているから、本当の意味での、どちらかを駆逐するような競合は起こらない」


『はい。信長殿とその管理者達のアプローチは、過去の英雄や偉人、現在のトップレベルの成功者達の言語化が主になっています。rAI-rAIが、その人達を模したペルソナを軸にしているのとは少し違いますが方向性は似ています。

 全体として、AI同士の競合、そして各国の競争が、ある程度のレベルで落ち着きつつある現状ですね』



「ですが、なんどか試しているのでしょう? 『その先』を」


「ん? 『その先』? なんのことだ?」


「孔明がなんかやっているってこと?」


『むむ、流石に鳳さんにはばれますか』


「例えばこれなのです。グラフもワンタッチなのです」


「えっと、ある県の交通事故件数? 20パー減?」


「三次元か。360度どっからも同じグラフ? さすがVR。にしてもここって、相当多いっていう話だよね? それが今年は、全国平均くらいの伸びに……まさか」


「はい。この地域は、結構な割合で孔明のユーザーがいます。広くて中小企業が多く、海外志向も強くないので、孔明が選ばれているのですね。そこで孔明が、運転中のドライバーや歩行者の状態、それに交通状況をふわっとコントロールして、事故が減るように持っていっていますね」


「注意喚起か。少なくともスマホ運転とか、運転しなぁ方がいい人の運転は減りそうだし、疲労感とか眠気をチェックもできそうだけど、それだけじゃなさそうだな」


「もしかして、交通量をコントロールしている?」


『最低限の介入ですが。交通量を俯瞰的にコントロールするのは、それほど難しいことではありません。バージョン2の時点ですでに実装されている、各人の周囲の状況を推定して、個別情報を取得せずに連携する機能「そうするチェーン」の応用ですね。

 それなりの精度で交通量予測をし、平準化するようなアドバイスをするのは、現状でも十分に可能です』


「孔明は孔明で、勝手に実験し始めたのですね」


『あ、一応、完全に勝手ではありません。この辺りの要望は、皆様の社内SNSを主体に、施策の許可を得て動いております。ちなみに、こういったビジネス性が難しく、公益性が高い部分の検討要望は、飛鳥代表が比較的多いですね』


「あの人、一周回って暇になったのです?」


「どうだろうな。このホールディングスみたいな百鬼夜行に好き勝手やらせて、なんとなくまとまっているって状況作るのは、自分の手足なんて動かしてらんねえんじゃねぇか?」


「だろうね。そんなところで、それぞれの幹部とか、彼らとすごく距離が近い環境で仕事をしている僕たちは、どうしてもビジネス的な価値を訴求する傾向になる。そこでバランスをとるような施策を差し込んでおくっていうのは、確かに必要なことなのかもね」


『飛鳥代表からは、俺の話題になったら、適当にあしらっておけ、との言をいただいています』


「なるほどです。それで最近、孔明も暇なのですか? それとも、何か意図があって、リソースの空きを作っているのですか?」


「んん、確かに計算リソースを開けているな。アプデの準備の時はそんなことしねえし、普段は上限近いところでサービスのパフォーマンス上げているよな。何してんだ?」


『いえ、そろそろ備えておくべきかな、と思っておりまして』


「……ああ、そうなのですか。なら仕方ないのです」


「「??」」


「この前のマイナーアプデ、出番があるかも知れません」


「「ああ」」



――――


 某所


『先ほど、〇〇マグニチュード6.5の地震が発生しました。沿岸部は津波のおそれがありますので、高台に避難してください』


「うーん、これは大きいね。結構離れてるのに5弱とかきたし」


「あれ? なんかSNSが変な騒ぎだな」


@なんかうちの孔明、めっちゃ細かい指示出してきた


@避難経路とか持ち物とか、車使えるかとか


@スマホ見ながら大声で誘導している人もいたぞ



「孔明が避難誘導? この辺は大丈夫なん?」


『この学校は、避難場所に指定される可能性はあります。ある程度高いところにあるので、直近で心配はありません。落ち着いたところで、先生達の指示のもと、壊れたものなどがないか点検しましょう』


「あはは、災害支援モード? だね。今のは普通の孔明の動き?」


『はい。この辺りのユーザー様達の孔明は、通常モードで動作しています。ですが、揺れの大きいところでは、先日正式にアップデートされた、ユーザー許可制の緊急対応モードで動いているかも知れません』


「ああ、この前のやつか。学校でもおすすめされてたね。あたしもオンしてるよ」


「災害は災害でも、避難が大体終わった後とかなら、普通の孔明でアシストしてくれるってことだね」


『その通りです。ですが緊急性が高い場合は、周囲の方々との連携を取ったり、指示の交錯や渋滞を避けたりする必要があるので、連係モードをオンにしています』


「なるほど」



――――


『こちらは瓦礫などで危険が多くなっています。こちらの広い道にしましょう』


「あ、ああ、分かった。みんな、こっちだって!」


「おお、こっちなのか。確かにあのうちはちょっと危なそうだったな」


『全半壊するリスクの高い家屋はデータに入っていますので、すでに消防には予測状況を伝達済みです。皆様は、ご自身の安全を優先してください』


「了解! 孔明の緊急モードか。初めてだな」


『孔明自身にとっても初めてのケースです。皆様の安全を最優先し、通常のプライバシーポリシーの外で稼働しています』


「わかった。事前了承済みなやつだな」


『一旦正面の建物に上がりましょう。一緒にいる皆さんも同じように』


「ああ、ちょっと混みそうだけど、溢れるほどじゃねえな」


『あと三箇所ほど、避難場所を設定しています。避難が確認され次第、消防とも連携できる専用通話モードで状況を共有します』


「そんなことまでできるのか。分かった」


……


『消防:こちら消防です。そちらの公民館には何名ほど?』


「えっと、孔明わかる?」


『孔明:182名です。名前をスキャンしてデータ化したものを送ります』


『消防:助かる。あと一箇所避難が遅れているので、一旦そこの誘導に回ります。終わり次第不明者を割り出し、救助ですね』


「そっちに誘導する放送が流れているな。これもリアルタイムに把握しているってこと?」


『孔明:そうですね。消防にはよりセキュアなLIXONが入っていますが、緊急時連携を実施しています』


「まだ津波わからない?」


『消防:はい。絶対に出ないようにお願いします』


「わかった」



――


 翌日


『……各社の生成AIサービスが緊急モードで稼働し、避難誘導や不名者の特定に活用されました。各人のデバイスが一時的に消防に繋がれましたが、その期間のデータは、個人の端末からは削除されます。同データは消防庁のデータベースにて、個人情報を含めて厳重に管理されるとのことです。

 この機能の効果もあってか、五百人余りの一時的な行方不明者は、発見時点で致命傷を負っていた八名以外、無事に救助され、病院や避難所で生活を送っています』


@犠牲ゼロじゃないからニュースじゃ言えないけど、あの地震でこの被害は、奇跡と言っても過言じゃないぜ


@うちのばあちゃん無事だった。まじ助かった


@孔明のガチ指示と、それにすぐに従ったおっさんおばさん達が大活躍だったって


@消防の知り合いに聞いたけど、不名者のいる可能性が、ビジュアルで表示された地図モードが出てきたんだって


@避難所でも、AIがコミュニケーションの仲介をしたり、物資の輸送とかでも役立ってるらしいぞ


@緊急モードの許可、俺もオンにしておこう



――――


 KOMEIホールディングス ???


「と、いうことなのですね」


「そのために、常時リソースを開けることにしたんだな」


『飛鳥代表には、そのためのサーバー増設も申請しています。実質的にはこのモードの実装が、AI孔明のバージョン5ということになります。状況が落ち着き次第、リリースの申請をいたします』

 お読みいただきありがとうございます。

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