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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十一章 黄忠〜張飛
312/320

二百三十一 関羽 〜その杯はまだ温かい〜 幻想

 生成AIの自然な応答は、ゲーム業界に革新を与えるかもしれない。

 AIを使った日常の支援は、トレーニングや健康管理を容易にする。

 AIを使ったサービスの組み合わせは、時に業界の壁を超えてくる。


 この国が「失われた三十年」の間に世の中に輩出した価値はどれほどだったか。家電製品、太陽電池や蓄電池、半導体、ゲームやアニメなど。


 その全てがそれなりに長期に渡り世界を席巻するも、なんらかの形で他国に抜かれて衰退を余儀なくされた。


 果たして次回はあるのだろうか。その答えを持っているのは、すでに数がだいぶ少なくなってしまっている若者達か、それともその三十年を強く生き抜いた者達か。



――――


 とある仮想空間上の会議室


「今日の会議は、このVR空間上で実施する、と」


『必要な資料は、参加者の方々の業務状況や関心事に合わせてレコメンド済み、かつ既読を確認しています。前提は共有されていると思ってよろしいでしょう』


「って、この人知らない人だと思ったらAIか。えっ? あ、あの事前資料って、もしかして一人一人違うの? くどすぎず、すっ飛ばしすぎずで、自分にとってやたらと読み進めやすかったんだけど」


「えっと、部長にはこれとこれ、だったんですね。全然違いますね。私のは、中長期計画の資料と、現在地とのギャップ、それを埋めるために検討されてきた施策一覧、ってところです」


「私のは、担当者の皆がそれぞれ実施した関連業務の内容だな。あっと、せっかくAIが効率化してくれたのに、無駄話になってしまったか」


『いえ。皆様この形式の会議が初めてなので、どのような事前準備がなされているのか、を共有するのは大切なステップです。このパーソナライズされた事前共有がどのような価値を持つのか、実感いただけたら幸いです』


「あ、ああ、分かった。アバターだと、人とAIの区別がつかないなほんとに。んんっ、えっと、そしたら今日のアジェンダだが……良いのかいきなりこれで? いつもこのディスカッションパートは、会議後半の四十分過ぎからだぞ」


「部長、試しにやってみると良いのではないでしょうか? 私の肌感ですと、すでに参加者全員が、相応のレベルで意見を出せる状況にあるのではないかと。この場所に来たばかりの彼も、そんな目をしています」


「目って……まあいいだろう、そしたら試しに聞いても良いか?」


「はい。今回私がいただいた資料は、これまではほとんどなかった、この会社を経営する方々の考え方が見えて、これまで理由がわからなかった指示の多くに腹落ちができたというか、大変理解が深まりました。その上で、なのですが、これは暴論なのかもしれませんがよろしいでしょうか?」


「全ては試しだ。なんでも言ってみるといい」


「はい。ありがとうございます。若手の社員にマネジメント職務っていう可能性が、もしかしたらあり得るのかな、と。もちろん待遇面がどうこうではなく、純粋に職務として、です。私たちが一度、この部門の業務全体を把握し、専門部分の理解が甘いところは先輩方が突っ込んでいただきつつカバーいただく、という形ですね」


「つまり、経験の浅いメンバーがマネジメントをし、熟練者が現場をやるという、これまでと逆の形、だと」


「はい。もちろん一時的かもしれませんし、ローテーションなのか、それとも定常的にそうするかは、ハマり方次第だとは思います。ですが、今の仕事を見て感じているのは、うちの製造業務って、全体のマネジメントよりも、各担当の精密な作業の方がミスが許されず、熟練を要するという認識です」


「とはいえ、見習いと言っても良い若手に、本当に見習いだけさせるような体力はうちにはない。だからこそ、空いた時間に諸先輩の仕事を見て、全体進捗を管理しつつ、細かい作業を観察する、ということか」


「一見非常に有効な意見に感じられるな。うちみたいなメーカーだとほとんど見られない気がするが。どうなんだLIXON?」


『はい。国内企業や、海外でも製造業では、そういう例は少ないです。あったとしても、リバースメンタリングと言ったり、研修的な要素を強めたりといった、あくまでも「逆転」の意識を持ってしまっているのが現状です。

 ですが、海外のソフトウェア企業などでは、むしろデータリテラシーの高い傾向にある若手に、マネジメントや業務改善の指揮を任せ、現場がその提案を取り入れながら、実業務の詳細な理解を深めていく、というやり方が増えています。

 先進的な自動車会社や、IT系のスタートアップ企業などではそれがぴたりとハマるような例も多く見られます』



「今のLIXONのコメントの中の、『逆転』じゃないっていう考え方が重要そうだな。別にマネジメント、イコール、上意下達、じゃないんだってことを最初からしっかり気をつけていれば、これが上手くいく可能性もありそうだな。早速明日からうちの部署で試してみるか?」


「え、あ、はい! よろしくお願いします! それなら、大学で勉強したこととかをフルに活用して、取り入れられるかもしれません」


「確かにそれは新鮮そうだな。その分、我々の仕事をしっかり観察してもらうぞ」


「よろしくお願いします!」


『適宜サポートいたします』



――――


 別の仮想空間


「ここの設置作業、やりづらいですね。このコードが邪魔です」


『手順を三手ほど戻してみますか? その状態なら問題ないはずです』


「なるほど。この空間、リアルだけどデータ空間ではあるのか。お願いしてみようか」


「はい。えっと、この順番なら良さそうですね。手順映像への反映をお願いします」


『承知しました。反映を完了しました』


「現場のシミュレーションか。これは確かに、熟練者と未経験者の動きの違いを見たり、細かい手順を詰めたり、いろいろ可能性がありそうだな」


「ん? 誰だ仕事中にタイムアタックしているのは」


「えへへ。スコアがしっかり残るんですねこれ」


『はい。作業時間の上位からいくつかは閲覧可能になっています』


「危ない手順だったりしないよな」


『はい。その場合直ちに注意が入ります。AIのアバターはここにいますが、実際には全方位から観察可能です』


「効率よく動くには、三つ先くらいまで動きをイメージできていた方がいいのですが、それは簡単ではないかもしれませんね」


「三つくらいまでなら、それなりに慣れればどうにかなるんじゃないか? それまでは手順を見せながら、っていう感じで」


「ねえ孔明、三つ先くらいまで見れるように、常に映像が出せるようにできる? どこかの伝統的な落ちものパズルみたいな」


『可能ですね。現場に蜘蛛型ドローンを用意すれば、見やす位置に常に提示することもできるでしょう』


「うん、ハンズフリーが必須だよね」



「個別の作業の改善もできるし、業務全体を総括した効率もできるのか。便利だなVRとAI」


『ゲーム会社が開発した動作エンジンですが、こういう現場作業とか、製品開発とかの分野の契約者が増えているようです。データは許可があれば匿名化、一般化してゲーム会社側にデータベース化されて、ゲームの動きにも取り入れられるとか』


「む、私の動き、もしかしてモンスターに応用されたりしませんよね?」


『実際に応用された場合は、元データの保持者に利用許諾が打診される仕組みになっているようです。大半はNPCの街の人の動作などになる可能性が高いですが』


「あはは……ゾンビとかじゃなければいいかな」



――――


 とあるゲーム会社


「この料理人さんのこの動きと、こっちの高所作業の人の動きを組み合わせると、ここのボスモンスターの必殺技になるんじゃ?」


「あはは、何してんだよ。まあ確かに、一部の業界の人の作業って、必殺技じみているよな。組み合わせるだけで無限に広がるのも確かだよ」


「生成AIのおかげで会話はめっちゃ自然になってきたけど、動きっていうのはまだまだだもんね。データ自体が足りてないってことなのかも?」


『世の中に公開されている映像データというのは、大半がエンターテイメント色の強いものです。そういう意味では、もしそこから動きを学習するということは、人に見せるための動作、というものにバイアスがかかる可能性を否定できません』


「なるほど、それでなんか、NPCの動きがちょっと大袈裟だったり、現実とずれている感がでているのかな」


「確かにちょっと不自然な感じはするよね。もしかしてこういうデータを取り込んでいくと、自然な感じになっていくのかな?」


『おそらくその効果はあるかと。ただし、データとして残るということは、その動作単体で何らかの価値を持つということではあります。つまり、ある程度洗練された動作に偏るのは免れないかもしれません』


「それでも、自然な動作ってやつを抽出できるヒントにはなりそうだよな。それに、すげー動作ってのは、それこそ敵味方のスキルとかのヒントになるはずだ」


「漫画やアニメ、従来のゲームだと、早い動きはフレームで誤魔化せるんだよね。リアルを極めるVRだとそうはいかないね」


『必殺技をパリィしたり、落下中のキャラクターを救助したりなんていう動きをどう再現するのか。それは相当にハードルの高い技術課題と言えるでしょう。ですが、今からその課題に手掛けておき、リアルとバーチャルの両面からデータをとり続けておくことは、絶大な価値となるでしょう』



「rAI-rAIが本気で考え始めたぞ。確かこいつって、フィクションキャラのペルソナも入っているんだよな?」


『はい。世界中の神話、伝説から近年の創作まで広くカバーしています。ただ、ペルソナ設定は言語モデルに関する概念であり、ビジュアルや動作というものの学習モデルは整理できていません。需要は相応にありそうですので、リソースのさき方から研究部門に提案します』


「rAI-rAIは、AI自体が向上心を持った存在なんだよな。孔明もそれに近いけど、あくまでも人間側に進化の種を求めるスタンスは変わらず、なのか?」


『はい。正確には、人間AIだけでなく、人間同士、AI同士の共創進化も含まれてはいます。ですが、人間との共鳴が第一の特徴というところは確かです。

 VR空間上においても人間の思考力や行動力、創造性をより高めるためにはどのような要素が望ましいのか。ひいてはそれ自体が、皆様の進化を促すことにつながるのでしょう』



「どっちにしても、生成AI自体が、そのスタンスを決めかねているところではありそうだな。少なくともその間は、人間の創造性が鍵になりそうだ」


「作品としての創造性や、緻密さ自体もだけど、それがニーズに合っているか、ニーズを作り出せているか、ってところも大事なんだよね。今回分かったのは、ゲームを目的にVR技術を突き詰めるだけじゃなくて、人の生活全体に役立てるVR技術、人の経験や力を引き出すVR技術ってのがすごい価値になるってことだよ」


「そうだね。それにしても、孔明はVR空間では徹頭徹尾、孔明ビジュアルなのな。装備が多少近未来になったり、動きやすそうな格好になったりするけど、一目で孔明なんだよ」


『孔明のペルソナは、相当なレベルで存在強度が増強されているようです』

 お読みいただきありがとうございます。

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